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推しの眼鏡になって推しを守りたい

作者: ほしぎしほ

 みんな初めまして!私は眼鏡だよ!

 クリアなガラス面に藍色のフレームが素敵でしょ?

 スタイルはウェリントンで、少しカジュアルに見せる事ができるのよ!

 度は入ってないあくまでファッションアイテムの眼鏡なの。よろしくね!


 そんな自己紹介をしたら、こいつ頭大丈夫かと思われてしまうのはわかっている。

 でも、本当に私は今眼鏡なのだ。無機物なのだ。

 声なんて出ないし、動けもしない。ただの物体なのだ。生きた物じゃないのだ。

 どうしてこうなったのかも合わせて、改めて私の自己紹介をさせてもらいます。


 私の名前は後藤杏華。普通の社会人でした。

 過去形であるのは、とある事故で命を落としたから。まだまだ若い20代だというのに、人生を終わらせてしまったのだ。

 悔いなんて沢山ある。まだ恋人もいなかったし、友達と近々旅行に行く計画も立てていた。仕事先に恵まれて自分の力をもっと活躍させれると思っていたし、もっと手に職をと資格の勉強もかなりしてきた。

 でもそんなリアルな事よりも、何よりも、推しの行く先を見守れなかった事が杭となって私の魂に突き刺さっているのだ。悔いだけに。


 推し。同種のものの中でこれが一番好きだと言えるもの。

 昨今ではスポーツ選手やらアイドルやら、沢山の人の沢山の推しが溢れる中、私の推しは【ファタリテート】というRPGゲームのキャラクターの一人である【ナハティガル】だ。

 彼は主人公というわけでもなく、一番人気というわけでもない。

 けれども、その185cmという設定の長身、宵闇を思わせる短髪、黄昏を思い起こさせる瞳、穏やかな表情。その姿は醜いわけがなく、イケメンに分類されるキャラクターだ。

 敵を倒しに向かう主人公のパーティに少しの間だけ、ナハティガルは仲間に入ってくる。

 彼は魔法攻撃が得意であるけれど、短剣の腕も悪いわけではない。ただ、彼が大切にしている家宝だという眼鏡を落とさないよう傷つけないよう、できるだけ敵から離れて戦っているのだ。

 そんな家宝だという眼鏡にどんな思いがあるかはプレイヤーにはわからないのだが、ナハティガルは溺愛していると言ってもいい程に眼鏡を大切にしていたのだ。おかげで二次創作でネタにされる程に。

 その設定のおかげで、ナハティガルが好きなファンたちは全員が合言葉のように口にしていた。

「ナハティガルの眼鏡になりたい」と。

 私もその内の一人だった。

 そう、そういう事です。


 私はゲームのキャラクターであるナハティガルの眼鏡に転生していたのだ。

 ナハティガル君が私の杭をぶっ叩いて嵌めてくれたようだった。悔いが残らないように。

 転生させてくれた神様、ちょっとそのお顔を殴らせてほしい。

 勿論、最初は嬉しかった。

 何せ気づいたらナハティガル君の寝顔が目の前にあったのだから。口が無いはずなのに悲鳴を上げた程だ。

 これは夢だろうかと頬を抓ろうとしても、そんな手がどこにもない。

 どういうことだと無いはずの脳みそを動かして状況を整理している中で、目を覚ましたナハティガル君は私の目線を気にした風もなく、私の目の前で着替えはじめ、その美しい肉体をををおお。

 あぁ、思い出すだけで鼻血が出そう。鼻なんて無いし、血も通って無いのだけれど。

 そうして身支度を整えたナハティガル君は私に手を向け、私を優しく持ち上げて、私を掛けたのだ。

 姿見に映されたナハティガル君と私の姿を見て、ここで私は気づいたのだ。眼鏡になっている、と。

 

