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「きゃああああああああああああああああああああ……いたい……いたいよ……」
嗚咽に悲鳴が混じったロカの叫びは、洞窟内で壁から壁へと永遠と行き交っている。洞窟はオルダンブルグ養成所の北にあるムサ山の麓を貫く、ウェルテルの谷を抜けた所にある。天井部はかなり高いところにあり、ドラゴンが飛びながら侵入できるほどだった。また所々崩落しており、開いた穴から、光が差し込んでいる。ウェルテルの谷は一年中霧に包まれているため、滅多に人は近づかない。霧が通すのを許した僅かな光だけが洞窟に届く。身を隠すにはもってこいの場所だ。
「いいねえ……自分から先に名乗り出たのは最高デス」
フードを深く被った男の手には、人の腕があった。男は、その腕をかじると、肉を引き裂き、むしゃむしゃと食べはじめた。
「いたい……いたい……」ロカは俯き、涙を流しながら痛みに耐えている。左腕はない。垂れ流れる血を必死に残っている方の手でおさえている。
「それより、コリバンさん。あとどれくらいで回復します?」
「あともう少し休憩させてくれ」
「ええ、わかってます。あなたの魔法は強力ですガ、反動がありますからネ。もうしばらくここで休みましょう」
フードを脱いだ男はパルパだった。血で顔は真っ赤に染まっており、歯をむき出して笑みを浮かべる。
「最高だろ? 彼女の鳴き声は?」
パルパは、ロカの横で縛られている、もう一人の少女に言った。ソラだった。
ソラは深く呼吸をし、できる限り無表情に努めていた。動揺を見せないためだ。このパルパという人間はいかれている。たじろぎを見せたら、さらに残酷なことをされてしまう。だが恐怖で手も膝も震えていた。必死に恐怖と戦いながら、ソラは敵のようすを伺った。ドラゴンは洞窟の奥の方で眠らされている。助けに行くのは困難だ。
ソラはニクルのことを思い出した。
「ソラちゃん、逃げて!」そう言って戦おうとしたニクルはアーモを逃がすと、殺されてしまい、パルパに食べられてしまった。肉片となり飛び散ったニクルを見たソラは、朝食べたものを吐き出してしまった。だが、この男はソラとロカを殺さなかった。まるで品定めするかのように視線で嘗め回すと、二人をドラゴンと一緒に拉致したのだった。
ソラは横で痛みに耐えながら泣いているロカの腕をそっと掴むと、
「だいじょうぶだよ……ソラちゃん」ロカは小さな声で言った。
「あなた……」とパルパが笑みを浮かべながら、ソラに近づいてきたときだった。
「うちの子から離れろッ!」と怒号が洞窟内に響きわたった。あまりの声量の大きさに、ソラは目を瞑り、耳を塞いでしまうほどだった。地面がわずかに震撼した。
次の瞬間、ドラゴンの影が、いくつか姿を現した。
「お父さん!」
ダラット率いる討伐隊だった。霧の中から出てきたドラゴンは五体いた。どのドラゴンも、体中のいたる所に傷をつくっている。歴戦を乗り越えてきた証だ。それぞれ二人ずつ、養成所の猛者がドラゴンに乗っている。




