武神の遺産と一族(17)
「……言えるとこまでで、いいです」
和希は寝返りを打ちながら、言った。
「今日だけじゃない。
いつでも聞きますから」
「……うん」
「私も、そのうち言います。
少し、待ってください」
「…………うん」
屈託なく元気で、自分の思う道をこどもながら貫ける子なんだと勝手に思っていた。こどもの頃の自分とは正反対の子だと。彼女を見ていていたたまれなくなるんじゃないかとさえ考えていた。
だけど。
“嫌われたくない”
人は1人1人違うけど、意外なところで、近い想いを見つけたりする。意外な気持ちを見つけて、もっと語りたい衝動に駆られる胸を、和希はおさえつける。
言える日がいつかくる。
私も、嫌われたくなかった、と。
「遺言書の件も、社長が帰っていらしたら相談しましょう。
今日は、ありがとうございました」
「大丈夫。もう、迷わない……」
まだまだ眠れなさそうな知有は、それでもまぶたを閉じて言う。
「私は、この屋敷と、和希とみんなを、必ず守るから」
◇◇◇
「…………さーんじょう?」
暗がりの中も、彼は夜目がよく効くらしい。
深夜。
この屋敷の客人となった男の1人が、貸し出された浴衣姿のまま、そっ、と、和希のへやのふすまを開けた。
「まぁ、寝てるか」
寝息をたてる和希と知有の枕元にしゃがみこみ。
トオルは、袖をまくりあげた手で、そっと、和希の髪に触れた。
「まったく。
なーんで、あそこで塀の反対側に落ちるかなぁ?」
恨みがましく、和希のまっすぐな髪をぐるぐると指でもてあそぶ。
起きているときにはなかなか弄れない彼女の髪は、張りがあって、そんな風に巻いてもトオルの指に巻き付くことなく、するりとほどけていくのだ。
この髪も、どこか持ち主に似ている。そんなことをトオルは考えた。
「俺のこと、こっち側に染まるなとかいうけどさ。
おまえこそ、俺の側に来いよ。
なぁ」
返事はただ寝息。
せめて、寝たふりなら、いいのに。
トオルは乱した髪を、そっと指先で整えた。
その上で。床に膝をつくと、己の顔を近づけ。
優しく包み込むようにその頭に触れながら、髪の上からそっと、和希の頭にくちづける。
ほのかなあまいにおいがした。
「おやすみ。和希」
そろりとふすまを閉めると、トオルは、自分が眠るべき部屋へと歩き出した。
【第5話 武神の遺産と一族 了】




