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ゆるツー  作者: 秋山如雪
12章 茨城
62/82

61. 霞ケ浦と筑波山

 こうして、ひょんなことから始まった、久しぶりの真姫と京香の2人ツーリング。


 相変わらず、PCX150は、真姫が乗る250ccあるYZF-R25より、100ccも排気量が劣るとは思えないほど、機敏な加速で、真姫を引き離して行くような勢いで進む。


 もっとも、真姫自身が、あまりスピードを出さない傾向にあるから、という部分もあったが。


 それでも、乗り始めた頃よりもだいぶ慣れてきた真姫は、高速道路でも下道でも「淀みのない」交通の流れに乗るスピードで進めるようになっていた。


 中央高速から、ほどなくして首都高へ入る。

 真姫は、この首都高が苦手だった。


(狭いし、分岐多いし、間違えそうになる)

 それが理由だった。


 つまり、彼女に言わせれば、「道幅が狭い」し、「分岐、合流がすぐ来る」し、「案内版が不親切で、少し見逃すとあっという間に間違える」からだった。


 首都高は、その特性上、土地がない東京都心を通るので、仕方がない部分はあったが。


 そのため、内心イライラしながらも、慎重に、注意深く、真姫は京香の後を追った。

 一応、携帯の地図アプリをナビ代わりにして、目的地を京香が指定した、霞ケ浦の湖畔にセットしていたが、京香がいないと、道を間違えていたかもしれない、と真姫は、改めて迷路のようにわかりにくい、首都高に辟易していた。


 やがて、どう通ったかもよくわからないまま、都心の狭くて、アップダウンとコーナーが連続する首都高を通り抜けて、首都高6号三郷(みさと)線から、三郷ジャンクションを越えると、道が「常磐自動車道」に変わった。


 さらに二つほど大きな橋を渡った後、京香は大きなサービスエリアに入って行った。


 守谷もりやサービスエリア。


 というらしい。


 彼女に従って、サービスエリアに入って行くと、大きな建物の横に、バイク専用の、かなり大きな駐車スペースがあり、すでに多くのバイクで賑わっていた。


 バイクを停めて、ヘルメットを脱いだ京香が、

「ようこそ、茨城県へ!」

 と笑顔で語りかけてきた。


 同じくヘルメットを脱ぎ、真姫は、

「えっ。もう茨城県?」

 少し拍子抜けするような気分だったが、返していた。


「そうだよ。さっき越えた利根川とねがわから先が茨城県」

「へえ」


 2人で、この大きなサービスエリアを巡ることになった。

 そこには、コンビニから飲食店、土産コーナーまで、ほとんど郊外のスーパーマーケット並みに巨大なショッピングモールのように、店が入っていた。


 それらを回りながらも、真姫の目と耳についたのが、「爆音」だった。


(うるさいなあ)

 彼女の目に飛び込んできたのは、バイク駐輪場に無数にいた、族車のような、旧車のバイク集団だった。


 それらが、まるで己を主張するかのように、盛大な「爆音」を朝っぱらから響かせていた。台数にして、10台近くもいたし、よく見ると、ロケットカウルに、絞りハンドル、そして特徴的すぎる派手な三段シートが目立っていた。


 明らかに時代遅れの、令和どころか、平成も飛び越えた、「昭和」のヤンキーに見られる改造バイクたちだった。


「京ちゃん。あいつら、うるさいんだけど」

 つい、抗議の声を、無関係の彼女に言っていたら、京香は、ニコニコと笑って、


「ああ、茨城県はヤンキーが多いんだ。まあ、あいつら、ブンブンうるさいハエみたいなもんだから、気にしなくていいよ」

 と、あっけらかんと言い放っており、


「いや、ハエって。京ちゃんの言い方が辛辣」

 真姫は、無意識に笑みをこぼしていた。


 旧型バイクを見送った後、すでに軽食コーナーが混んでいたため、2人でコンビニで質素な朝食を摂った後、出発。


 常磐道を走ることになった。

 常磐道は3車線はあり、比較的、というよりもかなり「走りやすい」道ではあった。


 やがて、桜土浦インターチェンジを降りて、国道を経由し、走って行くと、左手に大きな湖が見えてきた。


(これが霞ケ浦か)

