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 白目がくりんと黒くなった。ぼやける視界のピントを合わせるために瞬きが数回。外はかなりうるさい。これは悪い目覚めだ。冬のはずなのに暑い。変だ。ドロドロした真っ赤な川が流れている。これも変だ。耳を塞ぎたくなるような、不快な音がする。恐ろしい音でもある。


 名前を呼ぶ声がする。そちらに振り向きたいが、なぜか体が重い。動きたくない。体がヒリヒリとする。なぜだろうか、動かないといけない気がする。

 アーモはゆっくりと、顔を起こすと、大きな音がする方を見た。

 そこには、背中があった。その先に強い光がある。稲妻を防いでくれているのだろう。


「アーモッ! 頼む!」


 その声で意識がはっきりした。

 じっとアーモはベカの背中を眺めた。

 ついに、ベカの魔力が底をついてしまい、パルパの電撃を受けてしまった。体中の血液がぶくぶくと蒸発する音が響く。彼の筋肉はもう悲鳴すら上げず、ただ流れる電流に反応しているだけだった。


 ベカは思った。アーモは動けなかったのか。このままソラもお前も殺されてしまうのか……と。そして背中から地面に崩れ落ちそうになったが、再びその場で耐えた。気配を感じ後ろを見ると、アーモが目を覚ましていた。


「アーモ、ソラを逃がしてくれ」


 しかし、アーモは断じて動こうとしなかった。ただじっと瞬きすらせずに、ベカの目を見つめているだけだ。


「頼むよ……こんなときくらい言うことを聞いてくれよ……俺はお前を信じているんだ」

「シブトイネ……だが、次で最後ダ」


 ベカは片膝をついた。限界はとうに超えていた。足は、超えた先にある限界すらも超越してしまったみちだった。


「させねえ」


 ベカは両手を広げ己を盾とした。彼にはわかっていた。もう体がもたいないことを。次の一撃で確実死ぬだろう。

 パルパは魔力を手先に集中させている。光が強くなり、渓谷内はどんどん明るくなる。漏れた魔力が雷となって地面をえぐる。それとは反対に、空は真っ黒な雲で覆われている。両手を高く上げるパルパに、雷が直撃した。空気を破裂させそうなほどの爆音には、パルパの笑い声が混じっている。


 ベカは振り返り、アーモの瞳を見つめた。何かが分かった気がした。そういうことだったのか。ベカは小さく「ようやくわかったよ。お前ならできるんだろ。この頑固野郎が」と呟いた。


「シネ!」


 パルパの手から激烈な勢いで稲妻が放たれた。地面も、岩も、マグマも、霧も、雲すらも全てを吹き飛ばすほどの威力を持っている。


 死んだ。


 そう思ったときだった。大きなドラゴンの影が現れた。

 ドラゴンは吠えた。咆哮は雷に負けていない。地面をゆるがし、空気を震撼させた。


 アーモだ。


 ベカを守るために割って入ったアーモは、パルパの放った稲妻に向かって、今ままでにないほどの強力なブレスを放出した。それはパルパの稲妻を穿ち、パルパを飲み込んだ。

 一瞬の出来事だった。


「ハハハハハッ」


 ブレスに飲まれたパルパは笑いながら倒れた。火が収まると、人の形を模した真っ黒な炭がそこにあった。


 アーモがパルパを撃破したのだった。


「できるじゃないか……」


 それを目の当たりにしたベカは、安心してその場で倒れた。

 問題はまだあった。マグマは今でも広がっている。このままど三人とも飲み込まれてしまう。すぐに避難する必要があった。地震はなおも、おさまらない。だが、体は動きそうにない。


 ベカのすぐ横でアーモが倒伏した。


「よくやった……お前は最高だ」


 そっと顔をなでた。アーモの黒くまんまるとした目はしっかりとベカを映している。まるで「やれやれだ」と言っているかのようだ。手をアーモの顔に添えたまま、ベカはそっと気を失った。


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