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ゆるツー  作者: 秋山如雪
8章 栃木
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42. 餃子の国

 春。4月になって、バイクで走りやすくなる季節になったこともあり、次の週末に真姫は、約束通り、出かけることにした。


 今回の目的地は栃木県。待ち合わせ場所は、圏央道の青梅インターチェンジにほど近い一件のコンビニ。


 午前8時55分。

 約束の5分前に到着すると、すでに他の3人は来ていた。


 今回は、杏が行きたいという餃子屋の開店時刻に合わせて、遅めの出発になった。


 パリピギャルの杏の、目立つ赤いライダースジャケット、スズキ GSX250Rとプリクラのような写真でデコっているヘルメットが何だか懐かしい気がした。


 その横にライムグリーンのカワサキ ニンジャ250もあり、茶色のライダースジャケットを着た、蛍の姿もあった。


 そして、いつものように白いPCXに、今日は珍しく革ジャン姿の京香の姿もあった。


「真姫。遅いぞ」

 いきなり眉間に皺を寄せた、杏に一言声をかけられた真姫は、愛用の白いジェットヘルメットを脱ぐと、不満げに、


「まだ時間じゃないだろ。遅刻じゃない」

 と憮然とした態度で口にしたが、内心では、事故の跡、しばらく見ていなかった杏が元気に戻ってきて良かった、とは思っていた。


「まあまあ。じゃ、行こうか」

「OK」

「ちょい待ち。今、タピってるから終わったらね」


 蛍、京香、そして手にタピオカドリンクを持っている杏がそれぞれ声を上げる。


 実に久しぶりの4人でのツーリングが始まることになった。

 天気は曇り空だったが、雨が降る予報はなかった。


 杏がタピオカドリンクを飲み干すのを待って、4人がそれぞれのバイクにまたがる。

 先頭は杏になり、2番手に京香。3番手に真姫、最後尾が蛍になった。


 それぞれインカムをセットし、通信をしながらのツーリングが始まる。


 だが。いきなり出発から急発進し、猛烈な勢いで爆音を慣らして、飛ぶように加速していく杏を見て、


(速すぎだろ。そんな走り方してると、また事故るぞ)

 内心、真姫は少し不安な気持ちになっていた。


「とりま、鹿沼インターまで突っ切るよ!」

 先頭を走る杏が、元気な声を上げて加速していく。


 元々、遅い真姫はついて行くのがやっとの状態だった。心優しい蛍は、そんな真姫のバイクの速度に合わせてスピードを制限しているらしく、気がつけば、速いスピードの杏と京香、遅いスピードの真姫と蛍に分断されていた。


 圏央道に入り、しばらく似たような景色が続く、高架の道を進むことになるが。

(圏央道って、つまんないなあ)


 真姫は単調な景色に、早くも飽きてきていた。


 そもそもこの圏央道の大半は片側2車線で、狭いし、たまに1車線になる区間もある上、制限測度が70キロ程度だ。


 おまけにほとんどPAやSAもなく、周りの風景もビルばかり。非常に味気ない道路な上に、料金まで高い。


 そのまま、だらだらと40分も走った頃。

 久喜白岡くきしらおかジャンクションを曲がって、東北自動車道に入ると、ようやく快適な道になる。


 片側3車線になり、開放的な広い道幅が迎えてくれ、周りの風景も次第に緑が濃くなり、人家の間から田畑が見えてくるようになる。


 途中で、埼玉県の羽生はにゅうパーキングエリアに立ち寄り、小休憩を挟む。


 休憩後。利根川を縦断する、大きな利根川橋を越えると、そこはもう群馬県。久喜白岡ジャンクションからは休憩を挟んで約1時間、出発からは2時間程度で、栃木県鹿沼(かぬま)市に入り、鹿沼インターチェンジを降りる。


 そこからは、街中を抜けて、約20分程度。いつの間にか栃木県の中心都市にして、県庁所在地の宇都宮市に入っていた。


「着いたー!」

 なんだかんだで、2時間20分くらいかけて、ようやく到着したその店。


 一見すると、普通の飲食店に見えるのだが、地方都市特有の、広い駐車場が目立った。


 真姫の目の前に、彼女が嫌う光景が展開されていた。行列だった。確かこの店の開店時間は午前11時30分。まだ開店前にも関わらず、入口に行列が出来ていた。


(マジか)

 また、房総半島に行った時の、ラーメン屋に並んだことが思い起こされていた。並ぶこと自体が嫌いな、ある意味、日本人的ではない真姫。当然、表情が曇った。


 だが。

 今回の発起人は。


「激アツ! wktk(ワクテカ)だな」

 嬉々として、行列の最後尾に並んでいた。


「はあ。面倒だ。飯食べるだけで、並ぶのかよ」

 その様子を見ながら、早くも溜め息を突いている真姫に、房総半島で一緒だった2人は、


「まあまあ、真姫ちゃん。ここの餃子はマジで美味しいらしいからさ」

「そうだよ。宇都宮に来て、餃子食べないなんて、損してるからね」


 苦笑しながらも、真姫を慰める言葉をかけていた。

 杏、京香、真姫、蛍というバイクで走ってきた順番に並ぶ4人。


 その餃子店は、宇都宮、いや栃木県では知らない人はいないくらい、有名な店だった。

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