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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第5話 武神の遺産と一族
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武神の遺産と一族(5)

◇◇◇



「ダメだ。

 おじいさま、まだニューヨークから戻れないって」



 書斎のパソコンの前で、再び知有が頭を抱えている。 



「一番の頼りが……」


「現社長が海外出張中に、一族でそういう会合を行うっていうこと自体、随分ですね」


「一族の中には、おじいさまと対立する人間も多いんだ……。

 今回の遺書の件は、おじいさまがひいおじいさまの意思を無視して生前に財産配分していた、って難癖つけておじいさまを非難する口実になる。

 だからこそ、私がその会合には出ていないといけなかったんだけど……」


「現社長には会合のことが伝えられておらず、家主さんには、お父さん以外にそれを連絡してくる人間がいなかった、と。

 みんな、までいかなくても、結構な人間がグルなんじゃないですか、これ」


「ああ~~~……もう……」



 机にぺたんとなって、うめく知有の頭を、あわあわした慶史がとりあえずなでなでする。


 慶史の指の間を、さらっさらの髪が流れていく。

 知有は、寄り添う慶史のお腹に顔をうめて、さらにうーんうーんとうめく。さらに慶史が知有をよしよしする。

 


「で、遺言書の現物の、コピーがこれですね。

 日付は、亡くなる3年前。

 この屋敷を含めて、細々と、各財産について、相続人が定めてありますね。不動産については、きちんと所在地と面積が明記してあって、土地と建物とに分かれています」



 遺言書の中で不動産についての記載は非常に気を使うものらしい。


 たとえば、東京の自宅は配偶者に、京都の別宅は長女に、といった書き方では、土地建物が特定できず、不動産の登記の変更ができない可能性があるからだ。



「で、もとの遺言書が、こちら、と」


「基本的に今回の相続分については変更ない。

 ただ、一点。生前贈与ということでもとの遺言書のなかには記載されていなかった、この屋敷に関して、私の父を相続人にする、って書かれてる」


「……ちなみに、家主さんのおとうさまについて言えば、そのお父上である現社長が存命のため、今回、法定相続人にはあたらないわけですが」


「おとうさまについては、いま住んでいる家がひいおじいさまの名義だったので、それを相続するようにと言うことだった。

 相続税が払えないとこぼしていたけど」


「ひいおじいさまである綱三さんの、こどもと孫にあたる人は何人いるんですか?」


「ええと、まず、おじいさまが5人きょうだいで、長女、おじいさま、次男、次女、三女、という構成で、こどもがいるのはそのうち、おじいさまと次女だけ。それぞれ3人ずつ。ひいおばあさまは既に亡くなっていた」


「それだけこどもと孫がいて、家一軒もらったのは、結構な配分だと思いますけどね」


「私も、そう思うんだけど…………」



 そう知有が言ったとき、こんこん、と、書斎の扉がノックされた。


「どうぞ?」


 知有が声をかける。


「失礼いたします」


 この屋敷に勤めている警護担当者の男性の1人が、コードレス電話の子機を持っていた。


「おとうさまから……お電話ですが、出られますか?」



 ビクッ


 知有の肩が震えた。

 険しい表情。和希は、知有に初めて会った日を思い出した。あのとき、父親が屋敷のなかに乱入してきた時も、知有はかたい表情だった。

 おずおずと、知有が、子機に手を伸ばす。



「……………………………………」



 和希は、知有ではない。

 人の親子関係に口を出せるほど、ご立派な人間ではないことも確かだ。

 だから、口を出すのは、多分、正しくない。


 …………悲しい顔のこどもを前に、正しさなんてくそくらえだ。



 和希は、子機を知有より先に奪い取ると、


「もしもし?

 お久しぶりです、負け犬さん」


電話の向こうの相手を、思い切り煽った。



『……おまえ、あのときの、女か!!』



 知有の父親は、以前乱入してきた時に和希に軽くKOされている。目論見どおり、あっさり頭に血をのぼらせたようだ。



『おまえ、その屋敷に住んでるのか!?』


「ええ。誰かさんみたいにこどもの持ち物を横取りしようなんて浅ましいことしませんから。どうです、羨ましいですか?」


『きさま……吠え面かくなよ!!

 その屋敷は、家財一式すべて、相続人である俺のものなんだからな!!

 机ひとつ、畳ひとつでも傷つけていたら、賠償請求してやるからな!!』



 家財、一式?

 ふと、知有の父親のその言葉に和希は引っ掛かりをおぼえた。



「残念ですが。

 家財一式は遺言書の中には入っていませんよねぇ」


『バカか、土地と屋敷が俺のものなら、当然屋敷のなかのものも……』



 ふむ。と、かまをかけるつもりで和希は続ける。



「立ち退きをとおっしゃるなら、我々は、それよりも前に荷物を運び出しておかないといけないですねぇ。

 この家には貴重な資料もありますし」



『バカ野郎ッ!? この泥棒が!!!』



 いきなり、大きくなる男の声に、じんじん痛む耳を押さえながら、和希はある確信を持って、続く言葉を言った。



「そうですね。貴重な資料を調査に使いたいと言っている研究者の方もいるので、そちらに預けるという手も、ありますね」



 灯台もと暗し。


 つい2日前に、東京からの客人に言われた言葉を、和希は思い出していた。




◇◇◇

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