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ゆるツー  作者: 秋山如雪
11章 静岡
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59. 牧之原台地

 御前崎で合流した真姫と、茜音。

 茜音の125ccのモンキーの後を、とろとろと着いて行くことになった真姫は、すでに諦めていた。


 この「姉」のペースに巻き込まれることに対して。


 御前崎を出た後は、北上し、真夏の富士山を目指すかのように、北に向けて動き出していた。


 すぐに市域が「牧之原まきのはら市」に変わる。

 そして、道路脇に特徴的な、丈の短い生垣いけがきのような農園がたくさん見えてくる。


(これは、茶畑かな)

 静岡県と言えば、お茶、特に日本茶の生産地として有名なことを真姫は思いだしていた。


 茜音は、相変わらずマイペースに進みながらも、安全運転をしていたが、さすがにこの炎天下の暑さに参ったのか、1時間もしないうちに、コンビニに入った。


 アイスを買ってきて、戻ってきた後、コンビニの駐車場で、アイスを一気に食べ、熱中症対策の塩飴を舐めながら、彼女はおもむろに語り出した。


 それは、真姫にとっては、懐かしくもある、あの語り口だった。


「真姫ちゃん。この辺、なんでお茶畑が多いか知ってる?」

 首を振りながらも、


(またか)

 と思う真姫。


 茜音の、歴史の蘊蓄が展開される時のパターンだった。

「静岡県は、お茶の産地として有名だけど、この牧之原台地は、実は大変な歴史があってね」

 前置きしてから、繰り出してきた。


「幕末に、徳川幕府が薩長によって事実上、解体された後の事。今まで武士として、つまり特権階級として、言わば『支配する側』にいた、徳川家の武士たちが路頭に迷いそうになったんだ」

「何で?」


「何でって、そりゃそうでしょ。何しろ徳川家の家臣だけで、とんでもない数がいたわけ。それが維新によって、江戸、というか東京にいられなくなって、仕方がないから、元の領地の静岡県に帰ったけど、仕事がないと食べていけない」

 相変わらず、有無を言わせない、教師のような口調で、彼女はぺらぺらと話を展開していた。


「そこで、考えついたのが、この『お茶』だったわけ。この辺りの牧之原台地ってのは、お茶の生産に適した土地だったらしいけど、それでも当時は荒れ野原だったらしい。それを300人以上の武士で、開墾して、今のようなお茶の繁栄を築き上げた。考えてみれば、すごいことだね」

「まあね」


 そう、答えつつも、ある意味、真姫にとってはあまり「興味のない話題」ではあった。


 それでも「街に歴史あり」ということを、茜音は伝えたかったらしい。


 だが、再び走り始めた茜音に着いて行くと、やがて国道1号に入り、バイパスのような広い道になり、大井川を越える橋を渡った。


 さらに3、40分進み、道の駅宇津ノ谷(うつのや)峠で休憩。


 そこには、静岡県らしい「お土産」として「お茶」がたくさん売っていた。


「真姫ちゃん。ご両親にお土産でも買っていけば?」

 茜音自身が、彼女の母にお茶を買って行くということだった。


 なんだかんだで、自由人だが、周りのことを考えている茜音は、そういう点では常識人だった。


 仕方がないので、真姫も土産として、何か買おうと見ることにした。


 土産物コーナーには、お茶、みかん、それに定番のお菓子などが売っていた。


(父さんと母さんに、お茶とみかんでも買うか)

 一応は、3日間も不在にしていたし、何も言わずに外泊を許可してくれた両親でもあったから、真姫も土産を買うことに抵抗はなかった。


 そこから先は、大動脈の国道1号をひた走り、国道139号から、山道を登り、行きと同じように、富士山麓の水ヶ塚公園に立ち寄って、御殿場から山中湖を抜けて、道志みちを辿るルートになった。


 だが、実際問題として、下道で帰ることになると、5、6時間はかかる。


 夕方。陽が傾いてきても、2人はまだ国道138号にいるような状態だった。


 しかも、その日は日曜日だったため、道路が混んできており、東京方面に向かう上り線は全体的に「混んで」いた。


 茜音は、休憩に立ち寄った、道の駅すばしりで、晩飯を食べながらも、携帯電話で渋滞情報を調べている真姫に対して、


「急ぐことはないって。どうせ混んでるでしょ。こういう時は、慌てない方がいいんだよ」

 と、実にのんびりと構えているようだった。


 事実、夕方になり、ひたすら上り線が混み合っている道路は、地図アプリで見ても、下道も高速も「真っ赤」になっていた。


 茜音の提案で、途中の日帰り温泉に立ち寄り、渋滞が引ける午後9時まで待ってから、帰路に着くことになった2人。


 春や秋とは違い、この時期はまだ、夜でも寒くないのが、バイク乗りとしては幸いだった。


 渋滞を避けて時間を遅らせても、結局「寒さ」が天敵になる季節は、バイク乗りに取っては、大変なのだ。


 春先に、京都に行った時の帰路とは、違った茜音の側面を見た、真姫は、無事に深夜に自宅に帰りついていた。


 高校2年の夏が終わり、彼女にとって、16歳のツーリングが終わりを告げた。

 9月に17歳の誕生日を迎える真姫。


 バイクに「自由に」乗れる時間は、実は彼女にはそれほど残されてはいなかった。

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