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「観念しろッ!」


 ダラットの咆哮に、コリバンとパルパは無表情で流すと、二人は目配せした。


「この洞窟にもう少し長居することになるが、いいか?」コリバンは戦闘態勢に入り、一歩前に出た。

「どうゾ。悪に裁きを」パルパは手にしていたロカの腕肉を食べると、笑みを浮かべた。

「降伏しろッ!」


 ダラットは人間一人分ほどの大きさを誇る斧を力強く振り上げた。この音頭によって、他の討伐隊員も各々抜刀すると、鋭い眼光で二人を睨んだ。敵からは一切の動揺も、隙も見せていない。この二人、ただものではない。だが、ダラットは負ける気はしなかった。


 こちらは、十人もいる。圧倒的な数的優位だ。それにドラゴントレーナーと言っても、みなただのトレーナーではない。オルダンブルグ飛竜養成所内で屈指の力自慢を集めた。中には退役軍人もいる。なにより、この場で最も大きく、最も力が強いこの自分が、アドリア海を荒らし、最強の海賊と呼ばれたこの大男ダラットがいるのだ。


「最後の警告だッ! 降伏し、ドラゴンと、職員を解放しろッ!」


 討伐隊はじりじりとコリバンに近づいている。隊員たちは、こいつ一人で何ができるんだと、怪訝に思いながらも警戒していた。

 コリバンはゆっくりと首を横に振った。


「ドラゴンの解放はできない」


 次の瞬間、コリバンは斧を振り下ろした。攻撃開始の合図だ。五体のドラゴンは、コリバンを囲うように陣取ると、右翼から左翼へと一体ずつ順番に突撃していった。確実に強敵を討ち取るための陣形だ。囲うようにしてから、一体ずつ一撃離脱を永遠におこなうことで、相手を逃がさずかつ疲弊させ、隙を見せたところを叩くという戦術だった。


 古龍たちは一体、二体と次々にコリバンにめがけていく。ダラットは最後に大きな一撃をかますために、大きく回り込んだ。彼は強敵だった。突撃してくるドラゴンをひらりと見事にかわしていく。隊員の振う剣もすべて見切っているようだ。

 このままだと、反撃される。先手を打たなくては。


 五体目のドラゴンと隊員の同時攻撃をかわしたコリバン。すぐに最初に突撃したドラゴンが旋回して攻撃せんと戻ってくる。だがコリバンの視線はそのドラゴンには向いていなかった。数瞬後、ダラットの激烈な一撃が、コリバンの頭上から降り注がれた。ダラットは敵の頭上でドラゴンから飛び降り、そのまま重力と己の筋力で巨大な斧を叩きつけたようだ。衝撃によって土煙が舞い、地面が轟いた。


 手ごたえがあった。不意をつけたようだ。この攻撃はガレオン船を真っ二つにする威力を持っているのだ、この一撃を浴びて無傷だったものは存在しない。「やったか」ダラットは獣のような目で、土煙の先を見据えた。

 だが煙が収まると、ダラットは驚愕した。なんと、コリバンは無傷だったのだ。


「なにッ?」


 驚くダラットと、無表情のコリバン。ダラットは噛みしめて、力いっぱい斧をコリバンに押し付けようとしたが、ピクリともしない。


「なぜこんなことをするッ?」ダラットは力んだ表情で語気を強めて言った。

「帝国は悪だからだ。お前らの拡大政策でどれほどのドラゴンが死んでいる? お前らの育てたドラゴンがどれほどの人間を殺しているのか知っているのか? お前らが育てたドラゴンがどれほど苦しんでいるのか知っているのか?」コリバンは静かに尋ねた。


「だまれッ! 帝国の政策なんぞ、俺たちには関係ない。興味もない。ただ俺たちはドラゴンを大切に育てているだけだ。お前たちにそれを奪う権利はないッ!」

「フッ」コリバンは鼻で笑った。

「話にならんな」


 コリバンはポケットから小さな石を取り出すと、それを接近してくるドラゴンに投げつけた。ドラゴンを操っている隊員は飛んでくる小さな石を目にした。速度は遅い、威力も弱い。こんな投石、当たったとしても、痛くも痒くもない。


 だが、石が目の前にくると、突然傘が正面から開くように、何倍も大きくなったのだった。石はドラゴンよりも一回り、二回りも巨大化し、岩となった。驚いたドラゴンは羽を目一杯ばたつかせ急停止した。背中に乗っていたトレーナーたちは衝撃に耐えられず、吹きとばされ、地面と岩にそれぞれ激突してしまった。一瞬にして、もやられてしまった。


