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ゆるツー  作者: 秋山如雪
2章 奥多摩
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12. 奥多摩の名物

 結果的には、京香のオススメの日帰り温泉施設は、二人とも満足できる内容だった。


 小綺麗な建物、中も新しく綺麗で、女性受けする場所とも言える。そして、露天風呂からは、一面の緑。


 奥多摩の雄大な自然を見ながら、ゆったりと風呂に浸かるのは、旅の疲れを癒すには十分だった。


 3人は、湯船に並んで浸かりながら、会話をする。

「どう? ここ、最高でしょ」

「うん。よく知ってたね、京ちゃん」


「私はこれでも、多摩生まれの多摩育ちだよ。小さい頃から何度もこの辺、来てるし」

「だから何で上から目線なんだ?」


 そんな二人のやり取りを、蛍は羨ましそうに眺めながらも、

「いいねー。近くにこんなところがあって。横浜って都会だから、近くにはこんな大自然がないんだ」

 と呟いていた。


「でも、房総半島は行きやすくていいんじゃない?」

 真姫の頭にあった地図では、横浜のすぐ対岸が千葉県の房総半島というアバウトなイメージだった。


「そだねー。川崎のアクアラインを使っても、横須賀からフェリーに乗っても行けるから、近いと言えば近いね」


「じゃあ、いつかみんなで房総半島ツーリングに行こう!」

 もう完全に行くつもりになって、一人テンションを上げている京香。


 そんな彼女を見て、真姫は、思い出していた。それは今日のツーリングでのこと。

「でもさ、京ちゃん。あの奥多摩周遊道路はダメだね」

「なにが?」


「だって、バイク多すぎだし、みんなスピード出してるし、危ないじゃん」

 そう思ったことを告げる真姫に対し、京香は、


「相変わらず、のんびりしてると言うか、マイペースだね、真姫ちゃんは」

 嘆息していたが。


「バイクは速く走らせることがすべてじゃない。私は、景色を見ながらのんびり走りたい」

 そう強く主張する、真姫の意志の強そうな瞳を見て、ふと何かを思い出すように、京香は口を開いた。


「それなら、いい道があるよ」

「どこ?」

「県道18号」

「県道18号? どこ?」


 京香は、少し得意気になって、わざわざ丁寧に口だけで説明を始めた。

「奥多摩周遊道路から、ちょうど山を一つ越えた先にあってね。小菅こすげ村ってところまで伸びてる道だよ。路面状態も悪くないし、交通量も少ないし、奥多摩周遊道路ほどかっ飛ばす奴も少ないし、真姫ちゃんみたいなバイク乗りには、いいかもね」

「小菅村?」


「山梨県だね」

 代わりに蛍が答えていた。


「へえ。そこからもう山梨県?」

「そう。正確には山梨県の上野原市から、国道411号まで続いてる道で、山梨県道18号だね。私も走ったことあるけど、途中にコンビニも道の駅もなーんもないところだけどね」


「だよねー。走ったことあるけど、マジで何もなかったなあ」

 京香は、つまらなさそうに回想していたが、むしろ目を輝かせたのは、真姫だった。


「いいね。私はそういう何もない、自然に溢れた道が好きなんだ」


「変わってるよねー、真姫ちゃんは」

 京香はそう言って、呆れたように、外の緑に目をやっていたが、蛍は、


「あ、でも私は真姫ちゃんの気持ちわかるべ。東京みたいなビルばっかのところにいたら、自然が恋しくなるんだべ。私もたまに、何もない自然の中に行きたくなるよ」

 どこか遠い目をしながら、思い出すように発していた。


(あれは、故郷の北海道を思い出してるなあ)

