サークラ美少女を護衛せよ(2)
「和希さん、メール、ありがとうございました」
「どうしたの? 慶史。
誕生日祝い、もう終わったの?」
和希は見知らぬ美少女に会釈を返してから、慶史に話しかける。
慶史の笑顔はいつも通り変わらない。
普段より高揚している、というようなこともない。
先輩である和希に対して、普段通り背筋を伸ばして、礼儀正しく対峙する。
「テスト期間なので短めに切り上げようということになって、さっき終わりました。
これから、同級生を家まで送ってから帰るところなんです」
今井慶史は、和希が一番仲がいい後輩で、工学部情報学科の1回生男子である。
172cmの和希よりも少し背が高く、シルバーフレイムの大きめのレンズの眼鏡とあたたかみのあるマホガニー材のような色合いの瞳、地毛の色そのままのダークブラウンの短髪が特徴の少年だ。
そして本日、19歳になったばかり。
「ただ、今日、家から誕生日祝いの荷物が届いて、ふだん道場を貸してもらっているおうちへのお礼に渡しなさい、って、お菓子が入っていたので。今日のうちにこちらに届けとこうかと」
「……キミ、家族にここの話とかもしてるの?」
「ええ。和希さんの話もしてますよ。名前は伏せてますが」
仲がいい家で育つと、そういう会話を、離れた家族とするものなのか。
家族と呼べる存在がいないにひとしい和希には、想像できない世界である。
慶史は、上泉邸の家主である知有に、手提げ袋を差し出した。
「えびせんべいと、ラングドシャ。
よかったら食べてね」
「う、ん……」
複雑な顔で受け取る知有。
その横から、和希は、慶史への誕生日プレゼントの手提げ袋を差し出した。
「私のほうも。これ。プレゼント。
無難に使えそうなものにしといたよ」
「あ、ありがとうございます。なんだろ」
開封したそうに袋をちらっとのぞいたが、後ろで待つ少女のこともまた気にかかったか、慶史は手提げ袋を自分のバッグの中にしまった。
「ありがとうございました。夜分失礼しました。
それじゃあ、また」
微笑み、丁寧に頭を下げると、慶史は待っていた同級生を促し、玄関を出ていった。
玄関口からしばらくは明るいし、外まで見送りにいかずとも良いだろう。さて。
「もどりますか、やぬしさ………ん?」
知有に声をかけようとして、その、何とも言えない顔に和希はぎょっとした。
ひとことで言うと、泣きそうであり、怒っていそうであり、またへこんでもいて、爆発寸前の何かを抱え込んだ顔でもある。一体、どうした?
……って、理由は、あれか?
「………………和希ぃ。
あの女の人、知ってるか………?」
「私は見たことはないです。同級生って言ってましたね。
あれじゃないですか、ほら、前に話していた、クラスで唯一の女子。
頭のいい美人さん、っていう。
たおやかな感じの、お人形みたいな綺麗な子でしたね。
歩く姿は百合の花、って言葉が似あいそうな」
「とても、とてもとても、美人だった……」
「えーと。
恋愛関係かどうかは、わからないんじゃないですか?
女の子を家まで送ってあげるとか、私もしますけど。
まぁ、そりゃ家主さんが慶史のことを気になるのはわかりますが……」
「うーん…………………………………………ん?。
和希!? いまなんて!?」
「あ。いや、あの……」
婉曲な言葉を使ったつもりが、わりとダイレクトに核心を突いてしまった。
後悔先に立たず。
ぐいぐい知有に腕を引っ張られて、和希はやむなく、廊下にしゃがんで知有と目線を合わせる。
「…………あの、えーと、その。
家主さん、慶史のこと、好きですよね?」
「なんで!?」
「わかりやすいので。
慶史にいまのところばれてなさそうなのが、逆に奇跡です」
「…………慶史には、ばれてない……??」
「と思います。
慶史と一番仲がいい私が言ってるので信じてください」
それが安心するツボだったのか。
はー……と、息をついて、知有もぺたんと廊下にしりもちをついた。
女心、難しい。
「……慶史、ああいう女の人のこと、好きなんだろうか……」
「まぁ、本人に聞かないと、その辺は……」
男と女の間には友情は成立しないとか、男と女ならば恋愛関係になるのが普通、という考え方を、和希は嫌悪している。
だがさすがに、こどものかわいいやきもちまでそんな突っ込みを入れる気はない。
「和希」
すっ、と、知有はいずまいをただすと、綺麗な正座で、指を揃えて、土下座した。
さっきまでぐちゃぐちゃに泣きそうな顔だったのに。
腹を決めたのか、顔まできれいに整えて。頭を下げる。
それは、大人でもなかなかできないほどに、綺麗な土下座だった。
「家主さん?」
なんだ、いったい、この小学生は何を頭を下げているのだ?
「この上泉知有、一生のお願いだ。
どうか、あの女の人がどういう相手なのか、慶史に聞いてきてくれないだろうか?」
「…………………………はい?」
◇◇◇