 ダラットはコリバンから距離をとると、すぐにドラゴンに飛び乗り、陣形の立て直しをはかった。だがコリバンの行動が早い。それぞれのドラゴンの上空に石を散らした。石は一瞬で岩となり、ドラゴンたちを襲った。気づくとあっという間に部隊は壊滅してしまい、残るはダラットのドラゴンだけとなってしまった。


 あまりに短時間で仲間がやられてしまったので、空から眺めていたダラットは言葉を失い、状況が飲み込めないでいた。その隙をコリバンは見逃さなかった。最後の一匹に向かって石を投げた。石は突然巨大化し岩となってドラゴンを襲った。

 ドラゴンは回避運動をとったが、岩が翼をかすめ、ダラットともう一人の隊員は落下してしまった。


「お父さんッ!」それを目の当たりにしたソラは、すぐにダラットのもとへ駆け寄ろうとしたが、パルパが立ちはだかると「だめだヨ」と笑みを浮かべた。

 落下した衝撃で負傷したダラットは、動かない体を必死に引きずりながら、立てずとも戦おうとした。そこへコリバンはゆっくりと近づいた。


「無様だな」


 嘲笑うコリバン。ダラットは最後の力を引き出した。体のほとんどは動かないが、腕はまだ動く。敵は排除しなければ。ドラゴンのためにも、職員のためにも、そして娘のためにも。

 ダラットはとてつもない腕力で地面を押し、コリバンへと急速に接近した。巨大斧を勢いに全ての勢いをのせて一撃を放った。その威力は絶大だった。衝撃波が発生し、再び土煙が洞窟に入り込む光を覆った。


 数瞬後、爆発音とともに、舞い上がった土煙が一瞬にしてかき消され、熱を持った真っ赤な閃光が洞窟を照らした。

 ソラはなにが起きたのかわからないでいた。パルパは、「おやおや」と笑みを浮かべている。ロカはなくなった腕の痛みに苦しんでいる。その三人の所に、一振りの巨大な斧が飛んでくると、刃先が地面にささった。


 ダラットが倒れていた。


「お父さんッ!」ソラはいち早く、父であるダラットの元へと駆け寄ろうとするが、パルパがそれを遮る。

「どけッ!」ソラは強引にパルパを抜こうとしたが、腕を掴まれてしまった。ソラは「お願い!」と抵抗するが、まったくパルパに力が及ばず、退けるどころか、ソラ自身が後ろへと押し込まれてしまった。


 コリバンは傷ひとつなく、疲れたようすを見せることもなく、パルパの前を通り過ぎていく。


「二時間後には出発できる」


「わかりましタ」


 コリバンは奥へと消えると、洞窟に静寂がおとずれた。ソラは、どうすれば全員逃げられるかを必死に考えていた。何をどう考えても、目の前にいるパルパが障害となる。奴は目の前で音も声も出さずに、ただ笑顔を浮かべてじっとこちらを観察している。


 ソラの隣では、ロカが必死に腕をもがれた痛みと戦っている。

 突然、パルパが笑顔を崩さずに人形のように気味が悪い声で笑い始めた。なにに笑っている?


 ロカを笑っているのか? お前が腕を食いちぎったのだろ? ずっと湧き続ける恐怖と共に怒りの感情も染みてきた。自分ではどうすることもできない悔しさから唇を噛みしめた。


