表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆるツー  作者: 秋山如雪
5章 房総
27/82

26. 夜空に浮かぶ光

 海ほたるを出発した後、今度は真姫が先頭に立った。


 彼女には、行ってみたい場所があったのだ。

 丁度、時刻は午後3時半を回った頃。あと1時間もすれば日没時間を迎える。


 そんな中、京香に「晩飯は、私の好きなところにするからね」と言った手前、それなりの場所を選ぶべき、だと思った。


 同時に、すでに早くも「房総半島」から遠ざかっているが、このツーリングの最後に相応しい場所に行こう、と。


 長い東京湾アクアラインの海底トンネルを走り抜け、川崎浮島ジャンクションを右折し、首都高速湾岸線の広い道路に出る。


 そこからインターチェンジを降りて、すぐのところに彼女の目的地はあった。


 羽田空港国際線ターミナル。


 その「P」と書かれた大きな建物にバイクを乗り入れていく真姫。丁寧に、バイク用に駐車入口が設けられたいる、その巨大な楕円形の建物に入り、バイクを停める。


 ヘルメットを脱いだ京香が、

「マジで空港じゃん。こんなところに何の用があるの?」

 そう言ってきたが、真姫にはその質問が来ることは予想済みだった。


「京ちゃん。夜の空港は面白いんだよ。あと、特にこの国際線ターミナルは色々あって面白いって聞いたからさ」


「私はいいと思うよ。空港って、色々あってワクワクするよね」

 蛍は、明らかに賛成の立場のようで、目を輝かせていた。


 早速、駐車場から真姫の先導で、羽田空港国際線ターミナルのビルに入って行く。


 そこには、まさにきらびやかな世界が広がっていた。

 国内、海外問わず多くの観光客が集い、それに応じて飲食店も観光客用の土産店も、様々に広がり、賑わいを見せている。


 特に海外観光客向けに「江戸」をイメージした、江戸時代のような瓦屋根風の建物が、高い吹き抜けの空間の下に築かれている辺りは、外国人でいっぱいだった。


 ターミナルの出発ロビーは、流線形の高い屋根、吹き抜けの開放感のあふれる造りが美しく、訪れる人の目を惹くには十分だった。


 さらに、和洋様々な飲食店が建ち並び、ラーメン屋や寿司屋のような日本的な物から、洋食屋、バー、喫茶店など雑多ながらも、飲食に関しては選び放題の状態だった。


「おお! 初めて来たけど、なかなかすごいね」

 来ることを渋っていた京香が真っ先に好意的に反応していた。


「でしょ。今日の晩飯はここで選び放題だよ。その前に、展望デッキに行こうか?」

 真姫は、再びツカツカと歩き出した。


 数多くの飲食店を横目に見ながら、彼女は真っ直ぐに展望デッキを目指す。


 時刻はちょうど、夕闇が迫る頃。


 西の空が赤紫色に染まり、宵闇よいやみが空港周辺を覆う中、展望デッキは、広くて開放感に満ち溢れていた。


 老舗とも言える、羽田空港国内線ターミナルや成田空港と違い、まだ開設してからそれほど時間が経過していない、この羽田空港国際線ターミナルは、真新しく、そして、設計上、開放感のある広い造りになっている。


 そこからフェンス越しに見える、無数のマークを掲げた飛行機たち。

 宵闇に照らされ、無数の色とりどりの明かりが空港を覆い尽くし、それらが光の筋のように夜空へと伸びていた。


 まるで無数の「夜空に浮かぶ光」にすら見える、夜の空港を彩る幻想的な光景。それが目の前に展開されていた。


 それに加え、時折、腹に響き渡るような轟音が全身を包み込む。


 それらをフェンス越しに眺める真姫の瞳が輝いていた。

「やっぱいいよね、飛行機……」

 少し、うっとりとした表情で、見つめる真姫。


「マジで変わってるよね、真姫ちゃん。男の子みたい」

 そんな彼女の横顔に京香は、心なしか溜め息混じりに口にしていたが、


「でも、わかる気がするべ。私も飛行機見てたら、北海道に帰りたくなるし」

 蛍は蛍で、遠い故郷の北の大地を思い出すかのように、真姫に同調していた。


「私は、もうちょい可愛くて、オシャレなところがいいなあ」

 京香の呟きに、真姫は、


「昼間、あんな男らしいラーメン食ってた、京ちゃんが言うセリフじゃないね」

 風に吹かれたセミロングの髪をかき上げながら、彼女は微笑んでいた。


「うるさいなあ、もう。ほら、ご飯食べに行くんでしょ。まだ早いけど」

 そんな真姫を促す京香。


 結局、その後は、多数の土産店を冷かして、時間を潰し、夕方から夜になり、ようやく晩飯にありつくことになった3人。


 その日の晩飯は、真姫の提案で、ステーキを中心とした洋食屋だった。

 どちらかというと、女子受けがするような、オシャレで綺麗で、落ち着いた雰囲気の店だった。


 ようやく、そのツーリングの最後に、女子らしい物を食べる3人。


「今日は楽しかったべ。したっけ、また」


 北海道弁で別れの挨拶をして、蛍が去って行く。


 食後は、蛍だけが横浜方面ということで解散となり、真姫と京香は同じ方面なので、インカムを着けたまま、首都高速を走り始めた。


「京ちゃん。インカム、面白いし、便利だね」

 先を走る真姫がインカム越しに声をかける。


「そっか。良かったじゃん。蛍ちゃんも喜んでたし」

「うん。杏はまだちょっと苦手だけど、蛍ちゃんとならいい」

「まーだ、そんなこと言ってんの? 事故の件で仲良くなったんじゃないの?」

「別に、仲良くはない」


 そんなことを平然と言ってくる親友に、京香は、思い出したかのように、そっと口を開いた。

 それが次のきっかけに繋がるとは露知らずに。


「たまにはウチにもおいでよ。お父さん、真姫ちゃんに会いたがってたし」

「うーん。まあ、いいけど」


 中学生時代は、しょっちゅう京香の家に遊びに行っていた真姫。彼女は京香の父とも顔見知りだった。

 そもそも中華料理屋を営んでいる彼女の父。

 

 つまり、自営業者にして経営者。

 その京香の実家の中華料理屋には、ご飯を食べに何度も伺っていたからだ。


 その彼女の父が、新たな「きっかけ」となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