祇園祭の夜の貴女は(1)
祇園祭の山鉾巡行の日も迫る、土曜日の午後。
今井慶史は、1学年上のサークルの先輩女子である三条和希とともに、大学のすぐそばにある吉田神社にいた。
神社の入り口には、ちょうどいい具合のそこそこの長さがある坂がある。
そこで軽く、ダッシュの練習を重ねていたのだ。
どちらかというと女子の中でも圧倒的に速いこの先輩は、今日は完全に付き合いで、慶史のフォームを直したり、タイムを計ったりなどしてくれている。
「……ど、どうでした……?」
もう既に本数を覚えていないダッシュのあと、ゴールにいた和希の足元にへたりこみながら、慶史は尋ねた。
「うん。落ちてるな。
休もうか」
「~~~!! ……はーい」
和希は首にかけたストップウォッチを外した。
計る担当とはいえ、この暑い中立っていれば、汗もかくだろう。
「とりあえず、5分休憩ね」
うなずき、座り込んだまま、慶史は先輩の全身を仰ぎ見た。
足が、長い。
三条和希は、学生兼、格闘家。
ITFテコンドー出身の女子ファイターだ。
目立つのは、格闘家と呼ぶにはやや細すぎる体と、かなりの手足の長さ。
Tシャツはやや体に沿った形のものだが、はいているジャージはおそらく男物で、足首までをしっかり隠している。
―――――時々、何とも言えない気持ちになるのは、慶史が、三条和希がスカートをはけない理由を知っているからだ。
スカートをはくのが女の必須条件であるわけはないし、それこそ好きな服装をすればいい。だけど、和希の場合は、すこし、事情が違う。
「……あ、そうだ、慶史」
「はい?」
和希が、慶史のとなりに腰を下ろした。
ふだん、男との接触接近を極力避けないといけない和希が、慶史だけは、近い距離にいても平気のようで、その事実はほんのり慶史の胸をくすぐったくさせる。
「祇園祭、誰かと行く?」
「あ、はい。クラスの面々と行くことになりました。
和希さんは、あれですよね。
鈴鹿と神宮寺と行くことになるんです、よね?」
「うーん。
まぁ……誰かに譲りたいことこの上ないんだけど……。
正直、人混みが、不安」
慶史は笑わず、うなずく。
漫画のような話ではあるが、三条和希という女性は、多くの男(時々、女)からその身を狙われている。
恋愛とか性的にという意味合いではない。……いや、その場合もあるにはあるけれど。
倒すべき強者として、彼女を倒そうと狙っている男たちが数知れずいるのだ。
そもそもは高校時代、最強女子高生などと勝手にネットニュースに書かれたことなどが原因らしい。
そんな彼女は、この間のサークル内イベントの大文字山登り競争で1位になった。
詳細は省くが、その結果、うちのサークルが誇る神宮寺と鈴鹿というイケメン2人と、祇園祭に出かけることになってしまった。
現在のサークル内の女子の圧倒的多数は、この2名のイケメン目当てに入部したようなものである。
色恋沙汰のトラブルを嫌う和希は、即日、辞退します、と、競争の主催者に言っていたのだが、結局辞退はみとめられないことになってしまったようだ。
確かに、人ごみは、和希の身からすれば不安はあるだろう。
一緒に出かける2人のうち鈴鹿は伝統派空手の出身で、和希も認めるかなりの手練れなのであるが……。
慶史は剣道出身で、多少得物も使える。
今は、和希にもらった四尺杖で杖術の練習中ではあるが。
「もし、クラスのと日が重ならないようなら、俺も行きましょうか?」
と、慶史は申し出た。




