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 ベカとアーモの飛行訓練は難航していた。単体で飛行するのはなんの問題もなかった。むしろ飛行性能は特段に高く、他を引き寄せないレベルに達していた。しかし、人を乗せるとなると話は違った。アーモは人を背中に載せて飛ぶのを嫌っていたのだ。ベカはアーモと二人きりで何度も練習したが、アーモは騎乗されるのを必ず拒絶し、ベカを振り落とそうとするのであった。アーモがなぜ嫌がっているのか分析しようとするも、さっぱりわからない状況だった。

 繰り返し練習し、なんとかするしかない。


 アーモの憎めないのは、ベカを振り落とし単独で空へと登るが、逃走を図ろうとはせず、音笛というドラゴンを呼ぶ魔法を使うと、しっかりと戻ってくるところだった。

 このままだと、本当にアーモは試験に合格できず正規竜にはなれない。ソラもそう思ったのか、この日は訓練に付き添ってくれた。


 前日に雨が降ったため、平原の至る所に水たまりが点在し、朝日を受け白く輝いている。竜舎の屋根から滴り落ちた水の粒が、アーモの頭にポツリと落ちた。その横にソラとベカがいる。


「時間はまだまだかかるけど、騎座の取り付けはできるようになったみたいだね」


 ソラはアーモの背中にくくられた騎座を見ると続けて、


「じゃあ、早速乗ってみて」


 ベカはアーモに騎乗した。するとアーモは体をうねらせ、落とそうとした。


「あぶね!」としがみついていたため、ベカはなんとか堪えることができた。

「うーん……なんだろうね。やっぱり、心が通じ合っていないと言うか、お互い信頼し合ってないのが原因かな。アーモもヘータイさんも、自分のことは信頼してほしいのに、相手のことは信頼してないから、反発してるのかなって感じがする」とソラ。


「こんな奴を信頼できるわけないだろ! それに俺はヘータイさんじゃない。元兵士なだけだ。その呼び方やめてくれないか?」

「はいはい、ヘータイさんをヘータイさんって呼ぶのやめますよ!」


 ベカとソラの口論が始まった。

 二人の言い合いをよそに、アーモはベカを背中に乗せたままじっと伏せてしまった。そして、水たまりの上を素早く動いている虫を目で追い始めた。


「やめる気ないだろ」

「あるよーだ」

「俺は知ってるんだぞ」

「なにを?」

「ソラがなんで昨日から機嫌が悪いかをな」

「じゃあ言ってみなさい。絶対に違うから」

「じゃあ言うぞ。ソラの機嫌が悪いのはな、父さんと同じ部屋で暮らせなくなったからだろ?」

「なッ……」


 ソラの顔が急激に赤く染まり始めた。


「正確には父さんじゃなくて『パパ』だろ? 『本当は私のこと嫌いなんでしょ!』だってさ笑っちゃうね」


 怒りで腕をプルプルと振るわせながら、


「き、きいてたの?」


 マグマのように怒りがこみあげてソラが爆発する寸前だった。

 アーモが目の前を浮遊していた虫を掴めようと前足を振り下ろしたのだった。虫はひらりとかわし、アーモの前足は空を切ると、水たまりを叩いた。一撃は強く、パシャンと水しぶきを弾き上げた。その水しぶきは、豪雨のようにソラの頭に降り注いだ。


 ソラだけびちょびちょに濡れ、下着が透けてしまっている。それを見たベカとアーモはケラケラと笑い始めた。


「おい、濡れちゃったじゃないか。早くパパに拭いてもらえよ」


 突然、ソラから冷酷な殺気が湧き出てきた。それは青い氷の中のナイフのように静かで、胸を貫くものをもっていた。

 ああ、これはやばい。やりすぎたぞ。とベカは思った。

 一方、アーモは生まれて間もない頃、ソラにぶん殴られたことがあった。それを思い出したのか、ソラの恐怖をより鋭敏に感じ、慄いていた。

 ソラがピクリと動いた瞬間、


「逃げるぞ!」という掛け声とともに、アーモは翼を広げ、地面から空へと上昇していったのだった。

「おお! 俺を乗せて空を飛んでいるじゃないか!」

 冷たい風に打たれ、ベカは下の景色を眺めた。ソラが豆粒よりも小さくなっている。

「なるほど、ソラの言っていた『心を通じ合わせる』とは、こういうことを言っていたのか」


 ベカは頷きながら、アーモと空を楽しんだのだった。


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