サークラ美少女を護衛せよ(10)
教室のなかにいた男がひとり、ふたり、血相を変えて、ついたてへむけてバタバタと走る。
『わかった。わかった。まさか初めてだと思わなかったからさ。
俺が、責任とって付き合うから』
『てゆーかー。
わかってなかったなんて、ぜったい嘘だろー。
お前も、男と飲むってそういうことだってわかってたろ?』
『学校で教えなくたって、常識っていうかー』
『どこで習うか? バカじゃねぇの。みんな、知ってるって』
そこの機械から鳴っているらしい音を、必死で止めようと、音響機械をいじる。
だが、彼らが乱暴にコードを引き抜いても、音はずっと止まらない。
(………………これは………………)
ふいに和希を、吐き気とめまいが襲った。
つまり。和希が止めたことと、同様のことが起きてしまっていた。
それも未遂じゃなく?
天沼紗紅の身に?
天沼紗紅はぴんと背筋を伸ばし、一点の恥じる思いもないとまっすぐに部長を見つめている。
部長の顔からは血の気が引き、周囲の部員たちは、ざわざわと話している。
「なんで!?
なんで止まらないんだよ!?」
『部長に言う?
どうぞー。俺たちが正しいっていうから』
『えーもう、なに、仲間にそんなこというなんて傷つくわー。気持ちよくなかったから後からそんなこと言ってんだ?』
『後だしでレイプだのなんだの、女ってマジ卑怯だわ~』
キィィィィィィィィ…………
また響く、奇音。
『なんで、そんな、みんなに迷惑がかかるようなこと言うのよ、天沼さん?』
音がつぶれているが、部長の声に近い。
『あなたが悪いんでしょう?
あなたみたいに綺麗な子がそんな格好でいっしょにお酒をのめば、男子なんて発情するに決まってるでしょう』
『知ってるのが当たり前でしょ? 男は狼だって。
知らないあなたのほうが非常識なのよ。自己責任よ』
『だから、いい加減そんなおおごとにして、みんなに迷惑かけないで。この、大事な時期に』
「これだ!」
派手な音を立てて、男子たちが音響機械を倒す。
そこには、大音量を発するスマートフォンが隠されていた。
止め方がわからず、男子の1人がスマートフォンを壁に叩きつける。激しい破壊音を立てて、ようやく、録音された声は止まった。
「………………………これは、これはね…………」
部長は、あわあわと、周囲の部員たちを見回し、なにか言葉を探しているようだ。
部員たちは、それぞれさまざまな表情をしている。
部長を冷ややかな眼で見ている者、紗紅のほうに引いているもの、いたたまれない表情の者……。
「そんなことで、みんな巻き込んで復讐なんて、サイテー」
ポツリと、部員の女が誰か言った。
その女の頬に、隣の女が強烈な平手打ちを食らわした。
「何がサイテー!?
サイテーなのは、お酒で人を襲う鬼畜に決まってるじゃん!?
ことなかれ主義で隠した部長も、サイッッテー!!!」
その叫びを皮切りに、その場にいる者たちが、それぞれに思いの丈をぶつけあい始めた。
「だからって、みんな巻き込んで、サークラしていい理由になんかならないだろ」
「うーわ、よく言う。後輩リンチかけた人が!」
「なに、お前、天沼さんのことヤったの!? 死ねよ!!! マジ死ねよ!!!」
「っなんで? なんでわたし、何も知らなかったのに、巻き込まれなきゃいけないの? 巻き込まれて彼氏もいなくなって……」
「部長!!!
なんで、隠したんですか!?」
部長は数名の女子たちに掴みかかられる。
加害者らしい男子たちは……おそらく、紗紅の信奉者たちなのだろうか、これまた数名の男子たちから殴る蹴るの暴行を受けている。
……その騒動を、紗紅はかわらぬ微笑みで、眺めていた。
「これが、キミの目的?
こうやって、このサークルを潰すことが」
和希は紗紅と同じ方を向いたまま、尋ねた。
「いいえ?」
気がつくと、紗紅は、ポチポチと手元のスマートフォンで、なにか操作をしていた。
SNSかなにかに投稿しているようだ。
…………って!?
「拡散完了♪」
微笑みながら言った紗紅のかわいい声を、この場にいる者は、和希以外、誰ひとり聞いていなかった。




