サークラ美少女を護衛せよ(9)
「――――次の証言。
3回生、匿名希望女子から……」
引き続き場をしきって、誰かの証言を語っている女に構わず、和希は、じろりと、その場にいる面々をねめつけた。
やはり、知った顔がある。
2、3人の男が、和希の顔を見て驚き、居心地悪そうに目を伏せた。
酒を悪用した性加害、たとえば、新歓コンパや飲み会などで被害者を酔いつぶして加害に及ぶ者たちがいる。
……和希は、このサークルの一部の男たちと面識があった。
3月ごろか。数名の男が、『お持ち帰り』と称して、酔い潰して意識がほぼない女性をホテルに連れ込もうとしていたので、その場で多少手荒な手を使って、女性を回収。警察に保護してもらったのだ。
そしてのちに、回復した女性から、彼らの所属サークル名を聞きだしていた。
……さて。
この場にいる人間たちは、男女比6対4ぐらい。
女子部員たちは、そうした男子部員がいたと知っているのか。
それとも、知ったとしても、被害者にも落ち度があるだとか、自己責任だとか言うのだろうか。
「――――――さて、以上。
天沼さん。
反論はありますか?」
部外者が入り込んだ動揺からはある程度立ち直ったらしい、検事役の女が、天沼紗紅の座る席の前に、つかつかとやって来た。
紗紅は、美しく優しげな、いや、慈愛さえ感じる笑みのまま、検事役の女を見上げる。
(…………?)
そこに、一縷のあわれみが浮かぶのが、和希には見てとれた。
「細かいところではちがうと言いたいところもありますが、事実関係で大きくまちがっていることはなかったんじゃないかなと、思います」
「………………なるほど? では、あなたは、どうして、こんなにもたくさんの男子に誘いをかけたの? それとも、自分が誘ったんじゃなく相手が誘ってきたとでも言うつもり?」
「いえ?
誘ってもらえるように仕向けています。
私の、目論見どおり」
「……――――――?」
想定していた答えと違ったらしい検事役の女は一瞬変な顔をする。しかし、軌道修正をはかるように、
「そうよね。あなたのもくろみどおりよね。男の子たちが自分をちやほやしてくれて、奪い合って」
と続ける。
「男子たちがあなたに夢中になるのは、そんなに気分がよかったかしら?」
ふふふふ、と、紗紅は笑った。
「そうですね……『男の友情』なんていう虚構がはがれおちて、おたがいに憎みあって自滅していくところは、少しだけ面白かったかもしれません」
フルートのように美しく優しく響く、甘い声。あっけにとられる聴衆をそのままに、紗紅は続ける。
「同じように。少し男の子をかきまわしただけなのに、女同士の絆だってうすっぺらく壊れていくのも、観察対象として、とっても興味深かったですよ?」
「あ、あなたは…………」
検事役の女が、気圧されている。
「サークルの中をめちゃくちゃにするために、わざと、サークラ行動をしたっていうの?」
「いいえ? お心当たり、あるでしょう?
ユキ部長。
私が、何を壊したいか。部長はごぞんじでしょう?」
「………………あなた………………」
ユキ部長、と呼ばれた検事役の女が、顔面蒼白になる。
「私。
あのとき、部長にすぐ電話しました。
何度もお話しして、何度もお願いしたでしょう?」
「やめなさい…………」
ユキ部長は、かぶりをふった。
「あんな、あなたの被害妄想…………誰も信じないわ。
そう、証拠だってない。
そうね、単にあなたは、異常者なのよ。自分の被害妄想のために、自分の体をはって、サークル全体に嫌がらせするなんて、あなたは……」
――――――――キィィィィィィィィン……
そのとき、教室の中にハウリング音が響いた。
音響機材が教室のすみに、ついたてに隠されて、存在していたのだ。
そうして、続いて響いてきたのは。
『…………ハァァ? あまぬま、なにいってんの?
いっしょに酒のんだってことは、ヤっても良いって意思表示だろ?』
やや音割れした、男の、下品な罵倒の録音だった。