「最高ダロ? 彼女の泣き声は」


 地面に座り込んでいるソラの目の前でパルパは静かにしゃがんだ。恐怖からソラは後ずさりをするが、パルパはまた一歩近づいてくと、そっとソラの頬に手をあてた。


「な、なに」唇を噛みしめ、震えをおさえようとするソラ。

「問題、人間の部位で最もおいしいところはどこダ? 正解したら、君を解放しよう」

「私……だけ?」

「そうダ」

「だったらロカさんを解放して……」

「優しいネでもだめダ。さあ、答えロ」

「私じゃなくてロカさんを解放してあげて」

「残念、時間切れダ」


 パルパはソラの頬を優しくつまんだ。ソラは恐怖から、全身が力み、強張ってしまった。


「頬の肉じゃなイ」頬から手を離すと、首、肩と体を撫でながら、今度は二の腕を掴んだ。

「腕もちがウ」


 不気味な青白い手は、服の中に入り込み、ソラのお腹の筋肉をつまんだ。


「腹筋も内蔵もちがウ」


 手はさらに奥へと伸びていく。


「最初、胸が一番おいしい部位だと思っタ。でもちがっタ。脂肪が多すぎてまずいんダ」


 ソラは恐怖で完全に腰が抜けてしまっていた。抵抗すらできない。声もでない。


「鼓動が大きイ。脂肪を通して、伝わってきているよ、君の恐怖ガガガハハハッ……不思議ダナ。恐怖はおいしい。味も音も匂いも触感もないのに」


 パルパの手が、外にでた。だがソラの胸には気持ち悪い感触が残り続けている。


「イヤ……やめ……」ソラは逃げようとしたが、当然のようにパルパに押さえつけられた。

「ふくらはぎもちがウ。太ももちがウ……」


 パルパの手が止まった。気持ち悪い。怖い。だがソラは動くことができなかった。


「ハハハハハ……怖いカ。着替えが欲しいカ? 気に入っタ」


 パルパは手を引いた。そのとき、わざと手をひっかけた。パルパは笑みを浮かべながら、


「ああ……眉毛とあそこの毛の色は同じだと思っていたけド、やっぱり同じなんだネ」

「おりゃあああああああッ!」


 次の瞬間、油断していたパルパの頭部にソラ渾身の一撃が入り込んだ。彼女の手には石が握られていた。吹き飛んだパルパ。ソラは「よし」と小声で言うと、いまだ収まらない震えの中ゆっくりと立ち上がった。服がぐちょぐちょとしていて気持ち悪い。早くみんなをつれて養成所に戻らなければ。奥にいる男に見つかってもダメだ。どうやってここから去る?


 ソラは辺りを見回した。どうやっても、ばれずに全員を連れて逃げることはできなさそうだ。せめてロカさんだけでも……彼女は衰弱している。自力では逃げられなさそうだ。

 逃げるしかない。とソラが行動に移そうとしたときだった。


「キキキキキッ!」

 と笑い声が洞窟内に響いた。ソラはすぐにパルパのものだとわかった。


 緩慢と立ち上がるパルパ。その顔には怒りはなく、喜びに満ちているようで、口がさけそうなほどの笑みを浮かべていた。


「君は最高ダ! 決めタ。今食べるのはやめよウ。ケッコンしよウ。君は私の子供を産むんダッ! そしテ、君と君の子供を同時に食べよウ」


 パルパは一歩一歩とソラに近づく。一方ソラは「来るなッ!」と怯えながら退く。パルパはすぐにソラを捕まえた。


「やめてッ!」と抵抗するソラ。パルパがソラの服に手をかけたときだった。

「娘に手を出すなあああああ」


 割れた岩からダラットが這いでてきた。彼の体はとっくに限界を超えていたが、意地で立ち上がると、パルパに向かって鬼神の如く、突進しようとした。大男の迫力にパルパはすぐさま戦闘態勢に入ろうとしたが、ダラットはパルパに辿り着く前に力尽きてしまい、倒れてしまった。


「おとうさん……おとうさんッ!」もう逃げて! このままだと死んじゃう。と言わんばかりにソラが叫んでいる傍らで、パルパは落ちていた剣を拾った。

「オトウサン、私はあなたの娘ト、あなたの命をイタダキマス」


 大きく剣を振り上げた。ダラットの首もとを定めた。


「やめて……お願いだからお父さんを殺さないでくださいッ! なんでもしますからッ!」


 ソラはパルパの足にしがみついた。恐怖を抑え力の限りパルパを止めようとした。

 強烈な蹴りがソラのみぞに入った。ソラは地面にうずくまった。お腹の中にあるものが全てぶちまいてしまいそうなほど、苦しく辛い。


「キキキキキキキキキキ」


 洞窟の壁はパルパの無慈悲な笑い声をよく響かせる。

 誰か……神様……助けて……

 ソラは祈った。私はどうなってもいいから、ドラゴンを、助けに来てくれた人たちを、ロカさんを、そしてお父さんを助けてくださいと。だが無慈悲にも剣は勢いよく振り下ろされる。


「助けてッ」


 剣が、ダラットの首に差し迫ったときだった。


 静寂がおとずれた。剣は寸前で止まっている。パルパは固まって動かなくなってしまった。唯一動かせる眼球が、何が起きたのか把握するため、グルグルと周囲を見回した。

 霧の向こうに一体のドラゴンのシルエットがあった。


 黒い影の正体はアーモとベカだ。魔法でパルパは動けなくなったのだった。


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