13. 突然の連絡
人と人との出逢いは、不思議であり、必然であり、そして一期一会である。
出逢ったことで、家族にすら影響を与えてしまうこともある。これはそうした物語。
その日、土曜日。
学校は休みで、真姫は以前、京香に教わった山梨県道18号に、一人でツーリングに行こうとしていた。
ただ、前日に夜更かしをして、読書をしていた関係で、起きたのが昼近くになっていた。
彼女にとって、少々鬱陶しいとも感じていた、バイク乗りの父は朝早くから、昔馴染みのツーリング仲間と出かけており不在だった。
そのため、準備をして、ガレージに向かった彼女は、父のバイクがない関係で、いつものようにわざわざ自分のバイクを押して出る必要がないため、気分が良かった。
(今日はツイてる)
そう思っていた。
バイクにまたがって、キーをひねり、イグニッションスイッチを入れる。ここからは一人の時間だ。
思う存分、バイクを走らせられる。
そう思っていた矢先。
ナビに使うため、バイク用スマホホルダーに装着していた携帯が鳴動した。バイブモードにしていたから音は出なかったが、そこに表示されていたのは。
(白糸杏……)
LINEで通知されていた。
電話番号はかわしていなかったが、LINEグループに入っていたから、互いに連絡先はわかるのだろうが、彼女には意外すぎる相手だった。
「はい」
物凄く嫌な予感を感じながらも、渋々出ると。
「あ、真姫。良かったー!」
何とも切羽詰まったような声だった。
(呼び捨てかよ)
大して親しくもないはずなのに、いきなり呼び捨てにされ、彼女は不快感を覚えていた。そもそも真姫はこの杏というギャルが苦手だ。
だが、
「私、今からツーリングに行くところなんだけど」
明らかに不機嫌な声で答えていた彼女に対し、電話口の杏の声は、いつものようなパリピ全開の口調ではなかった。
「ちょっとそのツーリング待って。悪いけど、今すぐウチに来てくれない?」
「はあ? 何で? 大体、頼み事なら、友達の蛍ちゃんに言えばいいだろ」
だんだん苛立ってきて、口調が雑になっていた真姫。
ところが、杏は、
「蛍は家族で出かけてていないんだよ。お願い。今はあんたしか頼れる人がいないの」
いつにも増して、切羽詰まっているような様子で、口調が完全に普通になっていた。
確かに、蛍がいなくて、京香に頼ったところで、彼女は確か今日は家の仕事の手伝いと言っていたはず。だが、他に学校の友達とかいないのだろうか、とも思ったが。
仕方がないので、一度エンジンを切って、会話に集中する。
「で、何だ? 大体、杏の家は横浜だろ。ウチから遠い」
向こうが「呼び捨て」で来るなら、こっちも呼び捨てにしてやる。そういう思いで、彼女は自然に呼び捨てにしていた。
だが、杏はお構いなしに、まくし立てるように続けた。
「あんたの家、府中だったよね。そこからなら遠くないから。ウチ、横浜でも青葉区なんだ。多分、バイクなら3、40分で来れるから」
有無を言わさない口調だった。
相当、切羽詰まった様子が窺えるため、真姫は大きな溜め息をつきながらも、渋々、
「わかった。けど、これは一つ『貸し』だからな」
と言った途端、
「サンキュー。恩に着るよ。じゃ、住所はLINEで送るから」
杏はそう早口でまくし立てた後、速攻で電話を切ってしまった。
(まったく何なんだ。最悪の1日だな)
そう思いながら、待っていると、すぐにLINE通知が来た。
住所は、横浜市青葉区。私鉄の東急田園都市線の青葉台駅の近く。一口に横浜市と言っても、行政区が18もあり、面積は広い。青葉区は、横浜市でも中心部からは遠く、どちらかと言うと東京に近い。
すぐ隣が川崎市麻生区で、その隣が東京都稲城市。その隣が府中市になる。
携帯のナビで、その住所を行き先にセットしてみると、道が混んでいるため、実際は50分くらいの計算にはなった。距離的には、約20キロ。
真姫はバイクを動かした。
本来の目的地となるはずだった山梨県とは全く別の南に向かって。
走りながら、
(あのギャル。普通にしゃべれるんじゃん)
てっきり、ああいうしゃべり方しか出来ない、「痛い」奴なのか、とすら思っていた真姫。
だが、当の本人の杏は、その頃、本当に困っていた。藁にもすがる思いで、真姫に連絡をしたのだった。




