サークラ美少女を護衛せよ(7)
◇◇◇
「それにしても、いつの間にか天沼さんと仲良くなってくれてたんですね」
と、慶史が、微笑みつつも若干の戸惑いを表情ににじませながら言ったのは、昼休みの学生食堂の席――――――ではなかった。
8月の頭、うだるような暑さの週末。
誕生日からは遅れてしまったが、それでも自分たちも祝いたいから、と、知有が無理矢理開くことにした慶史の誕生日パーティー(開催場所は上泉邸)の場だった。
とはいえ、参加メンバーは、慶史、知有、和希。
料理は、慶史の好物の豚の角煮がメイン。
知有の希望で、和希と知有が一緒に作った。プロ仕様の圧力鍋で煮込み、とろりと柔らかく仕上がった。
つまりはっきり言えば、単なる昼食会に近い。
場所はいつもの大座敷だし。
「あ、まぁ。
他に比較する女友達がいないから、あれで仲が良いのかわからないけど……。
あ、家主さんの方が、仲いいですよ?」
知有のジトッとした視線を感じとり、慌てて和希は補足した。
女友達がいない、とうっかり和希が言うと、知有の機嫌が悪くなる。
この小学生家主は、慶史のことを好きだが、それ以上に和希にも対等に『友達』として扱われたい意識があるらしい。
「そうか。和希が、慶史の同級生と仲よくなったのは聞いていた。
……慶史、この卵焼きも私がつくったから食べてくれ」
天沼さん、の名前を聞いて、知有のテンションが目に見えて下がる。
すでに和希は、天沼紗紅と会うようになった話、恋愛関係の相手はいないと言っていたとだけ、知有に話していた。
それ以外のことは、知有には話していない。
「ところで慶史。
仲良くなって『くれてた』、というのはどういう?」
「え、ああ。
大学に友達が本当に少ないそうなので、女の子の友達が天沼さんにできて良かったなぁって、そう思ったので」
慶史は微笑む。
慶史のなかでは、和希は女の子だ。特段そこに『人とは違うけど』という枕詞はつかない。
たぶん、天沼紗紅のこともそうなのだろう。
『男をその気にさせてたぶらかしてばかりだから、女友達がいないんだって。
ふいに和希の耳に、自分の同級生たちから聞かされた天沼紗紅についての言葉が、よみがえった。
『情報学科の天沼だろ? 同じサークルの奴から聞いた。ものすごい美少女でものすごい頭いいのに、ものすごいビッチで、ヤバイぐらいのサークルクラッシャーなんだって』
『三条といっしょに歩いてるの見てびびったわ。ついに女もターゲットに入ったかって』
『天沼の所属してるサークル、今崩壊寸前らしいよ? 100人以上もメンバーがいたのに、天沼が人間関係をかきまわしてすごい険悪なムードになって、ぼろぼろになって、人が辞めていってるんだって』
『情報学科のサキュバス、って呼ばれてるらしい』
同級生たちは、たまたま、和希と天沼紗紅がいっしょに歩いていたのを見かけたらしい。親切心(?)と野次馬根性で、いろいろ天沼紗紅の情報を話してくれた。
和希が何となく感じていたヤバさを、軽々こえる勢いでの評判に、ここしばらくめまいがしていたところだった。
「どうしました? 和希さん」
「ああ、いや…………」和希は湯飲みを手に取り、あたたかい黒豆茶を口にする。
「耳に入ってますか? 天沼さんに悪い評判がたってること」
ぶっ!!!
衝撃のあまり茶を吹いてしまった。手元のティッシュで慌てて拭く。
待って、慶史。今ここで、この場で言わなくても。
「あのさー……慶史。
どうせ、悪い評判とか、そういうの誇張の嵐でしょう。
あるってことも、言わないであげよう?」
「……すみません、配慮が足りませんでした」
家主さん、ものすごーく、不穏な顔してるぞ?
和希は知有の顔を盗み見ながら、慶史に心中で突っ込んだ。
「ただ、誤解されやすい人なのは確かなので。
もし良かったら、引き続き仲良くしてあげてくれませんか?」
「う、ん。まぁ、その……」
慶史は少なくとも紗紅のことが大事らしい。
慶史にとって大事なら、ベクトルはどうであれ、和希はそれを否定しない。
サークラであっても、守ろう。慶史の大事な相手なら。
ただ、天沼紗紅が、慶史を傷つけるか傷つけないか。和希が気になっているのは、それだけだ。
だからこそだ。
『女に騙されてる男のテンプレ』みたいなせりふをそんなに続けて吐かれると、正直、不安。
そんなことを和希が考えたそのとき。
「――――ん?」
和希のスマートフォンに着信があった。
表示を見てみると、天沼紗紅の『悪評』を、お節介にもあれやこれやと教えてくれた、同級生の一人からだ。
「すみません、ちょっと」
席をたち、座敷を出て、電話に出る和希。
『――――――――あ。三条?
この前言った、天沼紗紅なんだけど。お前、まだ仲いい?』
「いや、まだって何だよまだって」
『同じサークルの奴から聞いたんだけど、なんか、今日の4時から、天沼紗紅の吊し上げ会があるらしくって』
「…………………………は?」
『“被害者”たちが、寄ってたかって責めるみたいなやつらしい。
言葉のリンチみたいな。
お前、仲いいんなら、助けに行ったほうがいいんじゃないの?』
「…………………………………………」
天沼紗紅本人からは、着信はない。
多分彼女から助けを求められてはいない。
慶史の方にも、おそらく連絡はないのだろう。慶史の様子からすると。
ただ。
和希は、座敷の慶史が、怪訝そうにこちらをうかがっているのを見る。
どんな形であれ、紗紅が傷ついたら、慶史は悲しむだろう。
「……………………場所は? どこだって?」和希は同級生に問い返した。
◇◇◇




