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ゆるツー  作者: 秋山如雪
6章 京香
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29. スーパーカブの実力

 早速、家に帰って両親に相談すると、


「ああ、いいんじゃね?」

 父親の直樹は、正直、滅茶苦茶適当に、真姫には思えた。ほとんど何も考えてないように見えて、不安にすらなる。


「別にいいと思うわ。社会勉強になるだろうし。ただし、事故起こしたら、辞めてもらうわ」

 むしろ母の南の方がこういう時はしっかりしているように見える。


「わかった」

 ともかく、両親の許可を得て、翌日には学校の許可も取って、週末から働くことになった。

 労働時間としては、土日の休みは朝から晩まで。平日は放課後の夕方から閉店の9時までになった。



 その初日。

「まあ、真姫ちゃんなら心配ないと思うけど、ちょいと説明すると~」

 50ccのスーパーカブを前にして、90ccのスーパーカブのシートに腰かけたままの京香が口を開く。


「スーパーカブってのは、自動遠心クラッチって言ってね。左手でクラッチ操作がいらないから。ギアは3速までね。ただ、通常のバイクと違って、踏み込んだらシフトアップするから。あと、ウィンカー類は全部、右側にあるから気をつけてねー」

 京香の簡単な説明だけ、あとは実際に乗ってみて学べ、ということだろう。


 配達に関しては、今は昔と違って、携帯をナビに使えるので、わざわざ地図を持参しなくても携帯一つあればどうとでもなる。


 こうして、真姫の配達バイトが始まった。


 時間帯は、主に土日の日中が多く、その時間帯に得意先や常連客に作ったばかりの食べ物を届ける。


 岡持ちというのは、よく出来ており、バイクの荷台の岡持ちの中に丼物を入れて、バイクを傾けて走っても、(こぼ)れないように出来ている。


 そのことにも密かに感心した真姫だったが、彼女の興味を最も惹いたのは「カブ」自体だった。


 元々、スーパーカブは、設計時から自動遠心クラッチとロータリー式変速機構により、左手のクラッチレバーを廃止し、ウィンカー類などを右手側に上下作動式のスイッチとしてまとめている。


 つまりは、「片手運転が前提」の設計である。


 真姫には、これが面白く感じて、実際に慣れてきたら、右手一本だけで運転できることがわかって、興味深かった。


 また、最初こそ戸惑った、シフト機構が通常のバイクと逆、つまり踏み込んだらシフトアップという仕組みも、慣れてきたら楽にさえ思えてきた。


 おまけに、女性からしたら、スカートでも乗れるという設計は、ありがたいと思っていた。


 そして、なんと言っても50cc故の軽さから、ほとんど自転車並みに扱いやすい上に、軽くて丈夫で、燃費もいい。


 スーパーカブが、今や世界中で使われる、「労働者のバイク」と化している理由がわかった気がしていた。


 ただ、実際に出前をしていて、問題ももちろんあった。


(タクシーとバス、ウザい)

 正直に感じた感想だった。


 東京都府中市を中心に、その周辺の国立市、国分寺市が配達の大部分で、たまに多摩川を越えて稲城市に行く程度の狭い範囲で配達を担当していた彼女だったが。


 その区間でも常にタクシーやバスは動いている。


 それも、彼らは客商売だから、突然停止をする。

 バスはともかく、タクシーは客がいると、突然、右や左に曲がるし、予測が全くつかないのが問題だった。


 おまけに、彼らの、特にバスのせいで大きな街道の流れが悪くなっている。


 実際に配達をしてみると、そういう問題が浮かび上がってくることがわかった。


 最初の配達を終えて店に戻ると、すでに配達を終えた京香が、厨房から出てきた。

「どうだった、真姫ちゃん?」


「バスとタクシー、ウザい。何とかして」

「いや~。そんなこと私に言われても~」


 まあ、当然だろう、と真姫は自分で言っておきながら思っていたが、


「でもね、タクシーはマジで気をつけてねー」

「何で?」


「あいつらにブツけると、余計に金額請求されるからねえ。まあ、適当に距離取って走って。あと、ウチの客はあまり時間にうるさくないから、ゆっくり安全運転でいいよ~」

 そう言われて、真姫としては胸を撫で下ろしていた。


 何よりも、この店は雰囲気がいい。

 客層も、少ないものの、上品な客が多いと感じるし、実際に配達をしていても、「遅い」などのクレームがほとんどなかった。


 むしろ、

「いつもありがとうございます」

 と感謝されることが多かった。


 何かと、「クレーム」ばかりつける世の中で、日本人の心が狭くなっているように感じていた真姫にとって、ありがたい職場だった。


 だが、それだけに、彼女は、少し違和感を感じていた。

 その理由は、


(もっと繁盛していいはず)

 以前に見たように、夕方の時間帯にも関わらず、客が少ないように感じたのだ。


 配達先の数の多さから、デリバリーで稼いでいる部分があるのかもしれないが、店に来る客の少なさが気になった。


 味は悪くないし、雰囲気もいい。

 なのに、客足はイマイチな気がする。


 お世話になっているし、親友の実家だから、何とか手助けしたい。

 真姫はそう思うと同時に、頭にふと思い浮かぶことがあった。


(この店は、もっと有効利用すべきだな)

 その「有効利用」すべき対象。


 それが「京香」だと思った。

 話は、「バイク」とは全く関係ない方向に飛躍していく。

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