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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第6話 祇園祭の夜の貴女は
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祇園祭の夜の貴女は(11)



 神宮寺は、殺気や気配なんかを敏感に察知できるたちではない。

 武道の経験もない。


 喧嘩に弱きことガチ底辺レベルなことも自覚しているが、小動物のごとく、危険を前にして第六感が働くとかぞわっとするとか、そういう能力にも長けていない。



 そんな神宮寺が、今の三条和希を見て、ぞわりと寒気がはしっている。

 ついさっきまで一緒にいた、おなじみの先輩に違いない。だけど、全身がやばいと言っている。


 何がやばいって、目がやばい。



 三条和希(センパイ)はお怒りである。そして殺す気満々である。



 救いを求めるように、神宮寺は鈴鹿を見た。

 これは、いつにない激怒を見せる三条和希に、自分がビビってしまっているから余計に怖く見えているだけなんじゃないだろうか。いつも沈着冷静で動じない鈴鹿なら、この先輩を見ても、落ち着いて受け止めているのではないか、と、はかない期待をかけた。


 しかし。

 鈴鹿は目を見開き、何か、猛獣でも見たような顔で、硬直していた。

 ごくり、と緊張気味に唾を飲み込む鈴鹿の喉。


 しかし、鈴鹿の足元の男たちに和希が近づこうとするのを、阻止すべく、つつっと、前に出た。



 三条和希と鈴鹿尋斗が、驚くほどの至近距離でにらみ合う。

 同じ身長同士の2人、鼻がぶつかりそうな距離。



「あの。

 御覧の通り、すでに終わっていますので、もう三条さんの出る幕は」


「慶史を殴ったのは、この中の誰?」


「あの、慶史が心配なら横についていたほうが」


「後で病院に連れていく。その前に()った奴泣かす」



 表情はよく見えないが、鈴鹿の背中がわずかに下がった。鈴鹿でさえ、気おされている?

 神宮寺の耳に、泣かす、が、殺す、に変換されて聞こえたのはたぶん気のせいじゃない。


 引かない姿勢を見せながらも、言葉に迷っているらしい鈴鹿。

 しばし考えて、口を開く。



「大丈夫ですか、家主さんは」



 三条和希の片眉が上がる。



「家主さんについてるのは、殴られてダメージを負った今井と、水上さんだけでしょう。

 ついこの間のこともある。心配なのでは?」



 うぐ、と詰まる和希。

 慶史が殴られたと激怒しながらも、さすがに家主、つまり知有のことは無視できないのらしい。



「だれが慶史に危害を加えたのか、俺もわかりません。

 戻りましょう、三条さん」



「……………………」



 まだ、和希は引かない。


 どうしたものかと、何もできない神宮寺が迷っていると、地面に崩れ落ちた男の1人が、もぞもぞ動く気配がした。


「……な…………に?」


 携帯をもぞもぞ動かしていた。

 どうやらどこぞにいる仲間に、ひそかに連絡を送っていたらしい。

 それは、神宮寺を間男呼ばわりした、首謀者らしき男だった。



「あ。あの……、さん……」



 三条さん、と声をかけたかったが、のどがきゅっとしまって、声がでない。

 焦り、恐怖。

 ここから早く去らないと。




「――――――――おい、やられたのは、そいつらにか?」




 神宮寺の背面がわからそんな声がかかったとき、遅かった、と、神宮寺は口をかんだ。



「…………仲間が来る前にさっさと去りたかったのに」



 神宮寺のほうに振り向いた鈴鹿はぽそりと言い。



「―――――――――…………」



 和希は何も言わず、つかつかつかつか、と、歩き出すと、神宮寺の足元に転がる首謀者の首もとを踏みつけ。



「……!!おい、てめぇ……!?」


「……あとから来た仲間がコイツに声をかけたってことは、コイツが慶史を殴らせたってことか」



 サッカーボールを蹴り飛ばすように無機質に、くの字に曲がるほどその体を蹴り込んだ。

 胃液と唾液が混じった液が、その男の口から飛ぶ。



「野郎!!?」



 それが合図かのように、加勢組が、和希めがけて走り出した。



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