44. もう一つのバイク神社
栃木県の安住神社で、無事に参拝を終えた4人は、次に杏の先導で南を目指すことになった。
そこからは、のどかな田園風景が広がる、いかにも「田舎」の光景が横たわっていた。
そんな中、県道を30分ほども走ると。
真岡市に入った。
(まおか、じゃなくてもおか、なんだ)
初めて来る土地、初めて知る地名。真姫にとっては興味深いものだったが、何故「もおか」と読むかはわからなかった。
そののどかな、というよりも寂れた地方都市に近い、真岡市の五行川という川沿いに、その神社はあった。
大前神社。
見た目は、普通の神社だが、そこの駐車場にバイクを停めて、うきうきとした、軽い足取りで向かう杏によれば、
「ここはバイク神社発祥の地なんよ。全国の二輪車守護発祥の『足尾山神社』が祀られてあって、さらにバイクの絵馬まである! そんだけでバイブスアゲアゲっしょ!」
(へえ)
杏にしては、やけに詳しく調べていて、妙に感心した真姫であった。
着いて行くと、境内には巨大な恵比寿様が祀られてあったり、杏が言ったように、「足尾山神社」と書かれた幟に、「二輪車守護」と書いてあり、小さな社があった。
そこでお参りした後、社務所に行くと、これも杏が言ったように、バイクが描かれた絵馬が売っていた。
絵馬は4種類あるが、何故かどれもネイキッドのバイクが描かれてあった。
(まあ、バイクっぽいっちゃ、っぽいか)
真姫はその4種類の中に、自分が乗るようなカウルつきのバイクがないのが不満だったが、渋々ながらも、周りの3人に従い、絵馬を購入。
さらに、同じように交通安全ステッカーやお守りを購入していた。
時間が余ったため、しばらくその神社の境内で休むことにした4人。
ベンチに座っていると。
「バイク神社かあ。思ったより面白かったね」
と、まずは京香が口を開き、
「そだねー。バイク乗りって、なんかこういう『縁起をかつぐ』部分があるからね」
蛍が応じ、
「それなー。大体、事故ったら、あっという間にあの世行きっしょ。ぴえんどころの話じゃないし」
さらに返す杏に、真姫は苦笑いを浮かべて、
「お前がそれを言ったら、シャレにならん。発進、スピード出しすぎだぞ。あんな運転してると、そのうちまた事故る」
と鋭く突っ込む。
「蛍ー。真姫がいじめるー。つらたん」
「よしよし。大丈夫だよ、杏ちゃん」
途端に、蛍に子供のように泣きつく杏であり、それを見て、
「いじめてないって。蛍ちゃんも甘やかしすぎ」
突っ込むものの。
「真姫ちゃんって、男っぽい割には、随分慎重な運転するからねー。だから事故とは無縁なのかも。でも、そういう真姫ちゃんも気をつけてね。油断してると、事故ったり、立ちゴケしたりするから」
今度は京香に突っ込まれていた。
だが、
「あ、そういえば私、まだ立ちゴケしたことない」
思い出したように呟く真姫に対し、
「え、マジで!」
3人が一様に驚いていた。
曰く。
「一度もしてないなんて、信じられない」
「ありえねー」
「すごい強運の持ち主なのかもね」
それぞれ、京香、杏、蛍に言われていた真姫だったが。
「そんなこと言われてもね」
真姫には、特に思い当たるような対策もなかった。
だが、不思議とこれまでのバイク人生の中で、真姫は一度も立ちゴケを経験せず、もちろん走行中の転倒も経験していなかった。
元々が慎重な性格だったし、スピードも出さない。
おまけに、父が現役のバイク乗りということも影響しているのかもしれない。
その後は、ここでダベった後、少し早い時間ながらも、帰りの渋滞を警戒し、早めに高速道路に乗り、途中のSAで夕食を取って、無事に帰宅した4人であった。
季節は、4月から5月へ。
バイクを乗る人間にとって、この辺りの季節が一番走りやすい。
地球温暖化の影響で、6月頃から10月頃までひたすら暑い日が続くからだ。




