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ゆるツー  作者: 秋山如雪
7章 茜音の旅
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33. 西への道

 突如、襲来した従姉の茜音によって、強引に連れ出される形になった真姫。

 結局、有無を言わさず、着替えさせられた真姫は、念のために着替えやタオルを入れたリュックを背負って、階段を茜音と共に降りる。


 玄関先で、リビングから出てきた、眠そうな顔をしている父と遭遇した。その日は日曜日だったため、パジャマ姿の父は、ようやく起きてきたようだった。


「おお、茜音ちゃん。いらっしゃい。っていうか、もう帰るのか?」

「いえ。これから京都に行きます」

 そう何気ないことのように返した茜音の一言に、さすがに驚いて目を丸くする父。


(これはチャンス。父さんなら止めてくれるかも)

 娘を思う父、その気持ちに賭けて、一縷の希望を見出そうと、父の顔を見る真姫であったが。


「そっかー。京都か。ああ、真姫」

「何?」

(頼む、父さん)


 アイコンタクトまで取って、訴えようとした真姫だったが。

「お土産、よろしくなー」

 そう言っただけで、そのままリビングに戻ってしまった。


(そっちかよ! 使えねー父さんだ)

 落胆すると共に、元々、父はそういう人だと、諦めるのだった。


 家族がいながら、大型バイクに乗って、ふらふらと旅に出てしまうような父だから、仕方ない部分もあったが。


 いい意味で「自由」にさせてくれるが、悪く言うと「放任主義」。京香がやたらと真姫に世話を焼いてくれるのは、元々の彼女の世話焼きな性格もあったが、両親、特に父からは放任されているところがある真姫が、世話を焼かれることに一種の「心地よさ」を感じているのもあった。


 母の南は、都合悪く、というか恐らく向こうから来たのだろう、熊谷の伯母の真奈美と長電話をしている最中であり、止めてくれる以前の問題だった。


 もう完全に諦めるしかなかった。


 家を出ると、玄関を出てすぐ前に真新しいバイクがあった。

 真姫の250ccのバイクと比べて明らかに「小さい」それは、全長が2メートルもなく、全幅も1メートルもない。全高もせいぜい1メートル少し。


 フロントフォークと、タンク、フレーム部分が赤く、タイヤもシートも小さいネイキッドの小型バイク。


 かつて50ccのホンダ モンキーが有名だったが、それが2017年に生産中止になった後も、根強い人気があり、ついに満を持して登場したのが、この125ccのモンキーだった。正確には123.94ccだから、当然、高速道路は使えない。


 同じく人気がある、ホンダ グロムをベースにして、タイで生産されているらしい。グロム同様に5速ミッションのミニバイクだ。


 モンキーといえば、その軽くて乗りやすい、取り回しがしやすい、燃費がいい、という特徴の他に、「とにかくカスタムがしやすい」という面白さが人気になった車種で、これだけ小さくてコンパクトな割には、値段も意外と高く、人気車種だからか、盗難やいたずらも多いという。


 もっとも、茜音はこのモンキーを特にカスタム化しておらず、ほぼ純正のままだったが。


 だが、現在高校2年生の茜音なら、真姫よりもお金があるだろうし、もっと高いバイクを買えばいいのに、と真姫は内心思っていたのだが。


 それを見越したかのように、茜音が呟いた。

「私はね。バイクは『自由の象徴』だと思うのよ。いつ、どこに行ってもいい。気軽に乗れて、どこへでも行ける。それにはこのくらいのバイクが一番いいの」

 それが茜音がモンキーを選んだ理由らしかった。


 昔から、この茜音は確かに「自由人」だったが、同時に彼女の中では「明確な基準」というのもあるようだった。


 譲れないライン、というか変なこだわりに近いが。

 要は、「行動に対して、理由づけを持つ」のが、彼女の中ではあるようだった。


 携帯を見ながら、マップで京都までのルートを調べている真姫が、恐る恐る口を開いた。

「あの、それで。京都までどうやって行くつもり?」


「はあ? どうやって? だからバイクで行くに決まってるでしょうが」

 たちまち、不機嫌オーラ全開の茜音が突っかかってくる。話が通じていない。


「それは、そうなんだけど、どういうルートでっていうか」

「ああ、そういうことね。まあ、東海道なら10時間半くらい、大体490キロくらいで行けるけど……」


(けど、っていう部分がもう嫌だ)

 すでに予感として「嫌な予感」を明確に感じ取り始める真姫に対し、


「それじゃつまらない。私は面白い方がいい。甲州街道から木曽路きそじを通って行くルートなら12時間くらい、500キロくらいね。ま、適当にこっちね」

 やはり茜音は一方的に決めていた。


 昔から「面白い」ことこそが、彼女の中では絶対の「法則」だった。「破天荒」にして、「自由人」。人を振り回すことに長けている。


 溜め息を突きながらも、真姫はバイクの準備を始める。

 ガレージからバイクを引き出し、またがりながら、思い出したように、茜音に聞いてみた。


「茜音ちゃん。今日の宿は?」

 少しだけ期待する気持ちもあるにはあった真姫の、たった一つの希望は、


「宿? あんたは宿なんか決めてから旅して面白いと思うわけ? 私がそんなことするわけないじゃん」

 という茜音の不機嫌な一言で吹き飛んだ。


(ですよねー)

 自分で聞いておきながら、妙に納得してしまう真姫だった。


 とことん自由人。真姫は昔、茜音から「旅は真っ白なキャンパスに絵を描くようなもの」だと聞いたことを思い出していた。


 要は、この人。一切何も決めずに旅をするのが、好きなのだ。

 宿も、途中で立ち寄る場所も、時には目的地さえも決めない。


 だが、ある意味では、「旅」本来の目的とはそういうものでもある。

 日常を離れ、非日常へ向かうのが旅。


 昨今のツアーや、パック旅行みたいのは、彼女の最も嫌うところであり、観光地巡りなどもっての他だった。


(なのに京都か)

 しかしながら、それでもいきなり日本を代表する観光地の京都へ行くと言い出した茜音。


 道中、その真意を真姫は少しずつ知ることになる。

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