武神の遺産と一族(12)
「おとなりさんが主犯、ってことは、さすがにあってほしくないけどなー。
…………いったん、リーダーのとこに戻るか」
そうトオルが言い終わるか終わらないかのうちに、また、キン!!と鋭い金属音がした。
トオルの足元から、だいたい身長ぶんぐらい離れたところに、クロスボウの矢が跳ねて転がる。
「やばい。
角度的に、塀からこれ以上離れると狙える範囲に入るみたい」
「塀に沿って南側に移動しよう」
和希が促し、慶史もうなずく。
慶史は和希を受け止めるときに放り出したらしい四尺杖を拾った。普段大事にしてるのに珍しい。
「和希ッ!!」
壁に沿って慎重に屋敷に戻ろうとする和希たちに、上から知有の声がふってきた。
見ると知有は、警護担当者に付き添われて屋敷の屋根に登っている。
「和希、慶史! 早く戻れ!!」
「家主さん! 上は危ないです!!」
「わかってる。隠れながら早く中へ!!
警察は呼んだけど、ちょっとマズイことがある!!」
こちらを呼び戻すためだけに屋根に登ったのかこの子、危ないことするとか人のことを言いながら家主も大概なんですが、と、若干心中で呆れながら、しかし走る。
キィン、キィン……!!
キィン、、キィン、キィン……!!
プレッシャーをかけるように、クロスボウの矢がたえず飛んでくる中走る。
いったい何本飛んできただろうか。
もうわからなくなるぐらい。
道場の陰を通り、木や巨石の位置を確認しながら、縫うように走り、3人は靴を抱えたまま、屋敷の裏口からかろうじて室内に滑り込んだ。
バタン
と、頑丈な裏口の扉を閉めて鍵を回した瞬間、どっと全身の力が抜けて、座り込んだ。
そこは警護担当者の詰め所になっている場所で、既に今日の当番の警護担当者がそこに集まっていた。
「怪我はなかったか!?」
たたっ、と知有がかけよってくる。
和希が座り込んだのを案じたのか、真っ先に和希のもとに来た。
もみじの葉のような小さな手で、和希の両頬を挟んで、大きな目をきょろきょろと走らせ、どこも怪我をしていないか確かめようとする。
「私たちは大丈夫です。
そちらや、ハウスキーパーさんたちの避難は大丈夫でしたか?」
「ああ。
近くにある秘密の別宅の方に無事移動できた。
場所は和希にも内緒だけど」
頷いた。
知有が以前言っていたが、上泉綱三氏がこの家で武道家を保護していたときは、その武道家との因縁から、襲撃してくる輩がしばしばいたという。
だからだろうか、この家にはまだまだ秘密がある。
こういう非常時には、それが頼もしい。
「さっき家主さんが言っていた、マズイことというのは?」
「どうやら、この屋敷の周囲2軒の家が、最近持ち主が変わったらしい。南に1軒、北に1軒」
南だけじゃなかったのか。「挟まれてるってことですね?」
「そうだ。
さっき、和希たちは南側の家から攻撃を受けていたな?
多分、屋根の上辺りの高さだと思うけど」
「ご明察です。
ということは敵が危ないので、警察が来るまでしばらく籠城ということですね」
「うん。さすがに。
敷地内全部守りきるのは難しい」
うなずく。
それは和希も知有と同意見だ。
「建物にさえ入れなければ、人を守ることができるだろう?
だから、もし塀を越えて来られても、庭で誰かが騒ぎを起こしても、じっと中で我慢だ。
この屋敷が意外と火に強いのは、わかってるだろう?
防犯カメラもあるから、外のようすもわかる。
だから、多少物音なんかがあっても、動いたりは……」
……………………ドドドドガガガガガガッッッッ
知有の言葉を遮るように。
凶悪な連続する爆音が屋敷の中に響き渡った。
多少、の物音ではない。
「これは……座敷のほう?ですか?」
慶史が言葉を漏らすなか、和希は、ばっと身を翻して駆け出す。
思わず舌打ちしていた。
なんてことを、奴らは考えたのだ。
あの破壊音には聞き覚えがある。
そして、この屋敷の大半の戸締まりをにない、屋敷をガッチリと守っているのは、アレなのだ。
火矢にもたえてくれた。
しかし、それでもアレは、木なのだ。
それを。
「……あいつら、雨戸を、チェーンソーで壊しに来やがった!!!」




