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ゆるツー  作者: 秋山如雪
7章 茜音の旅
35/82

34. 甲州街道

 出発からおよそ1時間30分あまり。

 午前9時過ぎに、突如として始まったこの、途方もなく「無計画」な旅に付き合わされる形になった真姫は、125ccのモンキーの後ろについて走っていた。


 身長167センチもあり、真姫より背が高い茜音の体が、真姫のバイクより明らかに小さいモンキーの小さな車体に乗っかっている。

 というよりも、大きな体ゆえに窮屈そうに見えた。


(長い道のりだなあ)

 携帯のナビや茜音の情報では、京都までおよそ12時間。それも休憩を挟まずに行ってその時間。


 どうせ茜音は、思いついたら勝手に寄り道するに違いないから、今日中には京都に着けないだろう。


 だが、もう諦めて従うしかないのだが。

 以前に、県道18号を経由し、国道411号から山梨県に入った時は、雨に当たったものの、流れは比較的スムーズだったことを思い返し、真姫は国道20号の流れの悪さに辟易していた。


 片側1車線ずつの、信号機も交通量も多い、日曜日の午前中の国道20号。

 実際に混雑しており、なかなか進まなかった。


 そもそも茜音が来るのが遅かったのもあるが、熊谷から来たのであればそれも仕方がないことだった。


(友達いないのかな、茜音ちゃん。ボッチか?)

 わざわざ2時間もかけて、やって来たことを思い返し、真姫は不意に失礼なことを考えながらもついて行くと。


 ようやく街道沿いの一軒のコンビニの駐車場に、モンキーは入って行った。少し小高い丘のような部分、つまり坂の上に位置する、比較的広い駐車場がある、田舎のロードサイドのコンビニだった。


 茜音はモンキーを駐車場に停めて、ジェットヘルメットを脱いだ。

「腹減った。ちょっと朝食」


 もう午前10時30分過ぎであり、朝食という時間ではないのだが、根っからの自由人の彼女にすれば関係ないらしい。


 仕方がないので、真姫もまたコンビニに入り、眠気覚ましも兼ねて栄養ドリンクを買って外に出た。


 モンキーの小さなシートに腰かけながら、買ってきたサンドイッチと緑茶の朝食を取る茜音。


 彼女の口から意外な一言が漏れたのはその時だった。

「道は混んでるけどね。旅は、下道の方がいい」

「何で?」


 旅に出たことで、気持ちが解放されたのか。心なしか、茜音の表情は出発時に比べて、明るくなっているように真姫には思えた。

「高速は所詮、点と点をつなぐのが目的。それはただの移動手段で、そこに『歴史』はないから」


 「歴史」という一言で、真姫は思いだした。

 そういえば、茜音は昔から、妙に「歴史」という言葉が好きだった。特に彼女は「日本史」に興味があるらしく、将来的には教員免許を取りたい、と言っていた。


 しかも、彼女は日本史に対する知識や造詣が深く、妙な雑学まで知っているのだ。

 いつも不機嫌な茜音が、「歴史」を語る時だけは「目を輝かせる」ことを、真姫は思いだしていた。


「この甲州街道もね。かつては東西を結ぶ大動脈だったんだよ」

「そうなの? 東海道じゃなくて?」


「それは近代以降の話ね。そもそも東海道ってのは、たくさんの川を越えないと行けなかった。昔は川を渡るだけでも大変だったの。特に酒匂さかわ川、安倍川、大井川には橋はもちろん、幕府から渡し船すら許されてなかった。橋が出来て、鉄道が通って、便利になったのは、明治時代以降。それより前は、実は旅人にはこの甲州街道や中山道なかせんどうみたいな『山道』の方が都合が良かった。まあ、正確には大動脈は中山道の方で、甲州街道はあまり人気はなかったらしいけどね」


 相変わらず博識だな、と真姫は少し感心していた。

 こういう「教科書に載らない」、「授業では教えてくれない」ような雑学に彼女は長けていた。

 そういう部分は、「教師向き」なのかもしれない。


 サンドイッチを食べ終わり、最後に一気に緑茶を流し込むと、ゴミをゴミ箱に入れた後、戻ってきた茜音が、ふと面白いことを呟いたのが、真姫には興味深かった。


「もっとも、今じゃ信号機のせいで、不便になってるけどね」

 そう言って、ヘルメットをかぶり、エンジンをかけて出発する茜音。


(それは一理ある)

 慌てて、その背を追いながらバイクを飛ばし、真姫は思った。


 つまり、昔は川が旅の邪魔をしていたが、今は信号機が旅の邪魔をしている。特に下道には「無駄」なくらい信号機が多いからだ。


 2人の果てしない旅は、まだまだ始まったばかりだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >昔は川が旅の邪魔をしていたが、今は信号機が旅の邪魔をしている 信号、無ければ無いで困るけど、まっすぐ進む場合には、邪魔な感じになりますね。やっぱり。
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