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ゆるツー  作者: 秋山如雪
1章 秩父
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プロローグ 人生と旅

 人生とはしばしば「旅」に例えられる。高校1年は、人生で一度しかないし、「青春」の旅も一度きりである。


 当たり前だが、それが真理であり、そしてここに今、まさに「旅」に出る運命にある少女が一人いた。


― 人が旅をする目的は、到着ではない。旅をすることそのものが旅なのだ ―


「深いなあ」

 東京都下、稲城いなぎ市。とある日帰り温泉施設。


 そこで、一人、湯上りに休憩所の畳の上でまったりと仰向けに寝転がりながら、ドイツの詩人、ゲーテの詩集を読んでいた少女が、一人呟く。


 肩まで伸びるセミロングの髪、身長160センチ前後で、細身で腕も足も細く、明らかに「力」などなさそうに見える。

 一見、クールにも見え、無表情に近いが、どこか意志の強そうな瞳が特徴的だった。


 その時、彼女の傍らに置いてあった携帯から、小さな音が鳴り、彼女はその携帯を手に取って、ロックを解除した。


―おつー。真姫まきちゃん。やっとバイク買ったんだって? 今度、一緒にツーリングに行こうよ?―


 LINEのメッセージだった。相手は「京香きょうか」とある。

 彼女の友人で、中学生以来の「腐れ縁」だった。


―いいけど、私、まだ免許取り立てで、慣れてないから、あんま遠くには行けないよ?―


―いいよー、別に。秩父ちちぶなんて、どう? 近いし、練習にはちょうどいいよ―


―まあ、いいけど―


―じゃあ、次の土曜日の朝7時に、道の駅八王子滝山に集合ね。よろ~―


 LINEメッセージを見て、笑顔のアニメスタンプが送られてくるのを眺め、「真姫」と呼ばれる少女は、ほくそ笑む。


「相変わらず、行動力が高いなあ、京ちゃんは」

 風呂上りで、長時間、畳の上で寝そべって、だらけていた真姫は、ようやく体を起こして、


「帰るか」

 呟いて、動き出した。携帯に示された時間は、すでに夜の11時を指していた。


 日帰り温泉施設を出て、駐車場に戻った真姫は、夜の月明りに照らされて光る、愛車の前に立つと、改めて見つめていた。


(これが私の初めての「バイク」。これからよろしくね。いつまで乗れるかわかんないけど)


 車体の横に「YAMAHA」と書いてある、青と白を基調とした、スポーティーなカウルつきのミッションバイク。

 ヤマハ YZF-R25。250ccのバイクで、2年前に発売されたモデルだった。


 この年の9月末。やっと普通二輪免許を取得し、つい1週間前にようやく納車したばかりのバイクだったが、高校生でお金に余裕がない彼女は、これを「中古」で手に入れた。


 それでも、値段は50万円以上もしたし、バイトをしていたとはいえ、貯めた金はほとんど免許取得費用に消えたため、そんな大金がなかった彼女はローンで購入した。買った時の走行距離は約2500キロ。


 バイクのことなんて、ロクに知らないし、整備も出来ない、速くも走れない。そんな少し怖がりで、どこにでもいる女子高生の彼女が、バイクに乗ったのには、もちろん理由があった。


 それが「京香」だった。


「寒っ!」

 まだ10月とはいえ、深夜になると途端に気温が下がってくる。


 昼間は、まだ暑いくらいで、交通量が多いこの辺りは、走っていても、すぐに信号機に停められて、その度に暑い思いをしていた真姫。


 すっかり交通量が少なくなった、深夜の稲城市を走り、やがてライトアップされた、橋脚上の巨大な塔からケーブルが伸びる斜張橋しゃちょうきょうが放つ、赤い光と、街灯のオレンジ色の明かりに照らされて橋を渡って、府中市に入る。


 自宅のある、西府にしふ町までは、約5キロ。15分程度で行ける。


 是政橋これまさばしと呼ばれる橋で、「是政」の名の由来は、戦国時代にこの辺りを治めていた武将、井田いだ是政にちなむという。


 真姫は、夜の静寂さの中に、ひっそりと佇む、この橋の夜景が好きだった。


 騒がしいことを好まない性質たちで、どこか「女子高生」らしくないところがある彼女は、学校が終わって、帰宅後の夜遅くに、こうしてバイクで出かけることが多くなっていた。


 16歳の秋。真姫のバイクライフは、まだ始まったばかりだった。

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