祇園祭の夜の貴女は(2)
「…………うーん。
そうだね。確かに、慶史が来てくれれば、ちょっとはマシかな……」
(え、『マシ?』)
普段そういう物言いをしない先輩の言葉に、若干ショックを受ける慶史。
得物を持っても、自分は戦力として期待されていないということか?
……という慶史の表情を読んだらしい和希が、
「ああ、いや、ごめん。言葉が足りなかった」と慌てたように頭を下げる。
「人込みが心配っていうのは、目を離した隙に誘拐されないかとか、そっちの方の意味」
「誘拐??」
人混みで大学生が誘拐される?
話が見えず、慶史は首をかしげる。
かしげたのは一瞬で、次の瞬間には「ああ」と察していた。
「知有ちゃんが、ついてくるって言ってるんですか?」
「そう。うちの家主さんが来たいって」
三条和希は現在、下鴨のとある屋敷に下宿している。
その屋敷のあるじは、小学5年生の上泉知有。スポーツ用品メーカー『新影』の創業者を曾祖父に持ち、多額の遺産と屋敷を譲り受けた少女だ。
年齢以上に利発でしっかりした少女だが、人一倍好奇心旺盛なところもあった。
「私と、鈴鹿と、神宮寺で祇園祭の宵山に行くことになったって言ったら、自分も行きたいんだって。春に京都に来たばかりだから、見たいんだろうね。
私あてに喧嘩売ってくるやつだけなら、最悪鈴鹿がいれば何とかなるだろうけど。家主さんをピンポイントで狙われた場合、隙を突かれない自信はないし。たとえ正面から来られても、守りながら闘えるかっていうとちょっと微妙かなと」
「そうですね。
知有ちゃんの気持ちもわかりますが、和希さんが心配されるのももっともです」
和希の言葉に慶史はうなずく。
たぶん、女性として心配している部分もあるのだろう。
「宵山ってことは16日ですね。
クラスで行くのは14日の宵々々山だから大丈夫ですよ。
俺も一緒に行きます」
「そうか。ありがとう。
ただ……」
「ただ?」
「あれは置いていってね?」
和希が指差した先にあったのは、鳥居に立て掛けられた、四尺杖を納めたケースだった。
「………………ダメですか?」
「君が捕まるよ?」
休憩時間終了のアラームが鳴る中で、和希は断固として首を横に振った。
◇◇◇
「結局ずいぶんな大所帯になっちゃいましたね」
16日、当日。5限終了後。
京阪三条駅の高山彦九郎像、通称『土下座像』前で集合したとき、苦笑いしながら、慶史と同じ1回生の神宮寺が言った台詞がそれだった。
大人しい性格だが、その182センチの長身に目をつけた先輩たちによってたかって改造され、女子の目を引くイケメンにされた神宮寺。
常々、サークルの女の子たちにちやほやされているのだけど、本人はちやほやになかなか慣れないようで、最近はどちらかというと男同士でいる方が楽そうだ。
本格的な浴衣姿なのは、本人もちょっと楽しみにしてきたのだろう。ただ背が高すぎて、ちょっと足元の丈が足りていない。
「そうだな。
でも大勢の方が楽しいだろう?」
浴衣を着た知有が、神宮寺に言葉を返す。
ぱっちりした大きな目に、小ぶりの整った鼻。
大人になったら美人になるだろう片鱗をのぞかせている顔は、今日は期待に紅潮している。
華やかな浴衣に、髪をサイドにまとめる髪飾り(←慶史がつけた)を揺らしながら和希の服を引っ張っている。
色々、紆余曲折を経て、祇園祭宵山に向かうメンバーは下記のようになった。
2回生、三条和希。工学部
1回生、今井慶史。工学部。
1回生、神宮寺賢一郎。文学部。
1回生、鈴鹿尋斗。文学部。
三条和希の家主で小学5年生の、上泉知有。
……に、加えて、神宮寺のたっての希望で加えた、3回生女子、水上紗映子。確か教育学部。
神宮寺をイケメンに魔改造した先輩の1人ではあったが、神宮寺としては、彼女がいると落ち着くので是非、とのことであった。
柔らかな色合いの長い茶髪に、水色の浴衣がよく似合う。
が、神宮寺以外は普段そんなに話さない面々だからだろうか、若干緊張をみせている。




