武神の遺産と一族(10)
「…………ひるむんじゃねぇっ。落ち着けっ。
あ、アイツを呼び戻すんだ、電話しろっ!」
リーダーの男はそう言った直後和希に投げ飛ばされ、アスファルトに体を叩きつけられて失神した。
頭を打たないよう引っ張っていた袖を離して、和希は周囲を見やる。
1人、電話を握りしめながら逃げていく者がいた。
リーダーが言った『アイツ』を呼び戻しに行くのだろうか。
……と思ったら、その者の前を人の影がふさいだ。
次の瞬間、うしろに吹っ飛ばされて戻って、尻餅をついたまま動けなくなった。みぞおちに前蹴りでも食らったか。
「牧ノ瀬何やってんだ。
外は、別に、大丈夫だってのに……」
近づいてきた人影は牧ノ瀬トオルである。
和希は周囲の雑魚を跳び回って片付けながら言った。
「もう、いま怪我できない身だから、中で守備をって言ったのに」
その場にいた者たちを全員戦闘不能にして、トオルをたしなめるように和希が言うと、トオルが首を振った。
「リーダーの指示でーす」
「家主さんの?」
「正門側で闘ってた警護の人が捕まえた下っぱが白状してさ。
元ボクサーとかがいて、そのうち1人はプロのヘビー級だったらしい。
おまえじゃちょっと分が悪すぎる」
「いや、真正面からは当たらないし、分が悪かったら逃げるし」
「ふーん?
じゃあ俺、危なくなるまで出ないでおくけどー」
余裕こいたことを言う日本チャンプにイラっとしながら、和希はボンネットの上から車の上に乗り、塀の上まで跳んだ。
塀の上から辺りを見る。寄せてくる人の気配がないか。
「1人か2人逃げたはず。やつらが、私たちのことを仲間に知らせたとしたら、そこからみんな逃げるか、それとも攻めてくるか……」
「なぁに?
どっちにしろ攻めてくる心づもりでいればいいじゃん。
屋敷の外から来るのはわかってんだからさ」
下から和希を見上げて、しごく暢気な声で言うトオル。
思わず、和希は、一歳歳上のキャリアも型の実力も和希よりはるかに上の日本チャンピオンを、冷たいジト目で見てしまった。
「バカなの?
それとも栄養が脳以外のとこにしか行ってないの?」
「何言ってんの。
この状況に俺と慶史巻き込んだの、どこのどなたでしたっけ」
「うぐ」
言い返せず、詰まったまま、和希は嘆息する。
「……牧ノ瀬、頼むから、あんまり私の側に染まらないで。
あんたも、本当はこっち側の人間じゃないんだからさ……」
異が痛くなるような気持ちで和希がそう言うと、
「わかってる」
思いの外、しっかりした声が帰ってきた。
「おまえが思ってるより、俺は俺の立場をわかってるからさ。
三条といれば、自由になった気になれるだけ」
「…………」
「あと、チャンピオンでも道場の先生でもなく、単なるバカでいられるし!」
いや、それはいいんだろうか、確かにバカと言ったのは私だが、と和希は頭を手のひらで抱えた。
「でも、俺は和希を――――――」
トオルが何事か言いかけたその時。
「!??」
暗闇を引き裂いて翔んできた何かをかわし、和希は塀から落ちた。




