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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第5話 武神の遺産と一族
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武神の遺産と一族(8)



 ……言い切りすぎた、と思った和希は、「と、私は推測します」と付け足した。



「えっとつまり和希は……

 私がこの屋敷を相続したことや、京都に来たことじゃなくて、下宿生を募集したことがきっかけになって、誰かがこの屋敷を手に入れようとし始めている。そう言いたいのか?」


「ええ。その誰か、は、1人ではないかもしれません。

 家主さんのおとうさまは、この屋敷を手に入れるよう頼まれたのではないかな、と。

 その相手の要望を叶えるために、社員を無理矢理つれてくるような、なりふりかまわない行動に出てしまう。それほど、弱味のある相手。

 たとえばですが……借金を肩代わりしてくれた相手、とか」


「でも、下宿生の募集がどうして……」


「いくつか、仮説があるんですが……」


「あ、俺、そのうちひとつわかった」



 トオルが生徒のごとく手を上げて言う。



「上泉綱三が収集した日本各地の武道の資料に、公表されるとまずい情報が入ってる系」



 和希がこくりとうなずき、「???」知有が首をかしげる。



「あのさ、ひいおじいさんが亡くなってからしばらくは、関係者も、誰がこの屋敷を受け継いだか、どんな人間なのか知らなかったわけでしょ。

 そのあと、武道家格闘家限定で下宿生を募集する、というのを聞いて、初めて知ったわけだ。

 新しい主が、『昭和の武神』の隠れた功績にとても敬意を抱いている、その長年にわたって収集した資料の価値を知っている人間だ、っていうことを」


「でも、ひいおじいさまは、研究成果をまとめた本を何度も自費出版していたし、資料のうちデータ化できたものは、おじいさまの協力のもと、サイトで見られるようになってる。

 確かに90%以上はまだデータ化できてないけど……そんな、すごい秘密が隠されてるとは思えない」


「うーん。まぁ、あくまで動機になる可能性のあるもののひとつってことで話を聞いてほしいんだけど。

 歴史って、物語として編集されるんだわ、結構」



 トオルは和希の顔をちらりと見た。



「たとえばテコンドーで言えば、空手がベースになってる。

 というか、1945年までは朝鮮半島は日本に併合されていたから、日本人として空手を習い覚えた人々が多々いた。

 それらを元にまた武道としてアレンジされていったんだけど。

 戦後は、空手という日本の武道をしているというのでは聞こえが悪いから新たな名前が必要になった。それで、チェ・ホンヒという人が、つけた名前がテコンドー。

 テッキョンという朝鮮の古来の武道と空手などをもとにして、チェ・ホンヒが作り上げたもの、ということにした」



 まぁ、そのあと実際に、チェ・ホンヒが一代で理論をまとめ『テコンドー』を作り上げていくんだけど、というトオルの補足を受けて、和希が続けた。



「そういうわけで、今でも多くのテコンドー団体が、テッキョンをルーツに含むということを『正史』として語っているわけです。

 そういったことが、他の武道でもある。

 その武道が語る『正史』には、創始者や今のトップに都合が悪いことが意図的に抜かされている、ということが往々にしてあるんです。

 そういう意味でいうと」



「屋敷を一軒まるごと買い取っても惜しくないほど、誰かにとって都合が悪い情報がそこに眠ってる可能性もある、ということですか?」



 考え込みながら慶史が尋ねる。

 それにこたえたのはトオルだった。



「……眠ってる、と思い込んでもおかしくない、ということかな。

 そしてその誰かさんは、切手を貼らずに手紙を投函できる距離に自分がいるんだと示すほど、面の皮が厚いわけで」



「とはいえ」



 和希は手元のタブレットを見た。

 そのタブレットは、知有のもので、屋敷じゅうについた防犯カメラの映像をうつしていた。



「手先のつもりで使おうとした男に、『あの屋敷の中のものが運び出されてしまうかもしれません』と泣きつかれれば、自ら殴り込んでくるような奴だろうとは予想してましたが……。

 その日のうちとはね」


「ん? もうきた?」



 トオルがワクワクした顔を見せる。

 なにも説明していなかったのに、さっきからの話でおおかた予想をしていたらしい。

 練習後なのに、ほんとに元気だな。



「すみません、家主さん」



 和希はタブレットを知有に手渡した。

 防犯カメラには、この暑いのに顔の下半分をネックウォーマーのようなもので隠した暴漢たちが、多々、映し出されていた。



「戦闘開始です」



 知有の表情が、自信を失った頼りなげなこどものものから、屋敷の主のそれへと変わる。

 屋敷の者を守る、責任感に満ちた顔に。


 知有は、ぱん、と、自分の両頬を平手で打って気合いを入れた。やってやろうじゃないか、と小さく呟く。




「この屋敷のあるじは、私だ」



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