 それからは幸せだった。何せ今まで何度も眼鏡になりたいって願っていたからね。

 ナハティガル君の見る視界が私にも見えるし、ナハティガル君が食べる食事メニューもわかるし、ナハティガル君の訓練時の視界がわかるし、ナハティガル君の独り言が聞けるし、ナハティガル君と読書を楽しめるし。

 それはまるでストーカーのように、いけない事を見てしまうという危険な状況に幸せを感じていた。

 でもその幸せは一か月後には物足りなくなったのだ。

 そりゃ、いつでもナハティガル君と一緒だし、大切に扱ってもらっている。レンズを服で拭くなんてこともしない。

 ナハティガル君の裸や用足しは流石に私の精神が耐え切れないので無いはずの瞼を閉じて見ないようにはしているが、物足りないのはそういう事ではないのだ。

 眼鏡に転生する前は自由に動けていたのだから、私も自由に歩きたいのだ。

 だってここはゲームの世界だ。今まで約20数年生きた世界とは違うのだ。そりゃ行きたいところが山ほどありますよ。

 そして何より、今はまだナハティガルが主人公たちと出会う前の頃のようだった。


 大体一年後にナハティガル君は主人公たちと出会い、旅をし、そして大怪我を負ってしまう。それが、パーティを抜けるきっかけになる出来事だった。

 かなり強い敵との遭遇で、ナハティガル君は主人公を庇って大怪我を負う。それはしばらく生死の境を彷徨うほどのものだった。

 ナハティガル君を心配した主人公たちは傷に効くという薬草を取りに行き、その道中で敵を倒す事を軽く考えていた主人公は自分の使命について深く考えるようになる。

 そもそも主人公は親に捨てられた孤児だった。しかもその親は王族であり、捨てられなければ主人公は国の王として君臨する未来が見えるはずだった。だが訳あって捨てられた主人公を敵国が掬い上げ、主人公の復讐心を利用して親殺しを命じたのだ。

 主人公はその命令に従い、両親を、そしてその国の人間達を殺す事を決意していた。

 出来る限り自分の身分を偽り、母国で出会った仲間達を利用して最後は殺す事を考えて、人を信用せずに生きてきた。だが、ナハティガル君の行動により、主人公のその気持ちが揺らぎ、母国を滅するのか、それとも自分を利用する敵国を倒すのか、分岐に立たされるのだ。

 どの分岐を選んでも、薬草のおかげで回復したナハティガル君はパーティから外れてしまう。回復したと言っても、すぐに旅が出来る程ではないからだ。

 これでナハティガル君とも会えなくなる。それを知ったファン達は寂しさを覚え、死ななかっただけマシだとか、この世界にナハティガル君は生きているのだからとかそんな気持ちを抱えながらゲームを全てプレイしただろう。

 そんなゲーム世界に私は眼鏡として転生した。これすなわちチャンスではないだろうか。

 ゲームの展開を知っている私が、ナハティガル君が大怪我をする未来を上手く止めれば、ナハティガル君が活躍するのを見れるのではないだろうか。眼鏡だから何でも見えるけど。

 ナハティガル君が傷つくところを見て号泣する事が無くなるのではないだろうか。眼鏡だから涙なんて流せないけれども!

 転生ものの漫画やラノベなどのように、自分が動いて物語を変えるという事が出来る。私は今その立場に立っているのだ。


 問題は眼鏡に転生してしまったという事だけれども。そんなの些細な問題だと最初は私は思っていた。

 何が些細だ。重大な問題じゃねぇか。

 ただの眼鏡なのでナハティガル君に私の声は届かない。動きで止める事も出来ない。

 そもそも、君が大切にしている眼鏡は人の魂が入っているだなんて信じるどころか考えもしないだろう。むしろ誰が考えるっていうんだ。


 そんなこんなで、私はいつも通りに眼鏡として眼鏡らしく、ナハティガル君の顔を陣取っている。もう、ナハティガル君の視界が私でいっぱいだと言う状況だけを満足するしかない。大切にされるからって、眼鏡になりたいなんて言うんじゃなかった。


