武神の遺産と一族(11)
「!? 和希っ!!」
塀のうちへと落ちたとき、一瞬遅れてトオルの声が聞こえた。
やべ、と、口の中で呟き、首まわりを咄嗟に腕で守りながら落ちていく。体を丸めたり体勢を変えるには塀の高さが足りない。地面に叩きつけられるのを覚悟した。その時。
「……待……ッ!!!」
玉砂利のうえを滑り込んできた何者かの腕に、地面すれすれで受け止められた。正確には、和希の肩がその腕を下敷きにした。
そうして背中から、その腕の上に、落ちる。
どこか離れた場所で。和希を狙った何かが落ちた音が響いた。
「―――――っ、痛ぁ」
落ちたダメージ皆無とはいかない。痛い。
しかし腕2本を和希の体のクッションにしてくれた人間がいなければ、まったくこれでは済まなかっただろう。
「……だいじょうぶ、ですか?
和希さん?」
いや、君がな?
スライディングの結果、落ちてきた先輩を受け止めつつも、その体に顔面を思い切りぶつけることになった後輩の顔がちょっと笑えてしまいそうになった和希は、ギリギリのところでこらえた。
「悪い、慶史。ありがとう」
「いえ、あの……」
「だいじょうぶか!?」
慶史の腕の上から和希がどくのとほぼ同時に、塀の上に牧ノ瀬トオルが顔を出して、大きな声で聞いてくる。車の上に乗ってそこからよじのぼったらしい。
「牧ノ瀬、そこ、危ない!」
「わかってる」
またなにかが翔んでくる。それを予測していたようにふいとスウェイで避けるトオル。
「クロスボウだ。
下手したら死ぬな」
トオルがその凶器を、塀のなかに、ぽい、と投げ込んできた。
ごくごく短い、棒のような金属らしい矢。
これが頭に当たっていたらと思うとぞっとする。
それにしても、また遠距離戦か。厄介だな。
「……どこから狙ってる?」
「さぁ。ただ、塀の上を屋敷の外から狙ってる。あっちから跳んできたし、それも上から下へ。たぶん高いとこにいそう」
「またキャンピングカーかな……」
「え、そんな敵いたの?」
「トオルさん、塀の中へ」
ふと、慶史が、えらく冷静な声を出した。
何か気づいたと見たトオルは、無言ですとっ、と塀から庭へ降りる。
「クロスボウは弓よりも有効射程がだいぶ短かったと思います。
弓も小さいですし。さらにいまは夜ですし。
糺の森とかは、少し遠すぎるはず。多分ですけど」
「ということは?」
慶史は、すっ、と、矢がきた方向を指差した。
「南側に隣接するおうちの、どこかに潜んでいるんじゃないかと」
「………………………………」
和希とトオルは、顔を見合わせた。
つまり。
それは、隣人がやつらに協力しているかもしれないということ……それ以上に。
「…………そいつが屋敷を狙ってる奴かもしれない、ってことか」




