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ゆるツー  作者: 秋山如雪
1章 秩父
6/82

5. 秩父の名物

 改めて、見ると。

 ギャルの白糸杏のバイクは、黒と白を基調としたカラーリングのスズキ GSX250Rだったが。ヘルメットを思いっきりデコっており、何だかよくわからない花柄やら、プリクラのような物が貼ってあり、しかもピンク色の派手派手だった。


 一方の、道産子の若松蛍のバイクは、カワサキ ニンジャ250。カワサキのイメージカラーとも言える、ライムグリーンの車体が美しい、まだ新車に近い状態の新古車だった。ヘルメットは、彼女だけフルフェイスの黒いヘルメットをかぶっていた。


「とりま、秩父湖行って、ワンチャン、大滝でフロリダ後、あたしのふぁぼのわらじカツ丼で、おけ?」

「りょ」


 杏と、京香はすっかりわかり合っているみたいだったが、会話内容もロクにわからず、何が何だかわからないまま、真姫は着いて行く羽目になった。


 先頭は、パリピギャルの杏、2番手は道産子の蛍、3番手に真姫、そして最後尾が京香という順番で、即席マスツーリングがスタートする。


 だが。

(流れ悪いなあ)

 国道299号から、秩父市内に入り、国道140号に抜け、そのまま真っ直ぐ奥を目指すだけなのだが。


 やたらと流れが悪く、しかもほとんどが1車線で進まない。

 休日はいつもこの辺りは混み合うが、天気がよく、しかも午前9時を過ぎた辺りだとなおさら混むのだ。


 そのまま流れの悪さがずっと続き、道の駅あらかわを越え、荒川の橋を越えた辺りからようやく流れが良くなってくる。


 見ると、先頭の杏と2番手の蛍が、口を開いている。何か話しているように見える。


 聞こえないはずなのに、何故だろう? と真姫には不思議に映った。


 秩父鉄道三峰口(みつみねぐち)駅を過ぎた辺りから、辺りは新緑に包まれる。両脇には濃い緑色を放つ木々がそびえ、森の中を走る快適な道になる。


 休日のその日、どちらの車線もライダーの姿が多く見られ、時折、手を上げて「ヤエー」をしてくるライダーもいた。


(速いな)

 ただ、真姫は、先頭を走る杏が予想以上に速いことに気づいていた。


 マスツーリングの常で、速い奴のペースに引きずられる。それが「遅い」真姫には少し苦痛に思えた。言い換えれば「ついて行くだけでやっと」の状態だった。


 やがて出発から1時間ほどで、ようやく目的地にたどり着く。


 二瀬ふたせダム。そう呼ばれるダムを見下ろす駐車場で、杏はバイクを停めた。

 そこからは、荒川の流れ、そして秩父湖が眼下に見下ろせる、絶景が広がる。新緑に映えるダム湖が圧倒的な存在感と共に広がる。都内では到底見ることができない光景だった。


(おお。いい眺めだ)

 初めて見る絶景、そして天気が良かったその日、真姫の目には陽光に照らされて、キラキラと光る湖面、果てしなく広がる青空が目に焼き付いた。


 そうして、柵の前で感動のあまり、携帯で写真を撮っていると、いつの間にか隣に例のギャルが来ていて、


「ヤバみ? 3150(サイコー)? いた?」

 と聞いてきたので、真姫は、


「はあ? 沸く? 何それ、意味わかんないんだけど」

 と返したので、彼女は大袈裟に笑い出し、


「きゃははは! 草! あんた、イケボだし、あたしは、すこ」

 真姫には、杏が何を言っているのか、正確にはわからなかったが、何故だか気に入られていた。


(こいつ、苦手)

