表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第7話 サークラ美少女を護衛せよ
97/145

サークラ美少女を護衛せよ(8)

◇◇◇



 その日の、午後4時。



「―――――次の証言。

 3回生ヤマダくんより。

 6月3日。彼に、交際相手がいるということを知っていたにも関わらず。この日天沼さんは山田くんを呼び出します。ちょうど、交際相手との待ち合わせがあった18時30分に。

 しかも、そのまま、待ち合わせ場所を通過して、交際相手に見せつける、ということまでしている」


「――――次の証言。

 1回生、匿名希望男子。

 6月4日、天沼さんと食事。それを天沼さんが2回生の先輩男子Dに吹聴された結果、彼は先輩男子Dとその友人たちから暴行被害を受けることになりました」


「――――次の証言。

 2回生、匿名希望男子。6月5日に天沼さんと附属図書館で会ったところを、高校以来の親友に見られた結果、その親友と絶交……」



(…………弁護士なしの裁判?………)



 和希は教室の外で盗み聞きしながら、嘆息した。

 いま天沼紗紅の『吊し上げ会』が開かれているのは、教室のひとつである。


 迷った結果、和希は、慶史をここにはつれては来なかった。  

 確証があったわけではないが、連れてこないほうがいい、と、和希の勘がささやいていた。


 教室のなかで、天沼紗紅を囲むのは、30人近い男女。

 うち1人の女が、裁判長兼検事のようなスタンスで、彼女が収集したらしい証言や証拠を、読み上げている。


 ところで、そのヤマダ氏はこの場にきていないのだろうか。

 天沼紗紅が有罪(ギルティ)だとすると、交際相手がいるにもかかわらずぐらついたヤマダ氏は、どうなるのか。


 あと、傷害犯っていうリアル犯罪者がいるみたいなんだが、それは良いのか。


 1人座っている天沼紗紅はこちらに背中を向けていて、表情はよくわからない。


 一方、とうとうと、天沼紗紅がやったことを語っている女は、得意気でどこか恍惚として見える。

 自分を正義の立場において、人を糾弾するのは、それはそれは楽しいだろう。



(うん、危ないな)



 何が危ないって、声の大きい煽動者がいることだ。

 人間の『正義』はいとも簡単に暴走する。

 天沼紗紅は、助けを求めないぐらいなので何か自信があるのかもしれないが、彼女に対して何か直接的な加害が起きる可能性はゼロではないと、和希は考えた。



 茹でる麺にぶっかける冷や水のごとく。

 ゆだってる人間の頭は、適切なタイミングで冷やすべきだ。

 そろそろ、邪魔をしておこう。



 大きく、皆に聞こえるように咳払いをすると、和希はツカツカと、教室の中に入った。

 視線が一気に、和希に集まる。

 天沼紗紅も驚いた顔を和希に向ける。



「やぁ、あまぬまさん?

 ちょっと話があって探してたんだけど、いまだいじょうぶ?」



 超棒読みのセリフを、大きな声で、それも場をしきっていた女よりも大きな声で、ゆっくりと。



「え……ええ……あの……?」



 戸惑う天沼紗紅の表情は、演技ではないように和希には見える。



「部外者は出ていってください!」



 検事ポジの女が叫ぶ。

 さっき、3回生を「くん」付けで呼んでいたということは、3回生から上だろう。となると和希よりも歳上なのは確実か。



「すみません、これってどれぐらいかかるんです?」


「話を聞いて……」


「長くかかるのなら、先にこちらの用事を済ませてもいいですか?

 ちょっと外で、天沼さんと話してくるだけなので」



 当然、教室の外に出たらそのままとんずらするつもりだ。

 まぁ天沼紗紅が従ってくれるか懸念もあるが。



「――――三条さん」


「ん?」


 天沼紗紅から声をかけられて、和希は紗紅に目を向けた。何か、問題があっただろうか。


「そんなに長くかからないと思います。

 だから―――ここにいっしょにいてくれません?」


「………………?」


 予想外の提案。

 どう考えても、ここから離脱するのが一番安全なはずだが。

 ここに残りたいというのは?

 意地か、それとも?


「お願いします」


 紗紅は、大きな湖みたいな瞳で、和希を見上げる。

 その瞳の深い湖の水面に、わずかなさざなみが立っていることに、和希は気づいた。


 隠しきったつもりの不安が漏れている。


 そう感じた和希は、深くうなずき、天沼紗紅のとなりの椅子に、わざと男っぽく威圧するように、ドカッと腰をおろした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