表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆるツー  作者: 秋山如雪
5章 房総
26/82

25. 秘境のラーメン屋

 上総中野駅を出発した3人。思わぬ形で時間を潰し、すでに昼に近い時間になっていた。


 京香の先導で向かった先は、彼女の言う「秘境のラーメン屋」。


 彼女によれば、「上総中野駅から25分くらいで着く」はずだったが。


「あっれー。おかしいな。ここじゃなかったっけ?」

「何、場所わからないの?」


 インカムを通して、京香の戸惑ったような声が聞こえてきた。

 彼女は、道端にバイクを停車させ、携帯のナビを睨めっこしていた。


「うん。ナビだとこの辺のはずなんだけどねー」

「でも、京香ちゃん。この辺、何もないよ」

「だよねー」

 蛍に言われて、改めて辺りを見回すと、周囲には森と畑くらいしか見えない。


「着かないんだったら諦めようよ。大体、私、おなか空いてきたしさあ」

「いや。ここまで来て諦めたら、冒険者の名がすたる! 私は諦めないぞ」

「だから、何のRPGだよ?」


 真姫は思わず突っ込んでいたが、事実としてすでに12時を回っていた。昼時だ。しかも朝からほとんど食事を取っていなかったため、彼女は空腹を感じていた。


 だが、意地になっている京香は、止まらなかった。

「よし、大体わかった。こっちだ!」

 勢いづいた彼女は、ナビを頼りにさらにバイクを飛ばす。


 さらに道に迷い、そして、迷い続けること20分。


「おお、これだよ!」

 着いた先に、確かにそれはあった。


 ラーメン屋だ。

 間違いなく。その証拠に、「ラーメン」と書かれたオレンジ色ののぼりが無数に沿道に建っていた。


 ただ、何故こんなところに忽然とラーメン屋があるのかが謎だった。

 周りは森と畑しかない、明らかな僻地だったからだ。交通の便が悪すぎる。

 おまけに駐車場には。


 かなり多くの車とバイクが並び、そしてまるで昭和のおばあちゃんの家みたいな、レトロな茅葺かやぶき屋根の大きな建物の入口付近には。


 大行列が出来ていた。


 ひとまず、駐車スペースにバイクを停めた3人だったが。

「え、マジで? 何でこんな混んでるの?」

「今日、日曜日だし。ここ、結構人気あるんだよ」

「どうするの、京香ちゃん? 並ぶ?」


「当然! せっかくここまで来たんだし」

 勢いづいて、威勢のいい声を上げる京香に対し、


「えー、マジで。私は並びたくないなあ」

 真姫は、親友とは正反対に、鬱陶しい物を見るように、行列を目で追っていた。そもそも人混みや渋滞が彼女は嫌いだからだ。


 だが、

「ちょっ、真姫ちゃん。それはないって。せっかく『()()のラーメン屋』に来たんだよ。私が真姫ちゃんの分もおごってあげるから、並ぼ!」

 その親友が必死に拝み倒すように、真姫に両手を合わせてきたので、


「『秘境のラーメン屋』じゃなかったの? いいよ、京ちゃん。奢ってくれなくても。付き合ってあげる」

 さすがに少しかわいそうになって、真姫は頷いた。


「よっしゃ! 2人とも並ぶぞー!」

 途端に元気を取り戻した、京香に苦笑しながら、真姫は蛍と共に京香に従った。



 だが。

(遅いなあ)

 内心、真姫は苛立っていた。


 行列は遅々として進まず、気がつけば並び始めてからすでに30分以上は経過している。


 元々、「並ぶ」こと自体が好きじゃない。つまり、ある意味では「日本人的な」行動を嫌う、はぐれ者の真姫にとって、この「待つ」という時間自体が苦痛だった。


「京ちゃん。晩飯は、私の好きなところにするからね」

 思わず、そう京香に告げる真姫に、


「うん、わかった。ごめんねー、真姫ちゃん」

 彼女は必死に頭を下げていたが。


 実際、問題としてここはかなり時間がかかった。

 店内に入るまでに40分。さらに店内で注文を取って、その注文が届くまでに30分。

 合計、1時間以上。


 すでに時刻は午後1時40分を回っていた。


 真姫は、さすがに空腹と行列にイライラしていたが、京香は、ようやく運ばれてきたラーメンを前に目を輝かせ、


「まあ、真姫ちゃん。そんな怒らずに。とりあえず食べてみなよ」

 自分の前と、真姫の前、そして蛍の前に置かれた丼に目をやった。


 真姫と蛍は、オーソドックスな「ラーメン」。京香は欲張りに「チャーシュー麺」だった。


 初めて見るそのラーメンは、まさに「スタミナラーメン」だった。

 玉ねぎがどっさりと載り、すり下ろしたニンニクやニラの匂いが強烈に漂ってくる。おまけに油面が赤茶色に染まっている。


からそう)

 一瞬、そう思った真姫だったが、実際に食べてみると、思っていたよりは辛くはなかった。


 中太のコシのある縮れ麺を使っていて、ニンニクの入ったスープと絡めて食べると、一気に体が暖かくなるように感じる。


 つまり、今のような冬の時期に食べるには、いいとすら思った。


「どう、どう? 真姫ちゃん? 美味しいでしょ?」

 やたらと感想を求めてくる親友に対し、


「まあ、美味うまいけどさ。でもね、京ちゃん」

「うん?」

「秩父のわらじカツ丼といい、このラーメンといい、何で男が食べるような物ばっかなんだ? 全然、女子っぽくないでしょ」

 その真姫の一言に、蛍は笑いながら、


「そだねー。それに関しては、私も真姫ちゃんと同意見。でも、体が暖まるね」

 言い放っていた。


 なんだかんだで、完食した3人が外に出ると。

 時刻はすでに午後2時を回っていた。


「じゃあ、早いけど帰ろうか?」

 そう提案する蛍の一言が、真姫には意外だったため、


「えっ、もう帰るの?」

 と思わず聞いていたのだが。


「冬のツーリングは時間との勝負だからね。陽が落ちると一気に寒くなるし。それにグズグズしてると、アクアラインが混むから、その前に抜けたいんだよ」

 理路整然とそう述べる、蛍の意見には一理ある、と真姫は思い、頷いていた。


 彼女は、再び先頭に立ち、走り始めた。

 時間短縮と、渋滞回避のため、最寄りの圏央道の市原鶴舞インターから高速に乗り、そのまま東京湾アクアラインを越えて、1時間ほどで一気に海ほたるPAへ到着。


 午後3時台で、まだ陽が暮れてはいなかったが、冬の弱い陽射しが一段と弱くなってくる時間帯であり、しかも東京方面へ向かう路線は、すでに混雑してきていた。


「蛍ちゃんの言う通りだったね。混む前にさっさと抜けちゃおう」

 その海ほたるでさえ、真姫はロクに立ち寄ろうともせず、混雑ぶりを見て、先へ進むことを促していた。


 渋滞と人混みを嫌う、蛍と真姫が中心になり、もう少しゆっくりしたい、と訴える京香の意見を却下にして、先を急ぐことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