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ゆるツー  作者: 秋山如雪
9章 蛍
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46. 蛍と父

 愛妻の丘で、何故か「バーチャル夫」を演じ、「愛の告白」までやらされた真姫。


 その時は「勢い」でやっていたが、駐車場に戻って、冷静になると、途端に恥ずかしくなってきていた。


 そのため、

「早く行こう」

 と蛍を促して出発。


 蛍は、愛妻の丘から、「つまごいパノラマライン」を通り、国道144号を渡る。

 そこから先は、同じ「つまごいパノラマライン」でも「南ルート」に当たるということだった。


 つまり、今までの「北ルート」とは違い、どちらかというとダイナミックな自然の風景が見られる部分らしい、という蛍の話だった。


 そこからは、有料道路を経由し、蛍は南下し、1時間ほどで軽井沢町にたどり着いていた。


 群馬県から長野県に入り、いわゆる「軽井沢銀座」あたりで、速い昼食を兼ねて、2人は店を冷かしながら散策し、一件の喫茶店に入っていた。


 どこかヨーロッパの街並みにありそうな、店外に椅子とテーブルが置かれた、洒落たカフェのような造りの洋風建築の店だった。


 そこで、ピザとコーヒーを注文しながら、2人は会話する。


 話は、意外な方向に進んでいた。

 以前、蛍の母がワーカホリックで、父との付き合いの方が多い、と聞いていた真姫。ある意味、父との関係に悩んでいる彼女は、それが気になった。


「で、蛍ちゃん。お父さんとはどんなところに行くの?」

「うーん。そだねー。釣り、キャンプ、日帰り温泉とか。面白いところだとゴルフの打ちっ放しとか、バッティングセンターとか。頼めばどこにでも連れて行ってくれるよ」

「バイクで?」


「ううん。お父さん、バイク乗らないから、車で。北海道にいた頃から、車好きだったからね」

「それでよくバイク認めてくれたね」


 それが真姫には不思議に思えた。それだけ娘のことが大事なら、バイクなんて危険だろうから、反対されるだろう、と。


 ところが、彼女は笑いながら答えを返した。

「あはは。お父さん、その辺、ユルいからね。むしろお母さんの方が厳しいかな。『女の子がそんな危ない物に乗っちゃダメ』って言われた」


「それで、どうやって説得したの?」

「うん。お父さんがお母さんに『お前は時代遅れだ。バイクくらいで文句言うな。俺が責任持って見守る』って言ってくれて」


「へえ。いいお父さんだね」

 そう告げると、蛍は照れ笑いを浮かべながらも、


「そだねー。私は一人っ子だし、お父さんは元々、女の子が欲しかったらしくて、小さい頃から私には、特に優しかったな」

 と呟いたため、真姫にはかえって気になるのだった。


「いいな。私は、父とはそんなに仲良くないから」

「そうなの? 何で? だって真姫ちゃんもお父さんにバイク認められてるんでしょ?」


 その時、注文したピザとコーヒーのセットが運ばれてくる。

 それを受け取り、ウェイトレスが去ってから、2人は食べながらも、会話を続ける。


「まあ、認められてるけど。なんていうか。ウチの父は、変に『放任主義』なんだよ」

「そうなの?」


「うん。いつもプラプラと1人でバイクでどこか行っちゃうし。その癖、たまにツーリングに付き合ったら、私を置いて、さっさと先に行っちゃうし。私、父さんとツーリング行くの嫌だ」


 それを聞いていた、蛍が、弾けるように笑い出したのが、真姫には少しだけ意外だった。


「笑わないでよ」

「ごめんごめん。でも、あれだね。きっと真姫ちゃんのお父さんは『不器用』なんだと思うよ」


「不器用?」

「そうそう。お父さんって、特に『年頃の娘にどう接していいかわからない』って思うことがあるらしいからね。本当は、仲良くしたいんだけど、あまりしつこくてもウザいって思われるんじゃないか、って」


「そうかなあ」

「そうだよ」


 蛍は必死に肯定しようと、自分の説を説いてくるが、真姫には、どうも父の考えが読めない部分があった。


「私の父もね。たまにそういうところがあるよ」

「マジで?」


「うん。でも、私はそういう不器用なのって、『可愛いな』って思うけどね」

「可愛いかな?」


 蛍は、ピザを食べる手を休め、カフェの車窓から外を眺めながら、感傷に浸るように呟いた。


「男の人は、みんないつまで経っても、『子供』だからね」

「子供?」


「そりゃ、そうでしょ。だって、いい歳した大人が、わざわざバイクに乗るんだよ。女性から見たら『子供』でしょ。バイクという『おもちゃ』で遊んでるだけ」

「一理あるかも」


 2人とも、声を出して笑い合っていた。

 もっとも、そんな「子供」の乗り物に、彼女たちも乗っているわけだが。


「今度、ちゃんとお父さんと向き合ってみるといいよ。きっと、真姫ちゃんのお父さんは、不器用なだけで、真姫ちゃんのことが嫌いなわけじゃないって、わかるから」

「うん。まあ、嫌われてはいないと思うけどね。なんか距離感がわからない、というか」


 そう答える真姫に対し、何を思ったのか、蛍は思い出したように、一つの質問を投げかけてきた。


「真姫ちゃん。小さい頃に、お父さんと行ったっていう北海道旅行のこと、話してくれる?」

「いいけど。あんま覚えてないよ」


「いいよ。覚えてる限りで」

「わかった」


 蛍の意図するところがどこにあるのか。真姫には掴めなかったが、遠い記憶の糸を手繰り寄せるように、彼女は、思考の世界に入った。


 それは今からもう10年近く前の話。

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