祇園祭の夜の貴女は(7)
◇◇◇
「……ええと、形になったかと思います」
烏丸通沿いのカフェの中。
そう言って、慶史は、水上の髪から手を放した。
男たちに乱暴に髪を引っ張られたのだそう。
合流した時には、かわいそうに、ずいぶん水上の髪は乱れ、飾りも取れそうになっていた。
完全に直せはしなくても、なんとか形をきれいにできないか?と慶史は和希に頼まれた(ちなみに和希はこの手の作業はまるきりできない、と言い切った)。
そこで、まずは皆で通り沿いのカフェに入って、水上に座ってもらい。
その前に慶史はひざまづいて、髪をいじり、編み、留め、どうにかこうにか、緩いまとめ髪を作り上げて飾りをつけ直したのだ。
「うん。きれい。
さすが、長年妹に髪を編まされてきただけのことはあるな」
「和希さん褒めてませんよねそれ?」
「慶史がきれいにしてくれたぞ! ほら見ろ」
子供向けアクセサリーの小さな鏡を持っていた知有が、水上に差し出した。
鏡を見た水上が、不安げだった顔から笑顔に変わっていく。
「かわいくなった!
ありがと今井くん。すごいなぁ」
「大丈夫だったら、よかったです。
ぞうりでしたけど、足は大丈夫ですか?」
「うん。ちょっと疲れたけど痛いわけじゃないから。
そろそろ、みんなまた、歩きたいやんね。私は大丈夫」
「すみませんでした、水上さん」アイスコーヒーのストローから口を放した和希が、言葉を挟む。
「よくよく思い出したらアイツら、以前私が狩った奴らでした」
「ん、ごめん『狩る』の意味がわからへん」
「夜の先斗町で、かなり無体なことをしてたので、ちょっと軽くきゅっと」
「ちょい飲みのノリで人狩らんとって?」
だいぶ水上の突っ込み力が戻ってきた。
ということは元気も戻ってきたのだろう。
男4人に囲まれ恐かっただろうが、落ち着いてきたのなら、よかった。
安堵する慶史は、もう1人心配な相手、神宮寺へと目をやる。
「…………………………………………」
心ここにあらずというか、魂がどこかに逃げていったかのような顔つきで、ごぅりごぅり、と、飲み物に入っていた氷をかじっていた。
(何があったんだろう……)
さっきも、神宮寺1人あわてて走って戻ってきたし、あの、めちゃめちゃ短い時間の間に、一体何があったのだろう。
「それにしても。
噂には聞いてたけど、本当に三条ちゃんって危険人物やねんな……。本物のケンカなんか、初めて見た」
ぷるぷる、と震えてみせる水上に、慶史と和希は顔を見合わせて苦笑いした。
最近慶史も忘れがちだが、これが正しい一般人の感覚である。
むしろ思い出させてくれてありがたい。
人間は狩るものではない。
「さて、じゃ、そろそろまたお祭り回ろうか」
和希が立ち上がる。
「私、さっき和希が食べてたお団子食べたい!」
勢いよく挙手した知有が、珍しいぐらいの食い意地を見せる。
「あ、でも道を戻らないといけないんだな……
山鉾も、もっと見たいし……」
迷う知有。
自分がこどもであることも、この集団行動で、自分1人だけ離脱するということができないこともわかっている。
よし、ここは。
「じゃあ知有ちゃん、俺が買いに戻るから、和希さんたちと先に行って」
「店をわかってるのか」
珍しく鈴鹿が、口を挟んだ。
「まぁ、たぶん……大体の位置は? ていうか、屋台?出店?」
どうせそんな感じだろうと思った、という顔で嘆息すると、鈴鹿は続ける。
「俺が行く」
「へ? でも」
「さっきみたいなやつに絡まれたらどうする。
今井は、得物を持っていないと闘えないだろう?」
「…………………………まぁ、そうだけど」
「それに三条さんは、家主さんについているんだろう?
だったら、さっきも団子を買った俺が行くのが安全だ」
「う、ん……」
有無を言わさず、すっと立ち上がる鈴鹿。
「大丈夫か鈴鹿?
変な奴は相手せずに逃げてくるんだぞ?
和希もいるんだからな」
と、知有が声を掛ける。
鈴鹿は会釈し、皆より先に、店を出ていった。
◇◇◇
「……………………お?」
「なんやアイツ?」
先ほど、和希たち一行をにらみつけていた男たちは、少し距離を取りながら、あとをつけてきていた。
一行がカフェに入ったのを見定めて、見張れる位置で止まっていたのだ。
だが……彼らのもとに、男が向かって歩いてくる。
人並外れた、神に愛されたとしか言えない容貌。度肝を抜かれる美貌の男が。
「なんやお前……?」
その美貌に若干気圧されながらも、1人の男が、あおるように鈴鹿に顔を近づけすごんでみせる。
鈴鹿は足をとめる。
「……………………ちょっと、顔を貸せよ」
10人近い一同に向けて、まるで少数の小物に対して言うような態度で、低い低い声で、鈴鹿は挑発した。




