祇園祭の夜の貴女は(6)
◇◇◇
「……あ。あの………」
そのころ。
3回生、水上紗映子は、自分を囲む、見るからにコワモテな4人の男たちににらまれ、震えあがっていた。
「な、なんのご用でしょうかぁ……??」
「お前、今、ついさっき三条和希と一緒にいたよな?」
「あの、男だか女だかわからない見た目のくせして、血も涙もない悪党の鬼畜女と」
「どういう関係やねん?
答えによっちゃあ、ちょーっと呼んできてもらおか?」
「え。
あの、その……」
(なになになになに!?
何なん三条ちゃん、ちょっと待って、こんな恐い人らに一体何してくれてんの!?)
浴衣に草履。普段と違って小股でしか歩けないから、つい、他の子たちよりも遅れてしまったのだ。
他の面々と少し距離が離れた瞬間、後ろから呼び止められ、いきなり腕を掴まれた。
(神宮寺くん、今井くん、鈴鹿くん、どこ……!?
私がいないことに、もしかしてまだ気づいてない……?????)
混乱MAXな水上は、迂闊に答えると何をされるかわからないと、何も答えられない。
ベストな答えが何なのかわからない。
その態度が彼らを苛立たせたようで。
「おい、何か言えや」
1人が、水上の髪を掴んできた。
「……やっ……痛い…………」
ぐいぐいと髪を引っ張る男に、大きな悲鳴もこわくて出せない。
どうしたら、どうしたら……?
「……すみません、水上さんっ!」
ぎゅっと目を閉じた水上の耳に、聞きなじみのある中性的な声が響いた。
「お、おい来やがっ……ぅぐ!!」
「何だ、おわぁ……!?」
「!? ……ぅ、ぅわぁぁぁぁっ!!!」
「や、……ぁ!?」
水上が恐る恐る、目を開いたとき。
4人のうち2人は既に水上の視界にはおらず。
残りのうち1人は肘打ちで崩れたところを引き落とされて倒れ。
ラスト1人は、芸術的な軌道の後ろ掛け蹴りで顔面をひっかけられて倒れた。
(ぜ、全員、倒れた…………?)
そして全員を手品のように倒した女、イコール三条和希は、何事もなかったかのように、水上の前に進み頭を下げる。
「ごめんなさい、遅れてたことに気づかず。
お怪我はありませんか?」
「いや、あの……」
3つ数えるか数えないかの間に4人も倒してくれてありがとうというべきか、これはあなたの巻き添えなのかと問うべきか。
そう、頭は色々考えているのに、声が出てこない。
ひゅっ、と息が漏れる。
なんで?
恐怖の余韻で喉がしめられたように。
声がいつも通り出せない。
体が、震えている。
と……
「え、大丈夫ですか!?」
自分でも気づけない間に膝の力が抜けて思わずへたりこみそうになった水上。
いつの間にか来てくれていた神宮寺が腕を伸ばして、がしっ、と体を受け止めてくれた。
(…………!?)
腰と脇の下に腕ががっちり入って、後ろから抱えあげられているかのような体勢。
(いやいやいやいやいや、体、からだ、くっついてるくっついてる……!?)
そのうえ、支える神宮寺の腕が重そうにぷるぷるしている。
水上は羞恥にうちふるえた。
(ご、ごめんごめん神宮寺くん、見た目より重くて……
ていうか近い近い近い近い!?)
「……だ、だいじょうぶ……ですか?」
神宮寺に、再び心配げに尋ねられて、顔を覗きこまれて、思わず、水上はうなずいた。
「……ごめん。
お騒がせして」
倒れてまだ動けず、地面でぴくぴくしている襲撃者たち。
人びとは、おっかなびっくりそれを避けていく。
このままここにいることがまずいのは、水上も薄々わかった。
「とりあえず、早めにここを離れましょう。
慶史と鈴鹿とうちの家主さんは、念のために逆に向こうに進んで行ってもらっているので、我々が少し急いで合流しますよ」
「う、うん」
神宮寺の手を離れて、しっかり自分の膝で立ちはしたが、思い切り修羅場慣れしている和希の言葉に、ただただうんと言うしかできない水上。
その水上に、すっ、と手が差しのべられた。
「…………ん?」
「水上さん、行きましょう?」
長い指の大きな手。でもきれいな手で、柔らかそうで、拳を握る和希の手じゃない。
神宮寺が、自分に手を差しのべている。
切れ長な、きれいな目。
こんな素敵な男子が、水上ごときに手を差しのべている、だと? この手を、取れと?
「あ、あの……?」
いやきっと何かの間違いだ手を差しのべてくれてると思って手を取ったら大笑いな何かだいくら浴衣で歩きにくいといってもさすがに私ごときにはないはずでえーとなんなんでしょうか。
「……あ、ごめんなさいっ」
水上が一瞬(……より、ちょっとながい時間)戸惑ったら、神宮寺が手を思い切り引っ込めた。
「すみません調子に乗りましたごめんなさいっ!!」
長身イケメンは、赤面して身を翻し、人をかき分け、ばたばたばた……っと走っていく。
その後ろ姿を呆れて見ていた和希だったが。
ふいに、振り返ると。
「行きますか?」
と至極冷静に、水上に手を差しのべた。
「う、うん…………」
(やばい今すぐ死にたい……)と思いながら水上は、和希の手をぎゅっと握って、足早に和希についていった。
◇◇◇
「…………逃がさへんぞ、アイツ」
去っていく和希らの後ろ姿を睨み付ける人影があった。
その人影の周りには、同調する仲間とみられる男たちが、先程の倍はいた。
「絶対…………この傷の、落とし前つけたる……」
◇◇◇




