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ゆるツー  作者: 秋山如雪
11章 静岡
59/82

58. 静岡県最南端にて

 弁天島海浜公園、スズキ歴史館、そしてうなぎ。

 浜松を満喫した真姫は、結局、もう一泊だけして、翌朝には帰ることにした。


 夏休みは残りわずかだったが、最後の思い出にするために、彼女は帰路に着く前日の夜に、杏に尋ねていた。


「帰り際に、どこか面白いところに寄りたい」

 と。


「面白いところ、ってふわっとしすぎ」

 と、彼女は文句を言っていたが、考えた末に「答え」を「提案」はしてくれた。


「じゃあ、御前崎おまえざきでも行ってみれば?」

「御前崎?」


「え、マジで知らないの? 静岡県最南端の岬だよ。ライダーは、大抵端っこ好きでしょ」

 言われて、初めて真姫は、「御前崎」のことを知るのだった。


 彼女は、自分の地理の知識がまだ未熟で、杏にすら劣っていることに、若干の悔しさを感じると同時に、伊豆半島のことを思い出していた。


「静岡県最南端って、伊豆半島じゃないの?」

「わかってないなあ、真姫。伊豆半島最南端の石廊崎いろうざきより、御前崎の方が南なんだよ。つまり、霜が降りない、と言われるくらい暖かい石廊崎より、さらに南の御前崎の方が、冬は暖かいんだ」

 ドヤ顔で、得意げに説明する杏だが、


(どうせ、あんたの祖父母に教わったんだろう)

 くらいにしか、真姫は思っていなかった。



 結局、翌日の朝。真姫は、お世話になったお礼を、杏の家族に告げて、旅立った。

 なお、杏の家族はあと1日だけ滞在してから、帰京するという。


 夏休みは残りわずかになっており、2学期が迫っていたが、真姫は、最後に「下道」でその岬を目指すことになった。


 浜松の市街地を抜けてからは、海に近い国道150号を、東に向けて走るのだが。

 ここがまた「意外」なほど、彼女にとっては「ダル」かった。


 信号機が多くて、交通量が多く、あまり飛ばせない。風景が単調でつまらなく、海も山もない。


 つまり、「走っていて面白くない」道路だった。


 単調な景色に飽きてくるのと同時に、炎天下で遮るものがない田舎道になり、水分補給と休憩を兼ねて、何回も途中のコンビニに立ち寄っていた。


 そして、浜松の杏の祖父母の家を出発してから、およそ1時間半。


 「御前崎灯台」と書かれた案内標識に従って、右折すると、ようやく「走りやすい」道に入った。


 片側1車線の道ながら、交通量が少なく、軽快に走れる道だった。

 おまけに、途中から右手には、雄大な波しぶきを上げる太平洋が、真夏の陽光に照らされて、キラキラと輝いていた。


(暑いけど、海沿いだけで気持ちいい)

 それが、偽らざる真姫の気持ちでもあった。


 そして、ようやくたどり着いたその場所。


 御前崎灯台。


 そこは、太平洋の岸壁に面した高台に建っており、海沿いの駐車場からは階段を上ることになった。


 だが、その長い階段を上った先からは、眼下に太平洋が一望できる上に、海から吹きつける「風」がいい具合に、「暑さ」を緩和してくれるのだった。


 しばらくはその風に吹かれて、夏の終わりの「岬」の風景に酔いしれていた、真姫だったが。


 とある人影が彼女の視界に入ってきた。


 人影は、ちょうど灯台の下にある駐車場から階段を上ってきたところだった。


 目が合ってしまい、真姫は「逃げる」に逃げられなくなっていた。


 半開きのような眠たそうな、細長い猫のような瞳。


 無造作に伸ばした、ロングヘアーの毛先が飛び跳ねている。身長は167センチくらいと高く、夏用の薄手のジャケットを羽織って、チノパン姿だった。


「あれ~。真姫ちゃん? やっぱ真姫ちゃんだ。すごい偶然だね」

「茜音ちゃん……」


 そう。春先に突如、襲来し、彼女を京都の旅に誘った、1歳上の従姉いとこの中河原茜音。彼女だった。


「いや、駐車場に真姫ちゃんと同じバイクがあったからさ。もしかしたらと思って」

「何でここに?」


「真姫ちゃんと同じだよ。高校最後の夏休み。モラトリアムを満喫したいのさ」

 内心、真姫は「会いたくなかった」相手だったのだが。


 茜音は、自由人だから、いつ、どこで何をしているのか、行動が全く読めないところがあったから、ある意味、仕方がないと諦めた。


「茜音ちゃん。私は浜松の友達の家に泊まっててさ。これから帰るところなんだよね」

 真姫の口調は、暗に「一緒に来るな」と言っているかのように聞こえる、素っ気ないものだったが。


「そうなんだ。私も飽きたからこれから帰るところ。じゃあ、一緒に帰ろう?」

 そんなことを全く意に介さず、そう提案してきた、茜音だったが、彼女が言う「一緒に」は、拒否権がほぼないことが真姫はわかっている。


(せっかく途中から高速で帰ろうと思ったのに)

 真姫にしてみれば、この御前崎を見た後、東名高速道路もしくは新東名高速道路から圏央道を経由して帰宅しようと思っていた。


 だが、125ccのバイクに乗る茜音に遭遇した以上、「一緒に」帰るとなるとその高速道路は使えなくなる。


(しゃーないか)

 諦めるしかなかった。


 もっとも、高速道路の料金をいちいち払って帰るのも、経済的に苦しい高校生には、実は「ツラい」という事情もあるから、茜音に出逢って「良かった」と言えなくもないという複雑な事情もあったが。


(御前崎から下道って、5、6時間はかかるなあ)

 さすがにこの炎天下での5、6時間走行にうんざりしてくる真姫だった。


 だが、最後のモラトリアムを満喫していた、自由人の茜音は、真姫に出逢ったことで、かえってテンションが上がっているようで、


「んじゃ、ぼちぼち行こうか」

 勝手に先頭に立って、御前崎を出発していた。


 時刻は正午近く。


 一日のうちで、もっとも「暑い」時間帯に差し掛かろうとする頃。

 前の京都行きの、帰り道では急いで通過していた静岡県を2人は走ることになった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ライダーは、大抵端っこ好き ライダーじゃなくても、端っこ好きはいると思う。 半島の先端とか、地図上の尖ってるところには、なんとなく惹かれてしまう……。
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