武神の遺産と一族(4)
◇◇◇
「――――ありがとうございます。では、また」
電話を切った和希はスマホをジーンズの尻ポケットに入れながら、書斎のなかでしょぼくれている知有のもとに近づいていった。
「身内の弁護士に、軽く助言をもらってきました。さて」
和希は、先ほど自分が開封した手紙を広げた。
「ごめん、まさかこんなことになってるなんて……」
「郵便物は面倒でも開いておくにしかずですね。
後悔しても仕方がないので、状況を整理しましょう。
先日この屋敷になぐりこみ……失礼、この屋敷を訪問された家主さんのお父様が、再三手紙を送ってきた。
それによると、先日亡くなられた家主さんのひいおじいさんである上泉綱三さんの、より新しい日付の遺言書が、東京の屋敷から出てきた、と」
言葉にするだけで、うさんくさいこと、この上ない話である。
偽造、の2文字がふわふわ頭に浮かぶ。
しかし、うさんくさいと一蹴することもできないのだ。
「元々ほかに正式な遺言書はあったんですよね?
そういうのって、普通、弁護士さんとかが預かっているわけで……」
慶史が口を挟む。「だったら、有効じゃないんじゃ?」
「慶史。
基本的に遺言書は、日付が新しいものが有効、古いものが無効とされる。弁護士に預けているかどうか、という話じゃなく」
「そうなんですか?」
「日付をきちんと明記し、署名、押印がある。そして内容、署名、日付を自分の手で書いている。その他、必要なことが押さえられていれば、遺言書として成り立つ」
「じゃあ、その日付が新しいものがあったら、遺産分割をもう一回やり直すことになる、ということなんでしょうか?」
「ひいおじいさまが寝たきりになったのが6年前。
この屋敷の名義と、いま私が持っている貯金は、その頃から分割して毎年毎年贈与されたものなんだ」
「え? それなら、この屋敷については、関係なくなるんじゃ?
生前から故人の意思で贈与されたものだったら、税金さえ払っていれば」
「……が、私の母に確認したところ、そうは問屋がおろさない、ってさ」
和希は、先ほど、電話口で教えられたことを自分のなかで咀嚼しながら、言葉にしていく。
「寝たきりになった綱三さんに変わって、財産の管理をしていたのが、親子仲の良かった、現社長の三宗さん。
元々の遺言書を作った時点では、綱三さんと三宗さんが話し合って、それで知有さんへのこの屋敷の贈与が始まったとする。
しかし、途中で、違う内容の遺言書を綱三さんが作っていたとする。
つまり、故人の意思が途中で変わってしまったとも解釈できる」
「なるほど……じゃあ、一旦、一族で話し合わないといけない感じですね?」
「そう。話し合わないといけなかったんだ……」
知有は目を伏せる。
「いけなかった? って?」
「おとうさまのその手紙。
一族で、改めてきちんと遺言書と遺産分割について話し合わないとならないということで、おとうさま主催で会合を開くから来い、というものだった」
「小学生に、平日の昼間に来いって、まったくふざけてますけどね」
「え? え? つまり、その会合……」
話が見えてきたらしい慶史が、知有と和希を交互に見る。
そう、手紙を見るのが遅かったのだ。
知有は自嘲的に言った。
「3日前に終わってる」
「つまり、現状」和希はため息をつきながら言った。
「家主さんが、遺産について話し合う一族の会合に出なかった。という事実ができてしまっているってことですね」
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