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ゆるツー  作者: 秋山如雪
4章 山梨
22/82

21. 富士山を眺めながら

 そこから先は、真姫にとっては、気ままで、煩わしさを感じることもない、一人旅が続く。


 どこを走っているのか、ナビ頼りだったので、彼女自身がわかっていなかったが、笛吹川フルーツ公園を降りて、国道20号を越え、川沿いの道をひたすら走り、やがて峠道を越えた。


 1時間くらい走ると、その峠道が終わり、道路標識に「河口湖」の表示が出てきた。

 まるでそれに導かれるように、彼女は、バイクを標識の方向に向けた。


 国道を右折して、しばらく走ると、大きな水を湛えた湖が姿を現した。午後になり、太陽が顔を出し、陽光に照らされた水面みなもが輝いて見えて、彼女にはとても美しく見えた。


 それが河口湖だった。富士五湖の一つであり、この辺りの観光のメインスポットでもある。


 その河口湖のほとりにある、大石公園というところに駐車場があった。


 そこにバイクを停めると、目の前に富士山の威容が迎えてくれた。


 笛吹川フルーツ公園で見た時よりも、明らかに大きくて、迫力のある富士山が、湖の向こうに見えた。


 彼女は、それに惹かれるように、湖のほとりに足を向ける。

 土曜日の午後ということもあり、多くの観光客で賑わっているその場所ではあったが、湖のほとりからは、水面の向こうに、雪をかぶった富士山が見え、その富士山の姿が水に映っていた。


(綺麗……)

 思わず見とれるほど美しい、11月の富士山がそこにあった。


 富士山は一年中、山梨県からは見れるが、特に春や秋の方が空気が澄んでいて、晴れる日が多いから、綺麗に見える。


 逆に夏は雲がかかって見えないことが多く、しかも頂上には雪をかぶっていない。


 ある意味、気象条件が揃わないと、美しくは見えない山だが、揃えば絵画のように美しく見える。


―河口湖から見た富士山―


 しばらく富士山を堪能し、湖のほとりから駐車場に戻りながら、携帯からLINEメッセージを京香に向けて送る真姫。


 労働中と思われる京香だったが、返信はすぐに返ってきた。


―おお! 晴れたね! めっちゃキレイ!―


 さらに続けて、


―ついでに山中湖まで行っちゃえ。その近くに、富士山がよく見える日帰り温泉があるよ~―


 と送られてきて、彼女はほくそ笑んでいた。


(京ちゃんがナビしてくれてるみたい)


 真姫にとって、不慣れな道が多いこの辺り。一人で来たことを後悔はしていなかったが、それでもこうして情報を送ってくれる知人がいることがありがたかった。


 河口湖から、山中湖までは近い。


 距離にして、およそ20キロ程度。

 だが。


(混んでんじゃん)

 その20キロの道のりが厄介だった。


 ただでさえ、国道とはいえ、1車線ずつの狭い道路。それに加えて、土曜日ということで、首都圏からの観光客の車が押し寄せ、絶え間のない渋滞を作り出していた。


 おまけに、道幅が狭いため、バイクによるすり抜けも、非常にやりづらい。


(うっとうしい)

 と思いながらも、ダラダラと続く渋滞に耐えながら、何とか、山中湖に着いた時には、30分以上も経っていた。


 陽は少しずつ傾いてきており、この時期ならではの早い日没が迫ろうとしていた。


 その山中湖に着くと、走りながらでも、湖面に映る、雄大な富士山の威容が見えて、彼女を感動の気持ちに導いてくれたが、長池親水公園と呼ばれる、湖のほとりにある駐車場に着いた時。


 さらなる威容が目の前に広がった。


 湖面に鏡のように映り込む富士山の雄大な姿、美しい線を描く山の稜線、そして頂上付近に帽子をかぶったように載る雪。


 11月の富士山は、彼女の想像以上に美しかった。

 しかも、河口湖よりも、さらに富士山との距離が近い、ここ山中湖では、目の前に富士山がどっしりとその雄大な姿を見せてくれる。


 ここで写真を撮り、しばらくボーっとした後、真姫は京香が教えてくれた、日帰り温泉に向かった。


 京香はわざわざLINEにURLを貼りつけて、場所まで教えてくれた。


 それは、少しだけ戻る形にはなるが、国道138号にほど近いところにある、日帰り温泉で、夜遅い時間まで営業しているらしい。



 着いてみると、思っていたよりも綺麗で、新しい施設で、大きさも、彼女が国道411号で入った日帰り温泉施設よりも大きかった。


 何よりも、露天風呂から富士山を眺めることが出来るのが、彼女にとっては最高の贅沢に思えた。


 午前中は雨に当たって、日帰り温泉に逃げていた彼女だったが、今度は晴れた天気のもと、堂々と富士山を眺めながら、温泉に浸かることが出来るのだった。


 そのことに満足し、思ったよりも長湯をしてしまい、湯上りに休憩室の畳の上で横になっていた彼女。


 次に目が覚めた時、外はすでに真っ暗になっていた。


 ふと、携帯の時計を確認すると。

 

 午後7時を回っていた。

(ヤバ。寝過ごした)


 単純にそう思っていた、彼女だったが、そんな彼女の思惑とは裏腹に、夜の危険が彼女の身を襲うことになる。


 それは田舎ならではの、夜の闇。


 長湯して、しかも寝過ごしていた彼女は、すっきりした表情で、日帰り温泉を出たが。


(暗っ!)

 駐車場に出ると、ほとんど真っ暗で、見えないのだった。


 何よりも、自分のバイクの鍵穴すら見えず、携帯で明かりを照らし、何とか鍵穴に鍵を入れるしかなかった。


(これから、京ちゃんが言ってた、道志みちを通るのか。大丈夫かな)

 携帯の地図アプリを見る限り、その「道志みち」の辺りは、完全に「山」だったからだ。


 夜の山を越えるという、真姫が経験したことがない、試練が始まる。

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