菊の花に会いましょう 後編
後編です!!
菊の薫りがするということはお菊様がやってきた証拠。その精霊だって来ているのもしかり、だ。
「遅かったとは失礼ね。久しぶり。今は朔、だったかしら?本当よくまあ出来るわね」
まるで俺を嘲笑するように言ってくのはその精霊というやつだ。
「はぁ…おい、槙も翔も先行ってくれ」
「なんだよ、早く行こうって言ったのはお前だぞ、さく。槙もそう思うだろ?」
「朔ちゃんはお腹痛くなっちゃったんだろ?」
ウインクをして口パクでほどほどになと言ってくる槙は察しが良くてこういう時は助かる。翔は「腹痛いのかー、先生に言っとくなー」と言って槙と歩いていく。ひとまず安心というところだがここからが問題だ。
「久しぶり、ですね。菊花」
「人払いってとこかしら?感じ悪いわね」
「そんな意味ではありませんよ。こっちの方が気兼ねなくおはなしできると思っただけです。」
これだからあまりあいたくなかったのに。やはり喋っている二人なんて放っていけば良かった。これに会うとろくなことにならない。
「相変わらず桜は隠れるのがうまいわね。高貴さがないというのも羨ましいわ。」
「高貴さ、ですか。そうですね、高貴さなんであるととても大変そうですね。」
「本当に不完全な出来損ないのくせに相変わらずね。」
相変わらずなのはお互い様ですよと言えたら一番いいのに俺にそれを言うことは許されない。
「ま、いいわ。そんな話をしたかったわけじゃないもの。」
「そうでしょうね。俺だってそんなお話に付き合っていられるほど暇ではないので。もう授業始まりますし」
「ふっ。授業、ね。笑わせないでくれる。そんなに今になじんじゃって、こんなのほんの一瞬のことなのに。」
「その一瞬がこの不完全で出来損ないの人間には愛しいんですよ。それで?結局何が目的ですか。」
菊花は苦いものでも噛み締めるかのような顔をした。その顔が全力で理解できないと言い放っていた。そうして、また俺のことをまっすぐに見つめる。
「分かっていると思うけど、逃げることは許されないから。記憶がないとかそんなふざけたこと、言わないでね」
「そんな言い訳するくらいならもっと早く逃げてますよ。」
「ま、それもそうね。あと、あの子にはまだ何も言わないで。あの子は、ピンクのままが一番なの。」
「そっちが本音ですか。聞こえてたんですね。」
「あの子のことは聞き逃さないから。」
嗚呼、本当に菊というのは質が悪い。自分に逆らうものなどいないと知っているくせに、しかも俺は逆らうことが許されないと知って尚こうして牽制をかけてくる。
「そうですね。知ってましたよ。もういいですか。腹痛でしたでごまかせるうちに教室に行きたいんですけど。」
「分かったわよ。最後に一つだけ教えてあげる。もし、一瞬の平穏を守りたいと思うなら、菫とは関わりすぎないほうがいいわよあの家はあの家一つでコインの表と裏を成せる存在なのだから。“菫の君”がまだ何も知らないうちに縁を切ることね。そうじゃないともう、すぐに、来るわよ。」
「“菫”ですか。確かにあの家は厄介ですね。ですが、貴方に言われなくてもわかっておりますので。ご忠告いただきありがとうございました。それではしつれいいたします、菊花」
俺は平穏な空気の流れるところに戻りたい。その一心で、教室にかけていったから気づかなかった、菊花が去り際につぶやいていた言葉に。
「いつの時代も愚か者ね、―は。だから不完全な出来損ないなのよ。われらは二つで表裏をなすものなり。われはコインの表である。コインの裏となるものとは会い交えず。でもね、もうそろそろ終わりが来るわ。それでもいいとあなたは言うのかしら。」