 と真姫は、直感的に思いながらも、手つかずの大自然が多いという北海道に、少しだけ憧れるのだった。


 長湯をした後、各々が上がってきて、畳の上で少し休憩してから、食事に向かった。


 幸い、ここには食事(どころ)が併設されている。


 そこで、京香のオススメの「川魚」の定食を頼むことになった。

 待っている間。


「京ちゃん。川魚って、具体的には何?」

「何だったかなあ。忘れた」

「適当だなあ。覚えてないの?」


 二人のやり取りを見て、蛍が、

「まあまあ。来たらわかるっしょ」

 となだめていた。


 そして、実際に来た物を見て、真っ先に反応したのが、その蛍だった。

「これはヤマメの塩焼きだべ。美味しそう」


「蛍ちゃん。わかるの?」

 露骨に反応し、目を輝かせて蛍を見る京香の様子が、真姫には可笑しくて仕方がなかった。


「うん。私、北海道ではよくお父さんに連れてもらって、釣りやってたから」

「へえ。釣りかあ。渋い趣味だね」

 京香は、そんなことを言いながらも、早くも魚に箸をつけ始めていた。


 実際に食べてみたところ。

 真姫には、ヤマメがふっくら焼きあがっているように感じ、それに塩味が程よく利いており、何とも言えない美味と思えたのだった。


 それに加えて、ご飯に、お新香、小鉢、こんにゃく、味噌汁までついていた。


 およそ女子高生が好んで食べる味とは程遠い、和風の食事だったが、それでもある意味で「女子高生らしくない」真姫には、これはこれで大満足だった。


 風呂で時間を潰し、食事を取って、結局、時間は午後2時を回っていた。


「じゃあ、早いけど帰る? 蛍ちゃん家、ここから遠いでしょ?」

 日帰り温泉施設を出た後、京香が彼女を気遣うように、そう告げた。


「そだねー。明日、学校あるし、今日は早めに帰れるとありがたいかなあ」

「横浜の家まで、ここからどんくらいかかるの?」

「うーん。混んでなければ、2時間半くらいだけど、どうせ混んでるから3時間かな」

「3時間! それじゃ残念だけど、解散だね。途中まで一緒に行こう」


 京香と蛍のやり取りによって、蛍の帰宅が決まり、勝手に話が進んでいたが、真姫としても、そんなに長居するつもりはなかったから、特に反対はしなかった。


 幸い、まだ早い時間だったこともあり、奥多摩から都心への道は、思ったより混んではいなかったが、これがもう少し遅い時間になると、行楽帰りの都内ナンバーで溢れて、大渋滞を生み出すことになる。


 途中、コンビニで蛍が横浜方面に分岐することになり、そこで別れることになった。


 別れ際、

「蛍ちゃん。今日は誘ってくれてありがとう」

 と笑顔で見送る京香。


 対して、真姫は、

「蛍ちゃん。インカムって面白い?」

 いきなり脈絡のないことを言い出したので、蛍は困り顔で返していた。


「うん? 何、買うの?」

「買ってみてもいいかな、って。使ってる機械って、4人でも通信できるの?」

「うん、確か出来るよ」

「メーカーとか型番はわかる?」

 いきなり流暢にしゃべり出し、ぐいぐい聞いてくる真姫に、蛍は少し戸惑い気味に、苦笑を浮かべながら、


「家、帰らないとわかんないかな。今度、LINEで送るよ」

 とだけ返して、別れの挨拶をして去って行った。


「何、真姫ちゃん。やっぱ興味あるんだ? インカム?」

「別に。どんなもんかと思っただけ」

「もう素直じゃないな。やってみたいならそう言えばいいじゃん。買いに行く時、付き合うよ」

「いや。どうせネット通販で買うから」

「もう真姫ちゃんは」

 京香は、そんな真姫の様子を見て、少し呆れたような表情をしていたが、真姫は真姫で少しだけ、インカムに興味が出てきたのも事実だった。


 秋は深まり、徐々に晩秋へと向かう中、奥多摩へのツーリングは終わる。


 真姫は、一人密かに、

(今度、一人で県道18号に行ってみよう)

 そう心に決めていた。

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