武神の遺産と一族(13)
「行くな、和希!」
自分の部屋から六尺棒をとりだし、座敷の方に向かう和希に、タブレットを抱えた知有が声をかけて止めた。
廊下の先の方に、庭園に面した縁側を覆った雨戸が見えている。
おそらくは北側か南側の家の2階から塀を越えて侵入したか、あるいは南北の家にロープか何かを渡して、庭まで侵入したのだろう。
雨戸がキュリリリリリリと音をたてて、しかもあろうことか、刃先まで既に見えているのだ。
「家主さん、さすがに、チェーンソーを雨戸が防げるとは言いませんよね?」
「さすがに防げないとは思う。
でも」
知有が続けようとしたとき、
グリュリュリュリュリュ!!!
という怪音が鳴ったかと思うと、音が止まった。
否、チェーンソーが止まったのだ。
「あの雨戸には金属も多少仕込まれているから、チェーンソーなんかで切ろうとしたら確実に壊れると思う」
「……なるほど?」
ざわざわと、雨戸の向こうで話す気配がある。
と、思ったら、ドォン…ッ、と、雨戸を重たいハンマーのようなもので殴りつける音がした。
「大丈夫。警察が来るまでに、雨戸を壊すことなんて、出来はしない」
「しかし……」
「相手はどんな武器を持っているかわからない。
みんな怪我なく籠城に持ち込めただけでも、よしとしよう?」
本当に警察はすぐ来るのか、という、漠然とした不安が和希の中に浮かんだ。
以前の、鈴鹿のストーカーの時は、確かにすぐに来てくれた。
しかし今回の黒幕は、どうやら影響力のある人間だ。
もし、下鴨署の中に、息がかかったものがいたとしたら。そして、この間のように速やかに来てくれなかったとしたら。
それ以上に。
目の前、無惨にも、チェーンソーが突き刺さったままの雨戸を、和希は悔しく思う。
あの、甘言を弄した、屋敷を売って欲しいという手紙たちを思い出す。
本当にこの屋敷の価値を知って、それを欲しがる人間であれば、屋敷の雨戸をチェーンソーで壊すなんてことをするわけがない。
つくづく。
愛がない。
「……屋敷を、これ以上壊されたくないんです」
「和希?」
「ちょっと出てきてもいいですか?」
「和希」
知有はぷるぷる首を振り、思い切り大きなバツ印を手でつくってみせる。
「お願いします。家主さん」
和希が頼むと、知有はちょっと困った顔をした。
あとひとおしかと思った。そのとき。
「その棍じゃなくて…………べつの武器を持ってくれるのなら、出てくれてもいい」
知有から、耳を疑う申し出があった。
◇ ◇ ◇




