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ゆるツー  作者: 秋山如雪
12章 茨城
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60. 魅力度ランキング最下位の県

 秋。

 真姫は、誕生日を迎え、17歳になった。

 彼女が、今のバイクに乗り始めてから、ようやく1年が経過していた。その間、様々なことがあり、様々な出逢いが彼女を取り巻いていたが。


 ここのところ、実家の仕事の手伝いが忙しいらしい、親友の京香とはゆっくりと同じ時間を過ごせてはいなかった。


 LINEのバイク友達共通グループから、その京香が、ある時、発信したのがきっかけだった。


―今度の土曜日に、茨城県にツーリングに行きたいんだけど、付き合ってくれる人、いる?―


 しかし、それに対する二人の回答は。


―ごめんね。土曜日はちょっと用事があって―

 と蛍が遠慮がちに断り、


―茨城県? パスパス~。そんな魅力のない県なんて―

 杏は、「茨城県」に反応し、露骨に嫌がっていた。


―杏ちゃん、そんなことないよ。茨城県にも魅力はある!―

 京香は、半ば向きになったように力説していたが、杏からの返答はなかった。


―じゃあ、真姫ちゃんは?―

 問われて、改めて真姫は、思い出していた。


 昨日のネットニュースで見たことを。

「茨城県、魅力度ランキング最下位を更新」

 そのネットニュースの記事のタイトルだった。


 つまり、日本全国の47都道府県の魅力度ランキングを調査したところ、最下位が茨城県。なお、1位は10年以上連続で北海道だった。


―茨城県って、何があるの? 確か、魅力度ランキング最下位だよね―


 真姫にとっても、そこがネックで、判断に迷っていた。


 すると、

―真姫ちゃん。そんなランキングなんて、当てにならないよ~―

 可愛らしいパンダのスタンプを送ってきた、京香が続けた。


―じゃあ、言ってみて―


―そうだね~。納豆、とか―


―私、納豆嫌い―

 にべもない、否定の言葉を打ち込んだ真姫に対し、京香は、笑顔のスタンプと共に、


―ああ、そうだったね~―

 と、思い出したように、しかし実にあっさりと返してきたかと思うと、


―干し芋、海鮮、旧小学校、霞ケ浦(かすみがうら)袋田ふくろだの滝、牛久うしく大仏、竜神大吊橋、筑波山つくばさんとか―

 妙に詳細な情報を挙げてきたから、真姫は驚いて、つい、


―茨城県観光大使か?―

 と返していた。


―言ってなかったっけ? ウチのお父さんの実家が茨城県で、父方の先祖は、茨城県出身なんだよ。だから、小さい頃、よく行ってたんだ~―

 真姫の知らない情報が上がってきていた。


 つまり、先日の杏の祖父母が浜松にいたように、京香の祖父母も茨城県の出身ということなのだろう、と推測する。


―もっとも、今は祖父母が近くに移住してきたから、元・田舎って感じかな~―

 京香によれば、そういうことらしい。


 真姫は、画面の向こうを見て、小さな溜め息を突き、

―わかった。付き合うよ―

 と返していた。


 茨城県に「本当に魅力がない」のかを確かめるため、と久しぶりに親友の京香とゆっくり過ごしたいという理由もあった。


 何しろ最近、真姫は受験勉強で、京香は実家の仕事で忙しい日々が続き、お互いの共通時間を持てていなかった。


 それはそれで、京香のことを信頼し、好意的に思っている真姫にとっては、寂しいことだったからだ。


 杏と蛍は当然、不参加。杏の理由は明らかだったが、蛍の理由は曖昧で、「用事」と言っても、実際には「茨城県に行きたくない」ということを隠すためのものかもしれなかったが。



 当日、土曜日は、秋晴れの快晴の1日だった。

 ようやく夏の暑さ、残暑の暑さから解放された10月下旬。


 朝晩は肌寒く、陽が落ちるのも早くなるが、日中はまだぽかぽかと暖かい日が続く。

 バイク乗りにとっては、むしろ日中の気温が20度前後の、「快適」な気候になる。

 つまり、数少ない「バイク日和」だった。


 待ち合わせは、京香の家だった。

 真姫にとって、馴染みがあるし、距離的にも近いからだ。


 出発は午前7時。

 早朝と言っていい時間で、京香によれば、


―常磐道は、他の高速と違って、そんなに混まないけど、それでも渋滞する前に抜けたい―

 とのことだった。


 朝、真姫が京香の家に着くと。


 京香の愛車、PCX150の白い車体が置いてあった。

 同時に、猛烈な寒気が彼女を襲う。風が吹いてくる度に、寒さを感じるため、彼女はほとんど真冬並みの、防寒ジャケット、ヒートテック、重ね着、冬用グローブという装備で、家を出て来たのだった。


 インターホンを押して、彼女を呼ぶ。


「おはろー。いい天気だね~」

 いつものような挨拶で、出てきた京香は、オシャレな格好に見えた。


 バイクの車体に合わせたのか、鮮やかな白色の防寒ジャケットに、動きやすそうに見える紺色のチノパン。首周りには、チェック柄のスカーフにも見える、ネックウォーマーを装備。

 防寒対策としては、申し分ないように見える。


「おはよう。寒いね」


「茨城はもっと寒いよ。何しろ田舎だからね~」

 呑気に、緊張感のない声を上げている京香だったが、真姫にとっては、その「緊張感のない」声が逆に落ち着くのだ。


 癒される、と言ってもいい。


 とにかく、その日は、京香の先導で、「茨城県」を1日中回ることになった。


「高速で行く? 下道で行く?」

「うーん。下でもいいけど、5時間くらいかかるよ」


「5時間? ダルっ。じゃあ、いいや高速で」

「言うと思った」


 すでに、真姫の言動を予想して、彼女はプランを立ててくれていた。

 曰く。


 最寄りの国立府中インターから中央道に乗り、首都高を経由して、常磐道へ。途中で降りて、下道で茨城県の中心を目指す、と。


(中心ってことは、水戸?)

 と真姫は、予想していたが、後に違うことが判明する。


「茨城までどのくらいかかる?」

「んー、まずは霞ケ浦を目指すけど、それでも2時間くらいかなあ」


「まあ、下で5時間よりはいい」

「OK。じゃあ、レッツゴー!」

 朝から元気がよくて、テンションが高い、京香。


 真姫の目には、いつも以上に、明るく見えるが、それは、彼女が「田舎」に帰れるという喜びから来るものだろう、と予想した。


 京香が、どうして「茨城」行きを思い立ったのか、はわからなかったが、こうして、「魅力度ランキング最下位」の県へのツーリングはスタートした。

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