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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第6話 祇園祭の夜の貴女は
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祇園祭の夜の貴女は(2)





「…………うーん。

 そうだね。確かに、慶史が来てくれれば、ちょっとはマシかな……」



(え、『マシ?』)



 普段そういう物言いをしない先輩の言葉に、若干ショックを受ける慶史。


 得物を持っても、自分は戦力として期待されていないということか?


 ……という慶史の表情を読んだらしい和希が、



「ああ、いや、ごめん。言葉が足りなかった」と慌てたように頭を下げる。



「人込みが心配っていうのは、目を離した隙に誘拐されないかとか、そっちの方の意味」


「誘拐??」



 人混みで大学生が誘拐される?

 話が見えず、慶史は首をかしげる。

 かしげたのは一瞬で、次の瞬間には「ああ」と察していた。



「知有ちゃんが、ついてくるって言ってるんですか?」


「そう。うちの家主さんが来たいって」



 三条和希は現在、下鴨のとある屋敷に下宿している。

 その屋敷のあるじは、小学5年生の上泉知有。スポーツ用品メーカー『新影(シンカゲ)』の創業者を曾祖父に持ち、多額の遺産と屋敷を譲り受けた少女だ。


 年齢以上に利発でしっかりした少女だが、人一倍好奇心旺盛なところもあった。



「私と、鈴鹿と、神宮寺で祇園祭の宵山に行くことになったって言ったら、自分も行きたいんだって。春に京都に来たばかりだから、見たいんだろうね。

 私あてに喧嘩売ってくるやつだけなら、最悪鈴鹿がいれば何とかなるだろうけど。家主さんをピンポイントで狙われた場合、隙を突かれない自信はないし。たとえ正面から来られても、守りながら闘えるかっていうとちょっと微妙かなと」


「そうですね。

 知有ちゃんの気持ちもわかりますが、和希さんが心配されるのももっともです」



 和希の言葉に慶史はうなずく。

 たぶん、女性として心配している部分もあるのだろう。



「宵山ってことは16日ですね。

 クラスで行くのは14日の宵々々山だから大丈夫ですよ。

 俺も一緒に行きます」


「そうか。ありがとう。

 ただ……」


「ただ?」


「あれは置いていってね?」



 和希が指差した先にあったのは、鳥居に立て掛けられた、四尺杖を納めたケースだった。



「………………ダメですか?」


「君が捕まるよ?」



 休憩時間終了のアラームが鳴る中で、和希は断固として首を横に振った。



◇◇◇



「結局ずいぶんな大所帯になっちゃいましたね」


 16日、当日。5限終了後。


 京阪三条駅の高山彦九郎像、通称『土下座像』前で集合したとき、苦笑いしながら、慶史と同じ1回生の神宮寺が言った台詞がそれだった。


 大人しい性格だが、その182センチの長身に目をつけた先輩たちによってたかって改造され、女子の目を引くイケメンにされた神宮寺。


 常々、サークルの女の子たちにちやほやされているのだけど、本人はちやほやになかなか慣れないようで、最近はどちらかというと男同士でいる方が楽そうだ。


 本格的な浴衣姿なのは、本人もちょっと楽しみにしてきたのだろう。ただ背が高すぎて、ちょっと足元のたけが足りていない。



「そうだな。

 でも大勢の方が楽しいだろう?」



 浴衣を着た知有が、神宮寺に言葉を返す。


 ぱっちりした大きな目に、小ぶりの整った鼻。

 大人になったら美人になるだろう片鱗をのぞかせている顔は、今日は期待に紅潮している。

 華やかな浴衣に、髪をサイドにまとめる髪飾り(←慶史がつけた)を揺らしながら和希の服を引っ張っている。


 色々、紆余曲折うよきょくせつを経て、祇園祭宵山に向かうメンバーは下記のようになった。


 2回生、三条和希。工学部

 1回生、今井慶史。工学部。

 1回生、神宮寺賢一郎じんぐうじけんいちろう。文学部。

 1回生、鈴鹿尋斗すずかひろと。文学部。

 三条和希の家主で小学5年生の、上泉知有。


 ……に、加えて、神宮寺のたっての希望で加えた、3回生女子、水上紗映子(みなかみさえこ)。確か教育学部。



 神宮寺をイケメンに魔改造した先輩の1人ではあったが、神宮寺としては、彼女がいると落ち着くので是非、とのことであった。


 柔らかな色合いの長い茶髪に、水色の浴衣がよく似合う。


 が、神宮寺以外は普段そんなに話さない面々だからだろうか、若干緊張をみせている。

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