サークラ美少女を護衛せよ(4)
「ごめんなさい。
ご一緒させていただくように無理を言ってしまって」
天沼が、美しい目で、和希と慶史両方を均等に見ながら言う。
和希は慶史と目を合わせ、のち、自分が口を開いた。
「今日、一緒に、っていうのは、キミから言ったの?」
「ええ。少し、理由があって。今日は1人でごはんを食べたくなくて。
それと、三条さんのお話は今井君から何度も聞いていたので、一度お話をしてみたくなって、お願いしちゃいました」
「何度も?」
早々に食事を食べ終わりそうな勢いの慶史は、和希が『変なこと話してないだろうな』という目を向けると、手を横にブンブン振った。
「いや、和希さんについて変なこと言ってないですよ?
ふつーに、サークルの話をしてるだけなので……」
「ふつーに、ね」
慶史の態度は大体いつも通りだし特に変わった様子はない。
無理して和希にばかり話しかけるというのでもないし、もちろん、彼女にばかり話しかけている様子でもない。
「そうだ。和希さん、ありがとうございます、ポーチ。
練習とかで使わせていただきます」
「ああ。つかえそうならよかった。
クラスの子からも、なんか誕生日プレゼントもらったの?」
ここで和希は、さりげなく探りを入れた。
「クラスの有志からってことで、時計もらいました。
結構いいやつを」
「みんなでお金集めて、って感じかぁ。
確かにそのほうが、数は少なくても良いものもらえそうだね。
あとは家族から?」
「食べ物ばっかりでしたけどねー。
それと、バイト先でお菓子をもらったのと、天沼さんから猫型クッキーをもらったのと、和希さんからのプレゼントです」
慶史は笑う。
この質問の本命は、この天沼紗紅から何かプレゼントがあったか、だったのだが、猫型クッキーか。
どうなのだろう。女がクッキーを焼いて人にあげるときの感情って。
クッキーって、割と普通に焼くような。恋愛対象には、もっと難しいお菓子作るような。
……よく考えたら、和希はそもそも、いわゆる女心といわれるものがあんまりわかっていなかった。
まぁ、食べ物大好きな慶史を餌付けするには有効、か?
「あの、三条さん」
紗紅が形のいい唇を開いた。「もしよかったら、連絡先を教えていただいても?」
「………?………」
微笑んでいる、紗紅。
彼女の笑顔は整いすぎて見える。
失礼に思われないよう、砕けた印象を出さないようにしているように、和希には思えた。
何か目的があるのなら。
だれかれ構わず軽く人の個人情報を聞く輩より、むしろそのほうが和希としては好きだ。
「いいよ」
和希は、スマートフォンをすっと取り出した。
◇◇◇
「―――――――――――で、その日のうちに、キミから呼び出しかかるとは思わなかったよ?」
「三条さん、いい人ですね?」
「まぁ、女の子から誘ってもらうことなんてほとんどないし。
試験期間中だし、勉強するのは間違いないし」
その日の全講義の終了後。
大学の付属図書館にて、なぜか、本当になぜだかわからないが、和希は天沼紗紅と向かい合って勉強していた。
会ったばかりの、しかも後輩である紗紅からの呼び出しだ。
さらには、慶史がいない。
一対一である。
「キミは、慶史とは仲いいの?」
「気になりますか?」
少し蠱惑的な笑み。
これは意図的に選んでこの表情にしている気がする。
「多少はね。野次馬根性と、ちょっと保護者意識と、でもあんまりうっとうしい先輩にはなりたくないなって気持ちと。あとは、慶史と仲がいいのなら友好的な関係は築きたい」
「やっぱりいい人ですね」
「ん?」
言葉少なに話しては、あとは黙々と2人、勉強を続ける。
学科が違うとはいえ、一般教養系なら和希が教えてあげられるものもあるかと思ったのは、ほんのつかの間だった。
辞書なしでドイツ語の文献をすらすらと読み、シャープペンシルの先は迷うことなく走る。
ノートをちらりと見てみて、ああ、これは頭の出来が違う人だ、と観念した。
せめて後輩の手前、集中して勉強しよう、と、和希は背筋を伸ばした。
――――――そうして。
時計の針はだいぶ回った。
当然夜。
閉館まではまだ時間があるが、一度食事をとりたいところ。
「中央食堂が閉まる前に、晩ご飯いく?」
「夜もご一緒していいんですか?」
「うん。全然……」
そう言ってパタパタと荷物をまとめ、一旦返却すべき本を重ね始めた。
その時だった。
「―――――――天沼!!
こんなところにいたの!?」
突然、図書館にあるまじき無礼な大声を発した輩が出現して、和希は唖然として手を止めてしまった。
1人じゃない。複数だ。
「なに、自分だけ、涼しい顔して勉強してんのよ…………」
「みんなを、不幸のどん底に叩き込んどいて、この悪魔!」
「最低すぎる。この―――――」
そのうち1人が、紗紅めざして思い切り平手撃ちを放った。




