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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第7話 サークラ美少女を護衛せよ
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サークラ美少女を護衛せよ(5)



 ―――――――その時、和希は動かなかった。


 一瞬早く天沼紗紅の手が動いたからだ。


 直後。ボクッ…と平手撃ちにしては鈍い音、そして、



「い、っ、たぁ………」



 平手撃ちをした側の女の子が、痛そうに手を押さえている。

 天沼紗紅は、涼しい顔で、自分の顔をガードをした本を、軽く振る。

 細い指の可憐な手で、わざわざハードカバーの本を選んで取るあたり、いい根性してる、と和希は心の中で苦笑した。



「こまっちゃいますね。どうしましょう三条さん?」



 すす、と紗紅は和希に近寄った。

 紗紅に詰め寄っていた少女たちは、長身の和希に何か気圧けおされたものを感じたのか、顔を見合わせると、何も言わず、たたっと離れていった。



「あれが原因?」



 和希のごく短い言葉に、紗紅は微笑んだ。

 何の原因ですか、とも聞かない。とぼけない。

 慶史とのごはんに強引に割り込んできたのも、和希の連絡先を聞き出し、勉強に誘ったのも、どうやら身辺に不安があるために、1人にならないようにしているのらしい。

 で、その不安の相手が彼女ら、と。

 ……あの少女たちの目からは、完全に紗紅が悪者のようだったけれど。それはともかく。



「慶史はキミに、私のことを、気軽に使える用心棒とでも説明してるの?」


「いいえ? 大体要約すると、大好きな先輩って言っています」



 要約が雑で、あんまり喜べないんですけど?



「ただ、色々今井君に話を聞いていて、今回、三条さんにぜひ力を貸していただきたくて」


「あー……慶史から聞いた話の量がちょっと足りないみたいだな。

 三条和希は基本、24時間省エネなんだ」


「でも」



 紗紅が、指揮のように、やわらかく指を立てる。



「常識外れの人間や、変わった人間がお好きだって、聞いています」


「それはガセだって心の底から言いたいんだけどなぁ。

 で、キミのどこがそれに当てはまるの」


「そのお話を、ご飯を食べながらしたかったんです」


 

 ふむ。この目の前の美少女には、和希を逃がす気は皆目なさそうだ。

 あくまで柔らかく、からめとる。

 それも、和希に反発心を生じさせないよう、ぎりぎりのラインを狙っているのがわかる。

 やっぱり、賢い。少なくとも和希より、ずっと。



「よかったら、お話聞いてくれません?」



 にっこりとねだられて。

 折れたというよりも感嘆ゆえに、和希はこくりと頷いていた。



◇◇◇



 夜の学食にて。食事に手をつけながら。

 和希は、力の抜けた声で、紗紅の話をおさらいした。  



「……つまり、キミが所属するサークルのなかで、現状キミに好意を持ってる男、計23人。

 このせいでトラブルに見舞われ続けてるから、全員振って、スッキリしたい、と」


「そういうことです♪」


「うち、少なくとも6人は、自分がキミと付き合ってると思っている、と」


「付き合ってなんて、一言も言ってないんですけどね。

 どうしてだか、男子ってすぐ、『オレの女』扱いしますよね。今井くんを除いて」



 うん。慶史は除いてくれ。じゃなくて。



「……で、私に望むことは、テスト期間が終わるまで、図書館で勉強するときや食事の時、できるだけ一緒にいてほしい、と。君の身の安全のために。なかなか厚かましいお願いをするね?」


「結構常識から外れてる、変わった相談でしょう?」


「そういう『変わってる』は私、お初なんですけど。

 身を守りたいなら、退部して逃げるという手があるよ?

 または、気を持たせるような態度を取らずに全シャットダウンするとか?」


「三条さんは、男の人みたいなことを言いますね?」


「酷いこと言うね」



 和希は、湯飲みコップについだお茶を一気飲みした。

 飲み込んで、ほう、と腹に鬱屈した空気を吐き出す。



「私だって、世の中、どんな態度をとっていようが勝手にこっちに好意があると思い込む阿呆アホウがいる、というのをしらないわけじゃない。

 ただ、そうはいっても、程度問題はあると思っている。

 ごめん、話を聞いている限りでの印象だけど」



 フフフフ、と、紗紅は、さっきまでと少し違った笑い方をした。



「つまり、私が気を持たせるような態度をとってるんじゃないの?ってことですよね。

 三条さんも、けっこう酷いこと言ってらっしゃいますよ?」


「そうかもね。ごめん。

 とりあえず、キミのサークルの名前を聞いていい?」



 紗紅が、所属サークルの名前を口にした。



(…………………………)



 聞き覚えのあるサークル名に、和希は、おのれの唇をかいた。

 顔色が変わったり、表情が動いたりしてしまわなかっただろうか。



「なるほど」



 ため息を、深くつく。

 こんな縁があるものなのか。



「了解。引き受けよう」


「ありがとうございます」



 今度は可愛らしさに花が咲くような紗紅の笑顔。

 うなずく和希は、このあと巻き込まれるトラブルをさすがに予見してはおらず、ただ、慶史よくこの子と普通に付き合ってるなと、何度目かわからない感心をしていたのだった。



◇◇◇

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