 一方の真姫は、やはりこのギャルの妙なテンションには、ついていけないのだった。


 時刻は、10時を回ったところ。

「どうする? もう店、行く?」

 携帯を見ながら、京香が杏に質問していた。


「そだねー。ここから1時間くらいかかるし、どうせ行列できるっしょ、あそこ?」

 代わりに、道産子の蛍が杏に尋ねていた。


「あーね。大滝寄ったら、無理ゲーだし、いいんじゃね?」

 という、杏の「鶴の一声」で4人は、杏の先導の元、再び来た道を走り出す。


 道すがら、真姫が観察すると、面白いことがわかった。

(あいつら、通信してるのか)


 それは、杏と蛍がインカムらしき物を装着し、走行中も話していることだった。

 どうやら小型のインカムを装着しているようだった。


 1人で走るのが好きで、そういう発想すらなかった、真姫には少し新鮮な物に映るのだった。


 結局、11時の開店の少し前に店に着いた時には、もう駐車場に車やバイクがいっぱいで、行列が出来ていた。


 西武秩父駅にほど近い、その「わらじカツ丼」屋は、秩父では一、二を争うくらいの人気店だという話だった。


 待っている間に、

「ここ、マジで飛ぶぞ。時差スタグラムでも、うぷするのがよき」

「おけ。後でうぷするンゴ」

 杏と京香が盛り上がる中、会話が成立しないであろう、真姫は、隣にいた、まだ会話が通じそうな蛍に、尋ねていた。


「ねえ。二人はインカム使ってるの?」

「うん。あると色々、便利だよ。トイレ行きたくなった時とか、渋滞で()()になった時とか、すぐに連絡取れるし」

「わや?」

「ひどいって意味」

「なるほど」


 まだ、この子の方が、話が通じる。少なくとも、あのギャルはよくわからない。と、真姫が思いながら、自然と杏の方に視線を向けていたのが、わかったのだろう。

「杏ちゃんはね。ああ見えて、優しい子だよ」

 まるで見透かされるように、彼女に先を越されて言われていた。


「え、マジで? 全然そんな風には見えないけど」

「杏ちゃんの家は、ちょっと特殊なんだって。まあ、詳しくはいずれ本人に聞いてみるといいよ。私の口から勝手に言うのもあれだし」

 蛍は詳しくは語ってくれなかったが、真姫には、あのパリピギャルの杏が、「優しい」ようには、どうしても見えないのだった。


 結局、30分近くも並び、ようやく中に通され、さらに20分近くも待たされて、ようやくそれが出てきた。


 わらじカツ丼。

 ここ、秩父地方の名物、B級グルメの一種で、巨大な「わらじ」のようなカツがご飯の上に乗っていることから、この名がある。


 本来なら、「男子」が食すようなもので、あまり女子グループで食べに行くようなものではない。


 だが。

「とりまヤバたん! バイブス、爆上げ!」

 ギャルの杏のテンションは、めちゃくちゃ上がっており、すごい勢いで、カツ丼を口に運んでいた。


 初めて食べる、わらじカツ丼。

 正確には、その店の味は「豚みそ漬け」という、秘伝の特製のタレを使った「豚みそカツ丼」に近いが、食べる前から、すでに味噌と炭の香ばしい香りが鼻腔をくすぐっていた。


 真姫にとっては、初めての体験だったが、一口含むだけで、口中に広がる濃い味噌と、豚肉の何とも言えない味わいが、新鮮且つ食欲をそそるものだった。


 あっという間に4人とも食してしまう。

 しかも、昼時、土曜日ということで、次から次へと客が行列を作っており、回転率は速い。


 仕方がないので、食後に休む暇もなく、店を後にした。


「めっちゃよき! じわるわー、これ」

「それなー」

 相変わらず、杏と京香が意気投合している横で、


「そうだ。口直しに、ついでだからアイス食べに行こうか?」

 蛍が提案していた。ちょうど昼過ぎになり、太陽が南に上がり、気温が高くなってきており、暑い陽射しが降り注いでいた。


「りょ。高原でおけ?」

「うん。いいっしょや」

 ギャル語で話し、北海道弁で返す二人。


(これは、カオスだ)

 真姫は、内心、そう思って苦笑していた。

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