表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆるツー  作者: 秋山如雪
8章 栃木
44/82

43. バイク神社

 ということで、急きょ、宇都宮中心部にある餃子屋で、餃子を食べることになった真姫だったが。


 混んでいるが、思っていたより、「回転が速く」 ―それでも20~30分はかかったが― ようやく4人の番になり、テーブル席に通された。


 メニューを見ながら、早くも目を輝かせている杏を見て、

(まあ、元気になったみたいだからいいか)

 真姫は、事故の時のことを思い出し、少しだけ安堵するのだった。


 その杏は、一番ボリュームがありそうな、餃子とチャーハンのセットを注文。他の3人はいずれも餃子数個とご飯だけのセットになった。


 やがて、運ばれた餃子を前にして、真姫の隣に座っていた杏が

「来た! バイブスアゲアゲ、あげみざわ! うぇーい!」

 と、大手を振って喜んでいる様子を見て、


(久しぶりにその言葉、聞いたな)

 真姫はどこか感慨深くもあり、懐かしくもあり、同時に、やはり元気が戻って良かったとは思っていた。


 食べてみた感想としては。

 皮がしっかりしていて、白菜が主体なのが特徴だった。その他にキャベツ、ニラ、長ネギなど野菜が多く入り、肉よりも野菜の旨味があると感じる餃子で、しかもニンニク臭は抑えられているようにも感じる。


 初めて食べていたが、真姫にとって、興味深い味だった。

 まして、料理には多少興味があり、自炊もある程度は出来る彼女には、このレシピの秘密が知りたい、とすら思うのだった。


「そう言えば、浜松も餃子が有名だよねー」

 真姫の向かい側に座っている京香が、小さな口で可愛らしく餃子を食べている箸を休め、口を開くと、


「浜松餃子だよね。あっちはどっちかって言うと、キャベツ、玉ねぎ、豚肉が中心で、豚肉のコクが効いてる感じだね」

 さらに隣にいた蛍が言葉を継いでいた。


「詳しいね、蛍ちゃん」

 箸を休めて、真姫が口を開くと、


「まあ。お父さんの車で行ったことあるからね、浜松」

 との言葉が返ってきたが、真姫にはこの蛍が、父と仲がいいと感じられ、少し羨ましいような気分にもなっていた。


 決して仲が悪いわけではないが、父とは一定の距離を置いている、真姫にとっては、気軽に父と一緒に出掛けよう、とは思えなかった。

 そういう「思春期特有」の親との付き合い方の難しさを感じる年頃でもあったが。


「食った! マジ、じわるわー。ぱおん」

 気がつくと、隣の杏がもう食べ終わっていた。


(めっちゃ速いな、こいつ。バイクと一緒で、せっかちなのか?)

 かえって、そういうことを勘ぐってしまい、引いてはそういう性格が、「事故」につながったような気がする、とさえ真姫は邪推していた。


 全員が食べ終わるまで、杏はひたすら携帯をいじって、SNSに記事や写真をアップしていた。



 食後。

「んじゃ、バイク神社に行くぞー!」

 目当ての物を食べて、機嫌が良くなったのか。杏が喜び勇んで先頭に立ち、バイクを急発進させて、さっさと次の目的地に向かってしまい、慌てて残りの3人は追うことになった。


(だから、急加速しすぎだって。エンジンに負荷がかかるぞ)

 その後ろ姿を眺めながら、かえって杏のバイクの心配をしている真姫であった。


 次の目的地は、そこからは30分ほどで行ける場所にあるという。


 少し走り、宇都宮の市街地を抜けると、辺りはのどかな田園風景が広がるが、丈の高い大きな木々に囲まれた一角にそれはあった。


 安住やすずみ神社。


 というその神社は、杏の説明によると、「全国バイク神社認定一号」なんだそうである。


「めっちゃよき! 前に栃木来た時に、エンカしたんだけど、時間なくて、スルーしたから、ワンチャン来てみたかったんだー」


(相変わらず何言ってるか、わかんねー)

 若者なのに、若者言葉には疎い。少し達観した、言い換えれば大人びたところがある真姫は、苦笑していたが、杏には満足だったことはわかった。


 「バイク神社」と呼ばれることはあり、バイクのイラストが描いてあり、顔を出す部分が丸くくり抜いてある、観光地特有の看板のようなものがあったり、訪れた人のバイクの写真が多数飾ってあったり、と初めて来る真姫にも興味深いものがあった。


 一通り散策し、お参りをすることにしたが。

「そうそう。ここで巫女さんと一緒にバイク撮影できるんだって?」

 先頭を歩く杏に京香が笑顔で聞いていた。


「それなー。後でやるンゴ。チャンスはナウしかっしょ」

 杏の訳のわからない言葉に、困惑顔を浮かべている真姫に、気づいた蛍が、


「杏ちゃん。元気になって良かったね」

 と、まるで真姫の心中を読むように言ってきた。かえって、その鋭いところがある蛍の言動に真姫が驚いて、


「まあね」

 と曖昧な言葉を返していると、


「聞いたよ。柚ちゃんに懐かれたって。可愛いよね、柚ちゃん。私も兄弟いないから、ちょっと羨ましい」

「そうか。蛍ちゃんも一人っ子?」

「うん。ウチは珍しく、母の方がワーカホリックで、父の方が趣味人だから、小さい頃から父と接することが多かったんだけど」


 真姫には、ようやく蛍の家の実情が、少しだけ垣間見れた気がするのだった。

 彼女が、母より父に懐いているのは、そういう事情が影響しているらしい、と。


 他人の家のことは、所詮他人にはうかがい知れないところがあるから、何とも言えないとは思うものの、思春期の真姫にとっても、それは興味のある話題でもあった。


 結局、テンションが上がっている杏の要望に巻き込まれる形で、各自が巫女と一緒にバイクを撮影してもらい、全てが終わった頃には午後2時を過ぎていた。


 これからどうするのか、と真姫が思っていると。

「ついでにもう一個ある、バイク神社に行くぞー」

 杏が先頭で張り切っていた。


(え、まだあるの?)

 バイク神社が二つもあるとは思ってもいなかった、真姫は戸惑いと期待の入り混じった複雑な感情を抱きながらも、従うことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