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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第5話 武神の遺産と一族
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武神の遺産と一族(9)

◇◇◇




「…………屋敷の間取りは送られてきてる。

 さて、どこから入るか」



「塀を越えて庭から入りますか?

 この門を破るのはかなり目立ちますし。

 書庫は離れから近いんですよね」


「ただ、書庫だけじゃない可能性もある、って言ってるんだ雇い主は。

 死んだジジイは、本当にヤバいモノは、机やタンスの、隠し引き出しなんかにしまいこんでやがったんだと」


「まぁでも、見つかってないものなら仕方ないでしょう。

 住人が寝入った後に、あくまで強盗というていで押し入って、多少金目のものを奪ったあと、書庫に火をつけて、警察がくる前に逃げ切る。

 けどまぁ下鴨警察署がすぐ川の向こうですから。

 使えるのは、ほんの数分でしょうねぇ」



 ガッチリと閉められた、裏門の前で、顔の下半分を隠した者たちが話をしている。

 荒事ということで雇われ集められたのであろう。

 リーダーとおぼしき男が何事か、指示を出すと、その指示を他の箇所に伝達すべくか、数名が走り出した。



「しかし、中の様子はどこからかうかがえるか?

 この屋敷、早々に雨戸を閉めきってやがって、中がわからん…」


「窓から照明が見えるとこがあります。

 そこが消えるまで待つのが安全でしょうねぇ」


「防犯カメラは?」


「正門のところと、屋敷周りにはあちこちついてるようですけどねぇ」



 塀の周辺が見える角度で防犯カメラがついていることにも気づかないまま、手下は答える。



「…………じゃあ、全員一旦、それぞれのポイントで待機――――」



 リーダーがそう言ったその時。



「――――――人件費いくらかかってんだ、コレ?」



 低い女の声が、頭の上から薄闇に響いた。



「!?」


 彼らが目線を上げたその時。

 ふわっと、塀の上から跳び降りた人影が、音をたてて、塀のそばに停まっていた車の上に降りた。



「な……!?」



 そのまま、その人物は、ひょいっ、と地面に降りた。



「随分と経費を使える方が、この屋敷をご所望なんですね?」



 長袖のウインドブレーカーにジャージ姿の、前髪の長い黒髪ショートの女。シャープな顔の、男と見まがう面立ちの美人。

 この女についての情報は、ざっくりとしか彼らは持っていなかった。


 生意気にもこの屋敷の持ち主になった小学生の小娘に取り入って、この屋敷に住むようになった女がいる、と。それだけだった。


 何より彼らにとって不運だったのは、この屋敷について一番情報を渡してしかるべき男が、自分と7人のアスリートが1人の女―――ほかでもない三条和希に、ことごとくKOされたのだという一番必要な情報を、彼らの雇い主に渡していなかったということだ。



「……なめやがって」



 とはいえ、この時リーダーたる男が冷静に考えていれば、一旦引くという判断もできたであろう。

 まだ、彼らは、何ら上泉邸の者に危害を加えていなかったし、敷地内に侵入もしていなかったのだ。


 しかし、リーダーは、思い切り煽るような態度で上から舞い降りてきたこの優男のような女に対して、瞬間的に頭に血をのぼらせた。

 彼の胸に少なからず、小学生にして億単位の遺産と広大な屋敷を手に入れた小娘への反感があったせいであるのはいなめない。



「っ、ざ、けんな……」



 手下の男が殴りかかった。

 その男に対して、女は――――和希は、避けようとしない。

 拳が顔の真ん中に叩き込まれようとしたその前に、くいと和希は上体ごと肘をかぶせるようにしながら拳を叩き落とした。拳は軌道をそらし、和希の胸をかすめていく。



「……どうも」ちょいと引きあげた前足で、目の前の男の腹を、「く」の字に折り曲げるように蹴りこむ。


 2メートル近くも後ろに蹴りとばされ、闇のなか声もなく崩れ落ちた男。



「正当防衛の証拠、どうもありがとうございました」



「…………こいつ……」



 リーダーがうめく。


 それを合図にしたように、数で抑え込めとばかりに男たちが駆けてくる。

 しかし和希は、フッと足を動かしたかと思うと、手品のように男たちの包囲網を突破する。



「!?」



 和希にすり抜けられて、狐につままれたような顔をする男たち。

 多人数の包囲を瞬間的に突破する。和希の十八番だ。


 そして、とっ、と、彼らのサイドに回ると、



「……ん、アッ……!!!」

 横蹴りで2人めを倒して、一歩入り、


「ぉ、がぁ……っ」

 上段後ろ回し蹴りで3人めを狩った。




「………………なんだよ、この女……!??」



 悲鳴のような声を、誰かがあげた。


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