武神の遺産と一族(16)
◇◇◇
「……………………」
暗い廊下に座り。
無残に破壊された雨戸をじっと見つめる和希。
知有がトテトテトテと近づいてきて、心配げに、「和希ー」と声をかける。
「心配ない。
明日には予備の雨戸が届くから」
「いや……」
「警察はいったん帰った。
それに、そとのやつらはそのまま全員連行された。
聴取はまた明日、ということだ。慶史とトオルは泊める。
早くお風呂に入って寝よう?」
そうですね、と気のない返事をしてしまう。
自分のせいで、武神の残したものがひとつ傷つけられた。それを和希は強く反省している。
廊下の照明をつけようかどうか一瞬迷ったらしい知有だが、つけるのをやめ、とっとっとっ、と和希の隣までやってきて、ちょこたりと座る。
暗い中、並んで、和希と同じものを見ようとする。
「申し訳なかったです」
「ん?」
「私が家主さんのお父さんを挑発してしまって、こちらの準備も出来ていないうちに屋敷にあいつらが来ることになって」
「そうだな」
知有は、こくりとうなずいた。
「本当なら、この屋敷のあるじの私が、おとうさまと闘わないといけなかった。
次は必ずそうする」
「……そうですね」
そう。手先が捕まったというだけで、屋敷を狙う人間の正体はまだわからない。その者たちと、知有の父親の関係も。
今回の事件を経て、またどんな手を使って、この屋敷を狙ってくるかも、いまは想像がつかない。
「そういえば、武器2つ、ありがとうございました。
特に例のパーカー。
あれは、IoRiさんが置いていったんですね?」
「ああ」
暑いのでさっさと脱いでしまったが、先ほどまで着ていた黒パーカーはすごかった。大きなフードの中に、取り外し式の、首と頭を防御する頑丈なヘルメットのような防具を仕込めるようになっていたのだ。
しかも、仕込む防具も複数あり、相手の武器に合わせて変えられるという。
「IoRi選手が、理系の研究室の学生と協力して独自に開発したものだとか。
『新影』も防弾チョッキとかを作っているから、良かったら参考にどうぞ、といって、頂いた」
協力、というより、なんとなく、信奉者的な下僕をこき使って作らせたとか、そっちの方が腑に落ちる気もするが。
「ところで和希」
「すみませんそろそろおとなしく風呂に」
「いや。そうじゃなくて。
今日、ちょっと和希の部屋で寝ていいか?」
「……………? ええ」
和希はうなずいた。
◇◇◇
慶史とトオルは、空いている部屋のひとつに布団を敷いて寝ることになった。寝るために、浴衣がそれぞれに貸し出される。かつてここにいた武道家たちが着ていたものらしいと聞いて、少し羨ましかった。
そして。和希の部屋では。
普段より端に詰めて和希の布団を敷き、その横にやや窮屈に、知有の布団を敷く。
上泉邸に住み始めて1か月。
知有とは初めて同じ部屋で寝る。
「………………和希は、親の話をまったくしないな」
照明を消し布団に入ると、やや遠慮がちに知有が言う。
「産みの親ですか?
まぁ、そういう関係です」
「……そうか」
「だから、親子の絆なんて迷信を、私は信じてないんです。
親はこどもの敵になりうる。
敵なら闘わないと」
「敵、と思えるといいんだけど……」
知有は、ため息をついて、言う。「恐いんだ」
「……こどもですからね、まだ」
「私は、物心ついた時には既に、この屋敷を頂くことが決まっていたり、おじいさまのお気に入りだったりした。
その分、おじいさまから後継者として選ぶことはないと早々に言われていたおとうさまからは…………」
知有の言葉が、途切れた。
なにかを飲み込むような、横顔。
言えない、のだと、わかった。
和希は急かさず、知有の言葉の続きを待つ。
じっと。
「嫌われたくなかった」
複雑な気持ちを絞り出すような、言葉だった。
「今は、おとうさまの声を聞くと、心臓がこわばって、頭が真っ白になって、何も言えなくなる。何もないってわかっていても、自分が、コントロールできなくなる」




