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ゆるツー  作者: 秋山如雪
8章 栃木
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41. クラス替え

 春になった。

 4月。何事もなく2年生になった真姫。

 クラス替えが行われ、そして彼女にとっては、運がいいことに。


「はろはろー、真姫ちゃん! 一緒のクラスだね!」

 京香と同じクラスになっていた。


 中学時代は、同じクラスになったこともあったが、しばらくは別々のクラスだったから、この親友と同じクラスというのは、真姫にはありがたかった。

 ただでさえ、「バイク乗りの先輩」として、頼りになる部分と、同時に世話焼きで、どこか癒される雰囲気も持っている彼女だ。


「京ちゃん。またよろしくね」

 笑顔を返す真姫に、その親友は、


「うん。せっかく春だし、またJK4人組でツーリング行こうよ」

 そう言って、京香が差し出した携帯電話には。


 すでに、彼女が杏と個人的にやり取りをしていたLINEの履歴が表示されていた。

 真姫は、途端に渋い表情を浮かべ、


「ええー。またあのパリピギャルと行くの?」

 不満の声を口に出すが、京香はけらけらと明るい声で笑っていた。


「何、言ってんの、真姫ちゃん。せっかく杏ちゃんもバイク復帰したし、みんなで行かないと」

「いや、まあいいけど。で、どこに行きたいの?」


宇都宮うつのみや

「宇都宮? 栃木とちぎ県?」

「そうそう」

「何で?」


 真姫には、あまりにも意外な選択に思えた。オシャレ好きで、ノリがいいパリピギャルの杏は、事故後しばらくの間はおとなしくしていたようだが、春になり、バイクに乗ることを「解禁」したようだった。


 それはいいのだが、何故、宇都宮なのかが、気になった。

「杏ちゃんがね。宇都宮には、並ぶくらい有名な餃子ぎょうざ屋があるから、行ってみたいんだって。他にも『バイク神社』ってのが栃木県にあるらしいから」

「へえ」


 曖昧に返しながらも、真姫の心を支配していたのは、

(色気より食い気。見た目とは裏腹に、『花より団子』だな)

 という、杏に対する印象だった。


 元々、出逢った時から、彼女は秩父で「わらじカツ丼」を食べたがっていたことを思い出していた。


 だが、

(進路、どうするんだ?)

 まだ2年生になったばかり、とはいえ、真姫はもちろん、京香も、杏も、蛍もそれぞれの進路を考えないといけないし、今年中に間違いなく「進路調査」の面談はあるはずだ。


(みんな、そういうこと考えてるのかなあ)

 ふと不安になって、考え事をしていた真姫は、


「もう、真姫ちゃん? 聞いてる?」

 京香の、少し顔を膨らませたような、小さな丸顔が目の前に来て、目から覚めたように現実に戻された。


(怒った顔も可愛い)

 などと思いながらも、京香の声に耳を傾ける。


「ごめんごめん。で、なんだっけ?」

「だから。次の土曜日の朝、9時に青梅インター前のコンビニに集合だって」

「ああ、そうか。高速使うよね」

「当たり前でしょ。下道で栃木なんて無理だよお」


「わかった」

 とは返事をしながらも、真姫は、真姫で別のことを考えていた。


(高速道路。ちょっと苦手なんだけど)

 そう。彼女のバイクは250cc。もっとも他の3人も18歳以下という年齢であるため、大型二輪免許は取れないし、当然乗ってはいないのだが。


 真姫はいつだったか、バイク乗りの父に、

―真姫。大型バイクはいいぞ。なんと言っても高速度域での安定感が違う。一度、大型に乗ったら、もう軽二輪には戻れんなあ―

 と自慢げに言われたことがある。


 真姫自身、バイクに乗り始めてから、何度か高速道路を使ったが。

 250ccでは風圧がキツい上に、風が強いと軽い車体が左右に流されるという恐怖感があることがわかった。


 かと言って、極端にスピードを落とす、つまり時速80キロ以下で走行すると、それはそれで他人の車に迷惑になるし、高速道路の意味もなくなる。


 つまり、極論すると、「のんびり走りたい」派の、真姫は高速道路が少し苦手だった。


 250ccのバイクとはいえ、出そうと思えば高速度域は出るが、やはりそこは軽二輪。110キロ~120キロくらいになると、実際にハンドルがブレるように震えてくるし、風による抵抗と、恐怖感が増してくる。


(まあ、下道でちんたら行くよりはマシなのかもだけど)

 そう思いながらも、この間、茜音に連れられて、ひたすら下道で京都まで往復した時のことを思い出していた。


(あれは、確かに苦行くぎょうだったからな)

 そんな思惑の世界に入り込んだ真姫の耳に、


「もう! 真姫ちゃん。また何か考え事してる。悩みがあるなら言ってね」

 またも顔を膨らませた京香に、顔を覗き込まれていた。


(やっぱり可愛い)

 そんな京香に、


「ああ。大丈夫」

 と言いつつも、真姫は、頬杖を突きながら、愛らしい小動物のようにも見える、京香の丸顔に見入っていた。

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