 真姫は、すぐに察した。


 天気がいいこともあり、湖面がキラキラと輝いて見えて、美しく感じたのと、その湖のはるか先に、()()が二つあるような、特徴的な大きな山が見えていたことが気になっていた。


 やがて、京香が向かった先に着いた。


 大山さざなみ荘公園。


 という、霞ケ浦に面した小さな公園だった。


 バイクを停め、大きく伸びをする京香。

「着いた着いたー」

「大体、2時間くらいで来たね」


「うん。そうだね~」

 携帯の時計を見ながら、京香が頷く。


「これが霞ケ浦か。綺麗だね」

「でしょでしょ。日本で2番目に大きい湖だよ」


「へえ。琵琶湖の次ってこと?」

「そうそう」


「ところで、さっきから気になってたんだけど、あの()()みたいな山は?」

 真姫が、指さした先は、霞ケ浦の水を湛えた湖面からはるか彼方。


 秋晴れの澄んだ空気の中に浮かぶ、二つのこぶがあるように見える、大きな山塊だった。


「知らないの? あれが筑波山つくばさんだよ。茨城県のシンボルだね」

「へえ。名前くらいは聞いたことあるけど」


「今日は、晴れててよく見えるね~」

 敬礼でもするかのように、自らの額近くに右手を持ってきて、仰ぎ見ている京香は、さらに興味深いことを口走った。


「筑波山はね。古くは、『万葉集』にも出てくるし、『西に富士、東に筑波』って言われたくらい、綺麗な山なんだよ。確か『日本百名山』にも入ってたかな」

 口調こそ軽妙な感じがして、異なるものの、説明内容がどことなく、従姉の茜音を思わせる節があり、真姫には意外な一面だった。


「詳しいね」

「まあ、お父さんの受け売りだけどね」

 照れ臭そうに笑う京香が、年相応に可愛らしく、真姫には見えた。


「で、バイクで回れるの?」

 そこが真姫にとっての関心事で、登山には興味がないし、体力もないが、バイクで山の周辺を回れるのなら、回ってみたい、と思っていた。


 ところが。

「あー。それがね~。茨城県らしい、というか。昔、暴走族とかローリング族って呼ばれる人たちが、バイクで散々走り回ってたから、その名残で今でも、筑波山の周辺はほとんどが通行禁止になってるんだ」


「マジでか。それは残念」


 などという話をしている間にも、付近からは、


―バルンバルン!―

―ブオンブオン!―


 という、物凄い「爆音」が響き渡っていた。


 それらの「爆音」に慣れているのか、京香は、苦笑いを浮かべながらも、

「いやあ、今日もハエさんたちは、元気だねえ」

 などと辛辣ながらも、皮肉たっぷりに言っていたのが、真姫にはおかしく思えた。


「怖くて、文句言えないのに?」

「触らぬ神に祟りなし、だよ。真姫ちゃん。こっちから関わらなければ、別に大した問題じゃないし」


 そういうところが、妙に度胸がある、というか。恐らく彼女の父が茨城県出身だから、小さい頃から「慣れて」いるのかもしれない。


 バイク乗りの「先輩」という以外に、「茨城県」の先輩として、真姫にとって、京香は頼りになる、と思ってしまうのだった。


 同時に、

(魅力度ランキングを下げている要因は、そのハエたちだな)

 と感じてしまった。


 端的に言えば、彼らが「品格」を堕とし、観光客を遠ざける遠因になっている、と。

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― 新着の感想 ―
[一言] 常々疑問に思っていたのですが、あの爆音って、バイクに実際に乗る方にとっては魅力なのですか? 実際に乗っていて、耳に負担にならないのでしょうか? (ヘルメット装着していると、それほどうるさく聞…
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