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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第6話 祇園祭の夜の貴女は
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祇園祭の夜の貴女は(7)

◇◇◇



「……ええと、形になったかと思います」



 烏丸通沿いのカフェの中。

 そう言って、慶史は、水上の髪から手を放した。


 男たちに乱暴に髪を引っ張られたのだそう。

 合流した時には、かわいそうに、ずいぶん水上の髪は乱れ、飾りも取れそうになっていた。


 完全に直せはしなくても、なんとか形をきれいにできないか?と慶史は和希に頼まれた(ちなみに和希はこの手の作業はまるきりできない、と言い切った)。


 そこで、まずは皆で通り沿いのカフェに入って、水上に座ってもらい。

 その前に慶史はひざまづいて、髪をいじり、編み、留め、どうにかこうにか、緩いまとめ髪を作り上げて飾りをつけ直したのだ。



「うん。きれい。

 さすが、長年妹に髪を編まされてきただけのことはあるな」


「和希さん褒めてませんよねそれ?」


「慶史がきれいにしてくれたぞ! ほら見ろ」



 子供向けアクセサリーの小さな鏡を持っていた知有が、水上に差し出した。

 鏡を見た水上が、不安げだった顔から笑顔に変わっていく。



「かわいくなった!

 ありがと今井くん。すごいなぁ」


「大丈夫だったら、よかったです。

 ぞうりでしたけど、足は大丈夫ですか?」


「うん。ちょっと疲れたけど痛いわけじゃないから。

 そろそろ、みんなまた、歩きたいやんね。私は大丈夫」


「すみませんでした、水上さん」アイスコーヒーのストローから口を放した和希が、言葉を挟む。


「よくよく思い出したらアイツら、以前私が狩った奴らでした」


「ん、ごめん『狩る』の意味がわからへん」


「夜の先斗町ぽんとちょうで、かなり無体なことをしてたので、ちょっと軽くきゅっと」


「ちょい飲みのノリで人狩らんとって?」



 だいぶ水上の突っ込み力が戻ってきた。

 ということは元気も戻ってきたのだろう。

 男4人に囲まれ恐かっただろうが、落ち着いてきたのなら、よかった。

 安堵する慶史は、もう1人心配な相手、神宮寺へと目をやる。



「…………………………………………」



 心ここにあらずというか、魂がどこかに逃げていったかのような顔つきで、ごぅりごぅり、と、飲み物に入っていた氷をかじっていた。



(何があったんだろう……)



 さっきも、神宮寺1人あわてて走って戻ってきたし、あの、めちゃめちゃ短い時間の間に、一体何があったのだろう。



「それにしても。

 噂には聞いてたけど、本当に三条ちゃんって危険人物やねんな……。本物のケンカなんか、初めて見た」



 ぷるぷる、と震えてみせる水上に、慶史と和希は顔を見合わせて苦笑いした。

 最近慶史も忘れがちだが、これが正しい一般人の感覚である。

 むしろ思い出させてくれてありがたい。

 人間は狩るものではない。



「さて、じゃ、そろそろまたお祭り回ろうか」



 和希が立ち上がる。



「私、さっき和希が食べてたお団子食べたい!」



 勢いよく挙手した知有が、珍しいぐらいの食い意地を見せる。



「あ、でも道を戻らないといけないんだな……

 山鉾も、もっと見たいし……」



 迷う知有。

 自分がこどもであることも、この集団行動で、自分1人だけ離脱するということができないこともわかっている。

 よし、ここは。



「じゃあ知有ちゃん、俺が買いに戻るから、和希さんたちと先に行って」


「店をわかってるのか」



 珍しく鈴鹿が、口を挟んだ。



「まぁ、たぶん……大体の位置は? ていうか、屋台?出店?」



 どうせそんな感じだろうと思った、という顔で嘆息すると、鈴鹿は続ける。



「俺が行く」


「へ? でも」


「さっきみたいなやつに絡まれたらどうする。

 今井は、得物を持っていないと闘えないだろう?」


「…………………………まぁ、そうだけど」


「それに三条さんは、家主さんについているんだろう?

 だったら、さっきも団子を買った俺が行くのが安全だ」


「う、ん……」


 有無を言わさず、すっと立ち上がる鈴鹿。


「大丈夫か鈴鹿?

 変な奴は相手せずに逃げてくるんだぞ?

 和希もいるんだからな」


と、知有が声を掛ける。

 鈴鹿は会釈し、皆より先に、店を出ていった。



◇◇◇



「……………………お?」


「なんやアイツ?」


 先ほど、和希たち一行をにらみつけていた男たちは、少し距離を取りながら、あとをつけてきていた。

 一行がカフェに入ったのを見定めて、見張れる位置で止まっていたのだ。


 だが……彼らのもとに、男が向かって歩いてくる。

 人並外れた、神に愛されたとしか言えない容貌。度肝を抜かれる美貌の男が。


「なんやお前……?」


 その美貌に若干気圧されながらも、1人の男が、あおるように鈴鹿に顔を近づけすごんでみせる。

 鈴鹿は足をとめる。



「……………………ちょっと、顔を貸せよ」



 10人近い一同に向けて、まるで少数の小物に対して言うような態度で、低い低い声で、鈴鹿は挑発した。



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