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ゆるツー  作者: 秋山如雪
2章 奥多摩
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10. 奥多摩の奥

 そこからは奥多摩周遊道路をひたすら下る、下り道に入る。

 全体的に言えることだが、ここを走るライダーは、平均速度が速い。


 何度も後ろから抜かれながら、真姫は内心、思っていた。

(みんな、スピード出しすぎだな)

 あくまでマイペース。決して自分のペースを崩さない彼女は、速いバイクが来たら、自然とウィンカーを出して、脇に寄って譲るようになっていた。


 そうして、ゆっくりと風景を味わいながら、徐々に道を下っていく。

 やがて、緑に包まれた道を下りきると、右手に水が見えてくる。


 奥多摩湖。正確には「小河内おごうちダム」と言い、人造のダム湖であるが、ここは東京都民にとっても重要で、東京都の水源は、利根川水系を主としているが、渇水時の水瓶としてここが利用され、発電された電力が東京電力へと供給されている。


 そのダム湖を右手に見ながら、やがて灰色のアーチ橋と黄土色のアーチ橋を越えて、右折。


 灰色の方を、「三頭みとう橋」、黄土色の方を「深山みやま橋」と呼ぶが、それより真姫の目を引いたのが、そこからしばらく行ったところにある、一際目を引く、深紅のアーチ橋だった。


(綺麗な橋)

 思わず見とれてしまうくらい、鮮やかな朱色に包まれたその橋の名を「峡谷きょうこく橋」と言った。


 しかも、丁度少しずつだが、この辺りは紅葉に染まっており、色とりどりの木々が、目にまばゆいくらいに飛び込んでくる。


 クールでリアリストなところがある真姫にとっても、そこは十分に楽しめるのだった。


 やがて、くねくねしたカーブが多い、湖の周りの道を走り、いくつものトンネルを越えると、蛍は右折した。


 ついて行くと、巨大な駐車場に着き、駐車場には無数のバイクが停車していた。


「奥多摩湖、到着!」

 いつもよりも、明るい声を上げ、蛍がヘルメットを脱いで、叫ぶように言い放った。


「いいねー、ここ。紅葉綺麗だし、ちょっと見て行こう?」

 京香も続き、真姫もまた彼女たちの後に続いて、湖のほとりへと向かう。


 道路を横切ってすぐのところが、ちょっとした広場になっており、水際にベンチが置かれ、そこから奥多摩湖(小河内ダム)が一望の元に見渡せる。


 遠くが紅葉に染まる中、その紅葉の色が湖面に当たって、湖が色づいているように見える景色は、初めて来る真姫にとっても感動を与えるに十分だった。しかも、この辺りから天気が回復してきており、薄い雲の隙間から太陽が顔を出していた。


 そんな中、真姫が写真を撮っている横で、蛍がLINEグループに写真をアップしていた。


 すると、

「リアタイうぷ、あざお! バイトなかったら、行きたかったぽよ」

 恐るべき速さで、返信が返ってきた。もちろん相手は、杏だ。


(相変わらず何言ってるかわかんねー。つーかバイト中に何やってんだよ)

 真姫は心の中で、苦笑していた。


「まださすがに早いなあ。どっか行く?」

 ベンチに座ったまま、京香が呟く。


「そだねー。せっかくだから、奥多摩の『奥』まで行ってみる?」

「いいんじゃない? 鍾乳洞しょうにゅうどうがあるとこね」

 蛍と、京香は二人して、納得していたが、真姫は、さっぱり予想がつかないのだった。


(鍾乳洞? あったっけ?)

 その答えは、走り始めてからわかることになる。


 奥多摩湖に別れを告げ、今度は都内へと伸びる国道411号を走るが。

 トンネルを抜けて、しばらく行くと、先頭の蛍が左折した。

 川沿いの細い道で、「都道204号」と書かれてあった。


 そこから先は、まさに「山道」。すぐに住宅街を抜けて、周りから威圧感すら感じるほどの、濃い緑色の木々が覆い茂る。


 道幅は途中から、極端に狭い箇所があり、車同士だと離合が困難なほどの細くて、頼りない道が続く。


 そんな中を2、30分も駆け抜けて行く。

 まだバイクに慣れていない真姫には、恐怖すら感じる道だったが、それでも、

(車よりはマシかもしれない。こんな道、車で走るの大変そう)

 普通自動車免許はもちろん持っていないし、取れる年齢ではなかったが、父の車に乗ったことはあるし、バイクに比べて、横幅がある車では、この道は走りたくないと彼女は痛感するのだった。


 それだけに、むしろバイクで良かったと感じられる。


 やがて、道路脇に見えてくる標識で、ようやく何があるか、真姫は気づいた。

(日原鍾乳洞?)

 そう書かれてあった。


 それが目的地なのだろう、と。

 そして、3人は、この細長い山道の最奥に到着する。


 川沿いに張り出すように、設けられた、どこか頼りない駐車場。そこには「日原鍾乳洞駐車場」と書かれてあった。


「ひばら鍾乳洞?」


「違うよ、真姫ちゃん。これは『にっぱら』って読むんだよ」

「へえ」


 初めて来る、真姫は当然ながら知識もないし、読めていなかったが、京香も蛍も知っているようだった。

(つーか、京ちゃん。お店の手伝いもやってて忙しいはずなのに、何で知ってるんだ?)


 真姫にとって、それが不思議だったのだが、彼女が思っている以上に、京香はアクティブで、あちこちに出かけていたのだった。


 辺りはすでに紅葉に包まれており、しかも天気は回復傾向にあったが、それでもこんな山の中である。


 10月にしては、随分涼しいと感じるくらいの場所だった。

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