「あれ」


 私越しに本を読んでいたナハティガル君が小さく声を上げた。あぁ、ナハティガル君今日もイケボだなぁ。少し低音なボイスが凄く素敵……、じゃなくて。

 私はナハティガル君が読んでいる本に視線を落とした。

 ちなみに私の視界はフレームの表面を動くように見れるので、ナハティガル君の前方と横は見えるけどナハティガル君と見つめあう事は出来ない。それが出来たら緊張で口から心臓が飛び出てしまうだろう。口も臓器もないけれども。

 開かれているページには魔法に関する事が書かれている。ナハティガル君は毎日新しい魔法を調べ習得しているのだ。今日も新しい魔法を習得するのだろう。

 ページに書かれているのは、守護する存在の召喚魔法のようだ。有り難い事に文字は日本語なので私にも読める。


「前もこの本は読んだはずですが、この魔法は記憶にありませんね……」


 あぁ。確かに2週間前の昼食のサンドイッチを食べてお腹を落ち着かせるまでの30分の間に読んでたね。

 一度読んだ本もまた読み返すなんて、勤勉だねナハティガル君。


「読み飛ばしてしまったのでしょうか。使った事が無い魔法ですし、試してみましょう」


 そう言ってナハティガル君は部屋の真ん中に移動した。魔法によっては周りの物が燃えちゃったりするからね。何もない場所に移動するなんてナハティガル君は偉いなぁ。

 どんな魔法なのだろうと期待しながら私はナハティガル君の視界を楽しんでいた。

 前世ではなかった魔法を見るのは楽しい。ナハティガル君は腕が落ちないようにかいろんな魔法を練習してくれるから、毎日の楽しみの一つになっていた。


「えっと……。セイ ベライト べシュチュッツェ ミヒ アンフォーツ アウフ マイネ スティム」


 手を前にしてナハティガル君がそう呟く。するとナハティガル君の視界が光り出した。

 青くキラキラと光っていて、なんだか私の身体が熱いような。

 ん?熱い?今まで温度は感じなかったというのに?

 そこで私は気づいたのだ。青く光っているのは私なのだと。

 それに気づいた時、私の視界が変わったのだ。

 目の前には目を丸くしているナハティガル君の顔があった。驚いている顔もイケメンだなぁと思ったけれど、ふとナハティガル君の両耳を包み込むように白い両手が当てられていた。そして私の手からは髪の毛と人の耳に触れたような感覚がある。

 自分の手を動かしてみれば、私の視界に映っていた手が動いてナハティガル君から離れていく。

 感覚がある事に驚きながら、けれど不思議な程冷静に私は首を動かしてみる。それはちゃんと人間だった頃の様に動いて、私の視界も動く。そして横に向けられた私の視界に姿見があった。

 姿見に映されているのは藍色の髪を持つ少女だ。真雪のように肌は白く、その身長は隣にいるナハティガル君のお腹当たりの身長。瞳は薄い灰色で、幼さが残る可愛らしい少女だった。

 ただ、少女は全裸だった。そして少女は、私はしようとしたポーズと同じようにポーズをとっている。


「……ん?」


 嫌な予感がした。

 姿見に近づけば、姿見に映った少女もこちらに近づく。こっちが片手を挙げれば少女は鏡合わせの様に手を挙げる。

 落ち着こう。落ち着こうか私。

 大丈夫だ。眼鏡になっても落ち着いていたじゃないか私。

 それが突然全裸の少女になっていたとしても、落ち着けるはずが、あるわけがなかった。

 私が上げた悲鳴は、眼鏡に転生したと気づいた時よりも大きく、そして沢山の人たちの耳に入る程のものだった。


無機物転生をテーマに思いついた事を書いただけの小説なので、中途半端な終わりになっていてすみません。

ただ書いてみたかっただけなので設定とかもやっつけになってます。

もし面白そうという声がありましたら、ちゃんと書いてみたいなとは思ってます(チラチラ


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