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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第6話 祇園祭の夜の貴女は
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祇園祭の夜の貴女は(5)



「――――あれが山伏山やまぶしやま

 偉い法力ほうりきを持った高僧の浄蔵貴所の姿やねんて」


「――――あれが占出山うらでやま

 あの上に載ってる女の人の像が、神功皇后じんぐうこうごう

 安産の神としてまつられてるから、これの巡行の順番が早い年はお産が軽いって言われてるんだって」


「―――鈴鹿山すずかやまっていうのもあるんやけど、今年は24日の後祭のほうやね。

 鬼退治をした鈴鹿権現を描いてるの」


「ほほー。よく知ってるなぁ」


「どれも、意匠を凝らしてますねー。あの刺繍ししゅうすごい手がかかってるんだろうなぁ」



 水上の話に、知有と神宮寺がいちいち頷きながら山鉾に見とれている。

 山鉾ひとつひとつは、そこまで度肝を抜かれるような大きさではないけれど、それだけに、大切に受け継がれたであろう一本一本の素材や装飾や金具が、近くで見れる。

 すぐ横にある歴史を物語られるようなリアルさを感じる。


 鈴鹿山すずかやま、ちょっと見てみたかったな、と、慶史はちらりと思った。


 一方、当の鈴鹿は自分の名がついた山鉾にも特に興味はないようで、すれ違い様に受ける逆ナンに、氷の視線をぶつけている。

 確かに。こうも高頻度で逆ナンを受けると相当大変なのかも。

 確か和希も、ナンパがものすごく嫌いだと言っていた。



「なぁ、露店にいってもいいか??」


「え、うん、ちょっと待って?」



 りんごあめを目指して走り出しかねない知有に引きずられる。 

 烏丸通りに並ぶ出店。

 知有の大きな瞳のなかに、喜びの星が散って見えた。



「あ、あんま食べすぎない方がいいよー。

 意外なところで意外な出店が出てるから、常におなかはちょっと余裕あけといたほうが」



 水上がかける助言に返事をしながら、知有は、さっそく一番大きいりんごあめを買う。助言意味ない。



「知有ちゃん、そんな大きいの、大丈夫?」


「なんだ?

 半分こしたいのか? 慶史」


「そうじゃなくてね…ま、いいか」



 知有が、両手で支えざるをえないほど大きなりんごあめに、一生懸命かぶりつく。

 小さい口では食べにくそうだが、幸せそうだ。


 その知有の向こうで、和希が、油断なく周囲に目を配る。

 慶史の手を知有が放した瞬間から、和希は、知有を慶史と挟むような位置に常に立っている。



「和希さんも何か食べます?」



「ああ。私は……今はまだ別にいいや」



 うわの空で答える和希。

 下手したらこの人ずっと食べないかもな、と、慶史はほのかに危惧した。



(どうしようかな。

 どこかで、代わりに俺が、和希さんの食べるもの何か買って……。

 和希さんが食べられないものって、チーズ系とクリーム系ともちと、他、なんだっけ?)



 進行方向の出店に目をやりながら、慶史が考えていると、ふいに慶史の前に鈴鹿が出てびっくりした。

 ずっと気配がわからなかったが、彼の手には、いつの間に買ったのか、香ばしいヨモギの焼き団子が1串、あった。



「どうぞ」



 鈴鹿が、団子を和希に差し出す。

 和希が鈴鹿と団子を交互に見て、「鈴鹿が食べないの?」と聞き返す。



「時間的に、腹ごしらえがいるでしょう」



 躊躇する和希に、あ、と慶史は声を出しかけた。

 和希は基本的に和菓子が嫌いなのだ。

 チーズや乳製品のように、本気で食べられないレベルではないけれど、餅や団子も苦手なものだったはず。


 和希と目が合った慶史。

 あの、と口ぱくをしたら、和希はすぐに慶史の意図を察したようで、瞬間、小刻みに首を振った。

 言うな、という意味だ。



「ありがとう。いただきます」



 冷静な声で、和希は指を伸ばして、鈴鹿から団子を受け取った。

 鈴鹿に見せるように、ひとくち、ゆっくりと、食べる。

 表情には、苦手だというのを一切出さない。


 こういうところで先輩ぶって無理するのは、和希のそんなによくないところだと慶史は思う。

 もっちりとした団子を咀嚼そしゃくして、静かに飲み込む喉を、慶史はいつの間にか見ていた。



「あ、家主さん!」



 和希は2つめの団子を口にすることなく、前へ小走りに出る。

 はっ、と慶史は気がついた。

 いつの間にか知有がいない!



「もう、先に行きすぎですよ」



 幸運にも。

 真っ先に気づいた和希は、団子で片手をふさがれながらも知有を捕まえ、手をつないで引っ張って帰ってきた。

 よかった。

 慶史は安堵するとともに、こどもとともに出かける難しさを痛感していた。

 小学5年生。だいぶ分別がある歳でも目を離した瞬間いなくなるなら、幼児と出かけたらどれだけ大変だろう?



「はは、ごめんごめん。

 あれ、和希それ……?」



 和希が普段苦手な団子を食べていることに気がついた知有が指差す。

 あわてて和希は突っ込まれる前に、残り2個の団子を急いで食べた。



「和希、あっち、早く行こう。

 私、もっと山鉾が見たい!」



「あんまり走ると、浴衣が着崩れちゃいますよ?」



 知有とつないだ手の反対の手で串をもて余す和希。

 


「あ、そうだ。

 水上さん……」



 和希が何か問いたかったらしく、後ろを振り向く。

 振り向いて、表情が曇った。



「和希さん?」



 慶史も、後ろを向く。



「…………みなかみさん?」神宮寺はいたが、水上の姿がなかった。


◇◇◇

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