祇園祭の夜の貴女は(10)
◇◇◇
「ようやく捕まえたぞ、コイツ……」
一方、神宮寺賢一郎は、わけもわからないままに、2人の男にずるずると横道に引きずり込まれていた。
どちらの男にも、見覚えがない。
いったい何が起きているのか?
さっきまでとなりにいた今井慶史は? 他の皆は?
着崩れするほど引っ張られた浴衣の襟を直す手が、知らず知らず、震えた。
「あの……??」
「おら、ちょっと待ってろよ?」
1人の男が恫喝気味の声をあげる。びくり、と神宮寺が首をすくめたその時。
「おおお、おった、そいつや!!」
違う声が飛んできた。
太い声。怪我をしたのか、手を押さえた男が、ふらふらと寄ってくる。
「どうしたんだよ、お前らみんなボロボロだったじゃねぇか」
「いや、そいつのツレが意味わからんほど逃げ足が速くて、みんなやられたわ……」
(鈴鹿くんにやられた人たち?)
しかし鈴鹿が『かたづけた』のは、鈴鹿が知っているという、三条和希に似た男を狙った者たちじゃなかったのか?
なんだか、話が違うような。。。
「おい、なにアホづらしとんねん!?
俺の顔ぐらい、覚えとるやろ!?」
思わず、ぷるぷる、神宮寺は高速で首を横に振った。
「何やと、こら……。
お前のせいで、こんな傷が残ったんやろうが!!
お前が、人の女房をたぶらかすから!!」
さらに身に覚えのない因縁に、なにも言えないまま、ぶんぶん神宮寺が首を振る。いったい、何がどうなって?
「……優男って神宮寺のことか。ややこしいな」
(!?)低い美声がふいに響いたかと思うと、すごんでいた男が、パァンと足を払われて、転倒した。
「……ッッゼィァッ」
その男のみぞおちを、鋭く美しい下段突きが裂帛の気合いと共に撃ち貫いた。
「す、鈴鹿くん!?」
「思い出した。大学の近くの飯屋のオーナーだ。
確か、俺たちも何度か行ってる」
しゃべりながら、あと2人が鈴鹿に襲いかかってこようとするのを、スイ、と避け、いつの間にかその2人の後頭部をそれぞれ手のひらに納めると、2人を、ごっちーん!と正面衝突させた。
「さっきからの話を聞いていると、傷は、嫁に負わされたんだろうな。喧嘩というよりは、出ていったか。
それを、何をとちくるったか神宮寺が嫁をたぶらかしたせいだと思い込んだというところか?」
「………………へー……」
またすらすらと推理する鈴鹿だが、神宮寺としては、正直さきほどの勘違いを思うと素直に感心できない自分がいた。
ただ、ひとつはっきりしているのは、自分はどの女性もたぶらかしてなどいないということだ。
「……ありがとうというべきか何というか、鈴鹿くんや三条さんの気持ちがちょっとわかったような気がする。
何もしなくても災いって降ってくるものなんだね……」
「ただ、さっきの俺の仕留め方が甘くて、悪かったな」
「いやそれはいいから、仕留めるとか恐いこと言わないで……」
むしろ後悔するなら思い込みの方を後悔してほしい。
「ともかく、急いで戻るぞ」
「そ、そうか。仲間が来るかもしれないしね……
というか、今井くん大丈夫かなっ」
「いや。今井は大丈夫だったが、危ないのはむしろ三条さんのほうが」
「………………へ?」
……ガッガッ、ガッガッ……
舗装された道を歩いているとは思えないほどの、荒々しい足音が近づいてくる。
「まずい」
鈴鹿の口から焦りがこぼれでた。
ガッ。
足音が角を曲がる。
「―――――――――――慶史の頭に鈍器を落としたのは、誰だ?」
どこまでも冷たい目でありながら、素人の神宮寺でさえ全身が総毛立つほど、隠す気もない殺す気が頭のてっぺんから足の爪先まで駄々漏れた姿。
神宮寺が見たこともないキリングマシーン状態の三条和希が、姿をあらわしたのだった。




